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20 れきしのおべんきょう

「ふぁ~あ」

9時に起床。昨日の酒が抜けてない…きもちわるい…。


「う~…動きたくない…」

こんな日は家で療養していたいが、僕は魔力が低すぎる分勉学を頑張らないといい就職先に付けないのが世知辛い。

ああ、僕も魔力が1万…いや、5000くらいあれば、もう少し自堕落な生活を送れるのになぁ…。


立ち上がり洗面台に立つ。

そこにはいつもの僕がいる。目にかかるくらいの無造作なライトブラウンの前髪と、ヘーゼルの瞳が特徴だ。

それ以外はいたって普通の男である。




「おはよー」

「おはよう、イネス」


母さんに朝の挨拶をする。父さんはすでに仕事に出ていた。

「昨日は遅かったの?」

「そうだね、12時過ぎまでヨシュアとジョンと飲んでて、帰ってきたのは1時前だったかな」

「大学生してるわね~」

「あいつらは軍人だけどね。」


あの二人は本当にタフである。

ヨシュアは特に酒好きで、何よりも飲み会を大事にしている男だ。

去年二十歳になったばかりなのに、そうとは思えない酒の知識と摂取量である。

…飲酒は二十歳からなのに…まあそこは気にしない。


「あ、今日大学終わりに兄貴のところ行ってくるね。」

「あら、エマちゃんの家庭教師?」

「そ!今から楽しみ!」


僕の兄貴、ジェームズの10歳の娘エマちゃん。兄貴が二十歳のときにマリアさんと結婚して生まれた子供だ。

これがかわいくてしょうがない…僕の子供もあのくらい可愛くて優しい子になってほしいな…。


「ご飯はどうする?」

「うーん、分からないなー。向こうでご馳走になるかもしれないから、母さんの好きなようにしていいよ。何もなかったら自分で作るし。」

「はーい。」


用意されていた朝食を頬張り、大学に向けて家を出た。




「せんぱーい!」

「いだっ!?」


後ろから勢いよく抱き着かれた。

腰辺りに大きな柔らかい感触と、耳馴染みの良い声。ソフィーだ。

振り向くといつも通りの黒髪ボブで身長小さ目な元気っ娘がそこにいた。身長は小さいが出るとこは出ており、左耳にピアスを二つ開けている、いわゆるギャル系な女の子である。


「せんぱい!おはようございます!」

「痛いな~。はいはいおは「聞きましたよ!彼女と別れたって!!」


昨日起きたばかりの事件なのに何でもう知ってるんだ…。


「な…なんで知って「先輩のことは何でも知ってますよ!ということで今日私の家に遊びに来ましょう!」


「ごめんねー今日は姪の家庭教「ならいつ来れますか!?」


すっごいまくし立ててくる…。

「とりあえずソフィー、落ち着いて。昨日の今日で僕も傷心中なの。もう少し落ち着いたら遊びに行くから。ね?」

「うぅ…でも来てほしいんですもん…」

「もう、ソフィーも彼氏作ったらどうなの?彼氏がいるところ見たことないけど。」

「じゃあ先輩が彼氏になってください!」


うっ…痛いところをついてくる。

ソフィーとは、いわゆるタダレタ関係というやつだった。この子が1回生、僕が2回生のときに、サークルの飲み会でベロベロになった僕は気づいたら一人暮らしのこの子の部屋で朝を迎えていた。

お約束通り、起きたら二人とも生まれたままの姿で…って、その夜のことは何も覚えていないけど。


「えーっと…、今はまだ傷心中だからなぁ…すぐは難しいかなぁ」

「え!?じゃあ少し経てば私の彼氏ってことですか!?」


そこからソフィーに何度も家にお呼ばれし、『1回も2回でも変わらないじゃないですか!』となし崩し的に身体を重ねるようになった。

その時はもうクレアが好きだったが、いけないと思いつつ肉欲に溺れてしまっていた。


「うーっと、そうなる可能性はもちろんあるかもだけどぉ…」

「いっ…今の言葉!忘れないでくださいよ!」


そして4カ月前、クレアと付き合うようになってからは『ちぇー』と言って誘われなくなり、そこからは良い友人関係を築いていた。…別れた翌日に早速誘われてしまったが。

それまでは、彼女も軽いノリで身体を重ねてきてたからそういう気はないと思ってたけど、この子からこんな直接的に彼氏になってと言われたのは初めてだ。


「…うん、そうだね。また遊びに行くよ。お土産もっていくから期待しといて。イネス特製肉じゃがを持っていってしんぜよう。」

「うーーっ…ヤッターー!ほんとに、いつでも来てくださいね!!何時でもOKですから!」


正直、すごくうれしい。身体を重ねていたときはすでにクレアに気があったからこの子と付き合おうという発想にはなれなかったが、傷心中の今こんなことを言ってくれて実はかなり心が救われてる。

加えてめちゃくちゃいい子だから、付き合えば必ず好きになる自信がある。多分この子は『そういうこと』をするつもりで家に誘ってきているが、次この子の家にお邪魔するときはちゃんと彼氏になる覚悟をもって行こうと思った。


「うん、ありがとね。それじゃあ2限に遅れちゃうから。今日はサークルいけないから、また今度。」

「うん!またね先輩!」




「おじゃましまーす」

「あ、イネスくん。いらっしゃい。」

「お兄ちゃん!いらっしゃい!」


講義が終わり現在17時。

兄貴のマイホームに到着し、マリアさんとエマちゃんがお出迎えしてくれた。

お母さんの真似をしてるエマちゃん…かわいい…。


二人ともブロンド碧眼で、髪型はそれぞれマリアさんがウェーブのあるミディアムショート、エマちゃんはストレートヘアをポニーテールにしていた。




「よし、それじゃあ前回のおさらいから始めよっか。」

「はい先生!」

うーん、テスト前だけど100点あげちゃお。


「はいこれ。難しいかもしれないけど、テスト作ってみたよ。もし100点取れたら、お父さんとお母さんに内緒でお菓子あげちゃう!」

「ほんとぉ!?がんばる!」

「でも、お菓子は夜ごはん食べた後だからね。」

ほんとは内緒でもなんでもなく、頑張ったらお菓子あげていいと許可をもらってるし、100点じゃなくてもお菓子をあげることは僕の中で確定している。僕はずるい大人である。


「それじゃあ、はい。前回勉強した歴史のテストです。10分間でできるだけやってみて。」


小学生が習う歴史で出てくる人物は主に二人だ。

今の世界を創ったとされる偉人たち。一人は最近まで生きていたが、すでに教科書に載っている。

この二人は文字通り『神』に等しい存在であった。




「で…できた…と思う…」

「お疲れ様!よく頑張ったねー」

頭をなでなでする。ああ、もうお菓子あげちゃおっかな…。


「よーし、じゃあ一緒に採点しよっか。」

「うん…100点取れてますようにっ」


「えーっと、第一問、魔法歴が始まる原因となった人物は誰でしょう?」

「コリン・ヴァレンタイン!」

「正解!はなまるです!」

解答用紙にはなまるを書く。


原初の魔法使い、コリン・ヴァレンタイン。

この人が今の魔法社会の全ての始まり。


元々人間は魔法など使えなかったが、この人はなぜか魔法の力に目覚めながらこの世に生を受けた。そして魔法を時間制限なしで行使していた唯一の人間だ。


次の問題の解答が、全人類が魔法を使えるようになった理由になる。


「第二問、なんで魔法歴は始まったのでしょう。また、そうなるに至った理由はなんでしょう?」

「コリンのおかげで人が魔法を使えるようになったから!理由はコリンが海を止めたから!」

「惜しい!これは三角かなー。」

とっても惜しい。本当は丸をあげたいが、学校の先生はおそらく三角を出すだろう。なので僕もそれに準拠する。


現在魔法歴287年。

人間が魔法を行使できるようになってから287年が経過したということである。


「でもほとんど正解だよ!コリンは海を止めたけど、ただの海じゃなくて、海がどうなってる状態?」

「うーん…。…あっ!津波!」

「そう!津波だね!それで、津波を止めて、コリンには神様が降りてきたよね?コリンはどうなった?」

「う…うぅ…かみ…かみたち…?」


「惜しい!かみおち。神堕だね。学校のテストのときは津波と神堕までしっかり書こうね。」


神堕。

人類の歴史において、それが記録されたのは、ただ二度きり。神が天から落ちるかのように、ひとりの人間が、人の粋を逸脱した存在へと変質する。

発生と同時に、対象は法外な魔力量を獲得し、さらに因果や理を無視した超常的能力を伴うことが共通点として記録されている。


「コリンが神堕者になってから、唯一使えていた魔法が、その瞬間世界中の人が使えるようになったの。すごいよねぇ。」

「うーん、よくわかんない。」

「そうだよねぇ。でも!テストには絶対出るから覚えとくように!」

「はーい!」

えらい。テスト100点です。


「あ、これは僕のテストに書いてないけど、コリンは何分間津波を止めていたか知ってる?」

「10分!」

「正解!だから人間は10分間しか魔法が使えないんだよ!覚えやすいね。」


コリンは重力魔法の使い手であり、その魔力量は神堕以前から膨大であった。彼は2000kmの海岸に迫る津波を止めたとされており、それを可能とする魔力量は3億6千万と算出できている。

津波を10分間止め切り、その直後神堕したため、晩年の魔力量は今では知る由もない。

まあこれは小学生のテストには出ないけど。


「それじゃあ第三問!ここからは違う人だね。世界の科学力を200年進めたと言われている偉人は誰でしょう?」

「ニコラス・スターク!」

「正解!はなまるっと。第四問!この人物は魔法歴何年に神堕したでしょう?」

「えーっと…魔法歴…211年…」

「正解!!すごいね!」

「フフン!すごいでしょ!」

「ちなみに、この人が神堕したのは62歳のころだったんだよ。おじちゃんだね。」


ニコラス・スターク。世界で二人目の神堕者。

彼は神堕する前から天才数学者だった。

『スタークの等式』と呼ばれる、人類史上最も美しいと言われている数式を62歳の頃に導き出し、その直後神堕している。


「じゃあ最後の問題ね。この人物は神堕して、超常的な力を得ました。何ができるようになったでしょう?」

「うー…どうじ、へいこう、しこう…?」

「すごいすごい!正解だよ!同時並行思考!」

「うー、よかったー…」


彼は神堕し、『同時並行思考』を会得した。頭の中で複数の数式を同時に組み立てることが可能になったのだ。神堕してから死去するまでの5年間で、5000個以上の数式や仮説を打ち立て、現在はまだそのほぼ全てが検証中である。

ちなみに今世界中にある乗り物や薬や家電は、ほぼ全てがこの人がいたから出来たものだ。

便利な世の中にしてくれてありがとうニコラスさん。


「すごいなー。ねえねえ、神堕ってどうやったらできるの?」

「うーん、それは物知りなお兄ちゃんにも分からないなー。」

「えー。私も神堕したいなー」

「はは、お兄ちゃんもしたいな。」


神堕がなぜ、どうやって発動するかはわかっていない。

今一番有力視されているのは、まず神堕できる資格を持っているのが大前提で、それにプラスして資格所有者が普通に生きていたら起きえないほど大きく感情を揺さぶられた際に発生するのでは、と言われている。


「あ、でも神堕したらすぐわかるらしいよ。」

「えぇ?どうやって?」


「何かね、二人とも神堕したとき、頭の中から鎖を千切ったようなバチンッ!って大きな音が聞こえたらしいよ。エマちゃんもそれが聞こえたら神堕したってことかもね!」




「ふぅ~、お腹いっぱいだ。」

1時間の授業を終え帰ろうとしたとき、マリアさんから夕飯の誘いを受けた。

兄貴が帰ってくるのを待ち、19時ごろに食事を開始し、その帰り道。


「ふふっ、今週の土曜日、エマちゃんと何しよっかなー。」

食事中、兄貴夫妻と僕の両親の4人で映画を見に行くことになったと聞いた。

なにやら今話題のホラー映画で、鑑賞している間怖いのが苦手なエマちゃんの遊び相手になってほしいと相談を受けたのだった。

二人から謝られたが、これっぽっちも問題がなさすぎて何に謝ってるのだろうという感覚だった。


「10歳の女の子は何が楽しいのかな。アクセサリー作り?お絵描きはもう微妙かな…。あ!一緒におかし作るか!二人で食べて、残ったのを映画に行った4人に食べてもらうのは相当ありだぞ!?」


これは妙案すぎる!さすが偏差値58の大学に通っていることだけはある!冴えてるぜ!

ヨシュアやジョンじゃあまず思い浮かばないだろうナイスアイデアだ。

今から何を作るか考えちゃお~っと。


「…にしても神堕か~。」


この世界の全員が歴史の授業で習うことだが、正直眉唾である。

最初の神堕者コリンに関してはもう誰も本人を見たことがないし、二人目のニコラスに関しては、単に相当な天才だったってだけかもしれない。

二人とも自身で魔力量が増えたと語っていたそうだが、コリンに関しては謎だし、ニコラスも魔法を全く使わないで研究に没頭していた。


「もし自分にそんなことが起こったらどうなるんだろ?」

もし魔力8の自分が神堕したらどうなるんだろうか?

ドカッと増えて1万になったり?…それでもジョンやヨシュアにも負けてるのか…泣けてくるよぉ…。


「っま、億が一にもないだろうけどねー。」

そんな100年に一度起きるかどうかの奇跡が自分と同じ時代、ましてや自分に降りかかるなんて、彼女に4カ月でフラれるような端役は考えるのもおこがましいってものだ。


「…あっ」

そんな宝くじが当たるより確率の低い妄想をしながら歩いていると、よく見知ったアパートの前に出た。


「ソフィーの家だ…」

兄貴の家から実家へ向かう徒歩三十分の帰り道、その途中に彼女は住んでいた。

今朝のことを思い返す。


『じゃあ先輩が彼氏になってください!』


「…本当に僕と付き合いたいと思っているのかな…。」

まあ体を重ねるくらいだから憎からず思っているのかもしれないが、これを鵜呑みにして次お邪魔するとき『よう!付き合おうぜ!』と言って断られたら恥ずかしすぎて泣いちゃう。あととってもショック。


「うーん、でもこのままズルズルいくのは良くないよなぁ。」

向こうが本当にその気なら、身体だけの関係はソフィーに対してとても残酷で非情な行いになる。

そういう行為が好きなだけで僕としているのであれば問題はないかもだが、その先を望みながらという場合、その気持ちを無視していられるほど僕は人情を捨てきれていない。


「…まあなんにせよ、一回話し合うしかないか。」

時間は欲しいと言ってある。もうちょっと心が落ち着いたら二人で出かけでもして本音同士で話し合ってみよう。


「よしっ!」

近い将来の予定も決まったし、家路に向かって再出発だ!

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