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19 傷ついた心の癒し方

魔法歴287年


メライカ大陸の南西部に位置する国、アルカリグ。

この国の小さな港町のとある酒場で、3人の青年が神妙な面持ちで木造の円卓を囲んでした。


「あの…さ…」

「おう…」

「準備は…できてるぞ…」


口を最初に開いたのは僕、イネス・ウエステイル。

今日は重要な話があるからと僕が皆をこの場に呼んだのだった。


「ぶ…」

「ぶ…」

「…」


「ぶぇぇえええええええ!フラれたよぉぉおおお!」

「ぶわははははは!」

「ぎゃははははは!」


そう、僕は今日、4カ月付き合った彼女にフラれたのだった。


「ぶぇぇぇえええ!クレアなんでぇぇぇえ!」

「最高だ!最高すぎる!!マスター!ビール3杯!!」

「今日はしこたま飲めるぞー!なんたって肴がうまい!」


こいつらキライ…。

マスターがジョッキを3つ持ってくる。


「ふぐっ、ひぐっ、なんでぇ、僕はいつもこんな簡単にぃ、フラれるのぉ…」

「そらお前!8だからだろ!」

「そうだぞ!俺らの千分の一以下の魔力しか持ってないのに彼女作りやがって!あーおこがましい!」


3人でジョッキを一気にあおる。


「ううぅ…僕だって好きで8なんじゃないよぅ…」

「そりゃそうだろ!好きでそんなゲキヘボな数字選ぶわけないもんな!がははは!マスター!おかわり3杯!」

「そもそもズルいんだよ!3人で唯一大学に通ってサークル入って女の子とイチャつきやがって!!身の程をわきまえなさい!」


だって魔力8なんだもん…。二人みたいに軍に入れるわけないから大学行くしかないじゃん…。

マスターがお代わりを運んできた。


「んっんっんっ…ぷはぁ!それで?今回の彼女はどこが良かったのさ?最後の供養くらい聞いてやるよ。」

さっきからビールを頼みまくってるこの男、ヨシュア・マルーンが聞いてきた。

顎下に髭を生やした優男で、軍人だ。

高校を卒業してから軍に入隊し、たんまり金を稼いでハイエンドな生活をしている。


「えーっとね…体の相性がめっちゃ良くてさ…今までの彼女で一番だったと思う…」

「…」

「…」


「お家デートとかしても、ご飯作るのとか食器洗うのとかお風呂掃除するのとか全部僕一人でやってたんだけど、そのあとがね…本当にもう…最高でさ…」

「…」

「…」


あぁ、これは当分忘れられそうにないな…。もちろんそれだけじゃなくてすごくいい子だったし…。

…ん?


「なんかしゃべってよ二人とも…」

「うーん、これはですねぇ、良くないですねぇ。軽く見積もって死刑だと思います。」

「死刑執行!」

「あつ!熱ッ!やめてよジョン!」


スプーンの先を少し熱して僕の腕に押し付けてきた。

軍人が軍務以外で魔力を使うのは軍規違反だろ。

まあもう22時を過ぎているからすぐ回復するけど。


「君は!顔が良いだけでそんな甘い思いを!死刑だ死刑!」

「あ、熱いってぇ!」

「今のは弁護士もつかないほど悪質でしたからねぇ。傍聴人も頷いておりますよ。」

マスターを見たらうんうん頷いていた。僕は傷心中だぞ…。


僕の死刑執行人であるこいつはジョン・ミュラー。こいつもヨシュアと同様、軍人だ。

ヨシュアに比べガタイが良く、いつもその筋肉を見せびらかすためタンクトップを着ている。

もうちょっとおしゃれしたらモテるだろうに。


「ふぅ~~。今日の死刑はここまでにしてやろう。次また惚気たら死刑再開となります。」

死刑再開?文法的にありえるのかな。


「死刑も落ち着いたし、しょうがないから聞いてやるよ。別れた原因は?」

ヨシュアが聞いてくる。


「…魔力8だから…。」

「ぶわはははは!やっぱりか!!んッんッんッ、くぅ~!ビールお代わり3杯!」

「なぜ!なぜ魔力8でそんな彼女がわんさかできるんだ!!俺は6万4千だぞ!今まで彼女できたことないぞ!単純計算お前の8000倍彼女できてるはずだぞ!?」


「魔力は関係ないでしょ…あとわんさかじゃないよ、今回が3人目だよ…」

「なら!俺は2万4千人彼女ができてないとおかしい!!そうだよなヨシュア!」

「いや、そいつは違うな。こいつは大学に通っている。大学は軍の1万倍彼女ができやすいと歴史の教科書に書いてあった。我らと同じ条件であれば0人のはずだ。」

「なるほど!そういうことだったのか!イネスが不正してたって訳か!!ふぅ~よかった~。これには執行人も安堵ですね。」


「軍ってそんなに彼女できにくいの?女性もいっぱいいるのに。てか高校同じだったじゃん。そのときも僕彼女いたよ?」

「…」

「…」

あ、まずそう。


「死刑再開!」

ヨシュアが僕の手首をつかんでパチッと電気を送ってきた。少し強めの静電気だ。


「いてっ!ちょっとぉ!執行人が二人いるのはおかしいんじゃないの!?」

「おかしくない!おかしいのはお前とこの世の女性たちだ!」

「いけ!いけ!俺の分も苦しめてやってくれぇ!」

パチッパチッと静電気が手首を何度も刺激する。

ジョンは両手を握りしめヨシュアを応援している。


「軍に報告しちゃうぞ!」

「それでも俺は!ここでお前を傷つけないと!今夜寝れないんだ!」

「そうだそうだ!童貞の恨み妬みを思い知れ!」


何回か静電気を食らわせ、ヨシュアも満足したらしい。

「ふぅ、ふぅ…。次から気を付けたまえよ。」

「痛かったよぉ…」

「俺たちの!心の痛みを舐めるな!」


でも、電導石を使わずにあんなに電気を出せるなんてすごいなぁ。いいなぁ。

「あれ、ヨシュアって魔力どれくらいだっけ?」

「ん?お前みたいなのに答える義理はないが…3万2千だな。軍に入るのギリギリだった。」

軍入隊の魔力量足切りラインは3万だ。この国の人口の約0.5%にあたる。


やっぱり魔力3万はないと、そんな芸当できないよなぁ。


「いいなぁ、僕も大学行かずに、軍に入隊したかったなぁ。ちょっと過酷そうだけど圧倒的にお給料いいし。」

「まあ、軍はいいところだよ。基本は座学と筋トレ、それに巡回と隔週の魔法訓練で一日が終わるし。災害対応が入ることもあるけど、今のとこ世界も平和だからねぇ。」

「給料も俺たちみたいに入隊3年目でも、そこら辺の中小企業の役員くらいもらえるし、最高だよ。」


二人が羨ましいことこの上ないことを教えてくる。多分すでに僕が定年間際にもらえる給料より多くもらっているのだ。

…うぅ、そう考えるととんでもなくやるせない。


「魔法訓練はどう?」

「そうだなぁ、俺は電気魔法師だから結構キツイな。他の魔法と比べてもうまく使えるようになるまでどうしても時間がかかっちまう。」


電気魔法師の魔法は基本、自分の身体能力の向上だ。神経に流れる電気信号を最適化・増幅させることでとんでもない反応速度を得ることができる。また同じように電気で普段眠っている筋繊維を強制動員させることで筋力の大幅アップも可能だ。

他にも、足裏に微弱な電気フィールドを作り出し、地面との反発力を増やすことによる速力アップや、攻撃が当たる瞬間に筋肉を電気で瞬間収縮させることによる防御力アップもできる。


まあ、同じ電気魔法使いであっても僕は魔力不足でほとんどできないんだけどね。


電気魔法師は電導石という特殊な鉱石がないと基本体内でしか魔力を練れない。魔法を活用する際に体から漏れ出て可視化されることはあるが、さっきみたいにパチパチと僕に電気を打ち付けてきたヨシュアは、地味だが実はかなりハイレベルなことをしていた。


「俺は熱魔法師だからそんな苦悩も少ないな。熱魔法は物体を加熱するか空間を加熱するかの2択だから、かなりシンプル。訓練はもっぱらどこを熱するかの精度向上だな。」

「そっかー。魔法師によっていろいろなんだね。」

魔力量の高い熱魔法師は、冬場に凍った道路を溶かしたりできる。魔法制御が上手な人はその場を動かず町中の道路のみを熱して溶かすことが出来たりする。

すごいしありがたい。


あ、気になること聞いてみよ。

「そういえば、重力魔法師って見たことある?」

「ん?んー。なあジョン、これって言っていいんだっけ?」

「あー、まあイネスならいいんじゃない?一応内部情報だから普通はNGだけど。」


「あ、そういうことなら言わなくて良いよ!ちょっと気になっただけだから。」

「そう?まあ、今のが答えってことで。」

その言い方からするに、多分軍に重力魔法師はいるんだろうな。


重力魔法を行使できる人間は非常に少ない。

人口の約60%が熱魔法師、30%が電気魔法師、9%が光魔法師、そして重力魔法師は0.01%未満と言われている。

そして人間は全員、生まれながらに使用できる魔法が決まっている。


「ちなみに、まだ世界一の魔力量はリティッシュ・ランバ軍のザック・シルヴァン大佐のまま?」

「あったりまえだろ!あのお方は10億だぞ10億!バケモン!単純計算で半径6キロメートルの空間温度を100度も上昇させることができるんだぞ!あんな人が一人いたらそれだけでどこの国も攻め込めねぇよ。同じ熱魔法師として尊敬…というか名前を口に出すのも恐縮するレベルよ。」

「間違いなくあの人は死ぬまで世界一だろうな。」


すごいなぁ、かっこいいなぁ。

まあ、僕には銀河の果てと果てくらい関係のない話だけど。


「ちなみにジョンはどれくらい空間を熱くできるの?」

「…半径150メートルを…10度…。」

「こらイネスくん。ジョンくんの自尊心を傷つけるのはやめなさい。」

「…いいもん。半径50メートルなら100度上げられるもん…。」

「ジョンごめんって…。僕が魔法好きなの知ってるでしょ?あと、ジョンの6万の魔力も相当すごいって!将来は尉官も視野じゃん!」


なんかしょげてたから慰めてみる。

…あれ?立場違くない?今日僕が慰められる会じゃなかったっけ?

そういえば、慰められる理由ってなんだっけか…

あっ!?


「う、うぅ…クレアぁ…」

「は!?何いきなり泣き出してんのコイツ!」

「あ、今日コイツの慰安会やん忘れてた。」

「あ、そうか。」


二人ともひどい…


「まあまあイネスくん、立ち直りなさい。大丈夫、女は星だぜ?」

「ヨシュアめんどくさくなってるじゃん…」

星の数ほどいるぞ、でしょ…。


「大丈夫だイネスよ。薬が一番だろ?」

「何言ってるか分かんないよジョン…」

時間が一番の薬になる、って言ってるのかな…。


「まあ実際問題、そんな女別れて正解っしょ。お前の魔力が少ないからって理由だけで別れたんだろ?」

ヨシュアがビールをちびちび飲みながら話してくる。


「多分そう…。なんか魔力5千越えの男捕まえたって…。就職に有利だからって…ううぅ。」

この国の人の魔力量は中央値が2千である。なので5千は十分優秀で、8の僕は規格外のしょぼさなのである。


「ああ!?俺6万オーバーだぞ!!っざけんな俺にこいや!」

「ジョンと兄弟はやだよぉ…」


「まあそういうことで、別れて正解よ。身体が良かっただかなんだか知らねえけど、その女は内面より金を見てるってこった。そんな女と結婚しても幸せになれないと思うぞ。」

「そうかなぁ…」

身体だけじゃなくで、本当に好きだったのに…。


「そういうことにしとけ。またしばらく楽しい独身生活を味わうんだな。」

「そう…だね…。くよくよしても変わらないしね。二人とも今日はありがとう…。」

ヨシュアはなんやかんや慰めてくれる。いいやつだ。


「おう!俺に感謝しろよ!」

ジョンは今日変なことしか言ってない。やなやつだ。


「そういえば話変わるけど」

ヨシュアがさっきまでと打って変わって真剣なトーンで話し始める。

「2週間前リティッシュ・ランバに行ったお隣の外務大臣、まだ帰ってきてないみたいだな。」

ああ、その話か。


今世間はその話でもちきりになっている。

この国の東に位置しているアータバル。そこの外務大臣が世界一の先進国であるリティッシュ・ランバに先々週訪問し、そのまま消息を絶っているのだ。


「ああ、その話ね。…実はさ。」

珍しくジョンが真剣な表情になり、身を乗り出し小声で話し始める。

「情報部のやつらが言ってたんだけど、マジでヤバいみたいだぞ。大臣はおろか、リティッシュ・ランバのどことも何の連絡も取れない状態らしい。しかも、アータバルが調査のために軍艦を送り込んで、これも連絡が取れなくなったってよ。最後に確認が取れたのは、到着した時に通信で聞いた『山がない』と『死体が動いてる』の二言だけだったってさ。」


僕なんかが聞いて言い情報なのかと、かなり怖くなった。

それ、さっきの重力魔法師の有無よりずっと重い機密なんじゃないの?

僕は黙ったまま二人の会話を聞き続ける。


「それは怪談話?」

「ガチ。この状況が続けばアータバルがリティッシュ・ランバに宣戦布告するかもしれないって。」

「…俺たちに影響あるかな?」

「分からない。アルカリグとアータバルとリティッシュ・ランバは、3カ国間でかなり仲が良い認識だし、そうなった場合この国がどうするのか見当もつかない。しかも電導石は今のところリティッシュ・ランバの特産品だし…。もしアータバルが宣戦布告しても、電導石がないと国が回らないのも事実だからウチがどっちに着くかマジでわからん。」


…二人がさらに怖くなる会話をしている。

リティッシュ・ランバは世界中を見ても圧倒的な先進国だ。門外不出の謎の技術力で、10階以上もある高層ビルを超スピードでバンバン建てている。

その技術を見せないためか、リティッシュ・ランバは鎖国している。政府の役職者が何カ月も前に申請をして、やっと入国できるといった徹底ぶりだ。


そして軍事力も圧倒的である。

世界一の魔法師であるザック・シルヴァン大佐を筆頭に、他にも魔力100万オーバーの化け物が数人おり、軍入隊の足切りラインが5万とこの国より高いくせにこの国の2倍以上の軍人がいる。


正直、この国とアータバルが束になっても戦力差は圧倒的にリティッシュ・ランバだと思う。

しかもその謎の技術力で未知の兵器も開発してたりしたら…。


「…はいはい!二人ともやめ!ここに一般人がいますよ!」

あまりの恐怖に会話を止める。

「あ、ああ、そうだな。」

「悪い、軍内部も少しザワついてて、俺も不安でこんな話しちまった。」


なんだよぉ、この雰囲気…。もっと楽しく僕をいじってくれよぉ。

…よし。


「そんなだから二人とも彼女できないんだぞ!空気が読めてない!!」

「ああ!?言って良いことと悪いことがあるだろ!今日は奢りなしだ!」

「…神よ、どうかこの者に天罰を…」




そんなこんなで最後は結局楽しい飲み会となった。

あの後は僕に対する恨み妬み呪いばかりだったが、あいつらが茶化してくれたおかげで大分気分も晴れた。

そして結局2人が奢ってくれた。やっぱいいやつらだ。


二人と別れて、春の夜空を見上げる。もう24時を過ぎていた。

「まだ少し冷えるなー」

とりあえず、今日のところは帰ろう。

明日も大学だ。2限からなのが救いだな。


そういえば!明日はエマちゃんの家庭教師だ!

それだけで傷心中でも頑張れる!


少し軽くなった心を感じながら、僕は速足で家路についた。




やっぱり、この世界は優しさと支え合いで回ってるんだな。

僕が見渡せる、手の届く範囲だけでも、誰かの支えになれる人間でありたいと思った。

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