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17 僕の大好きな場所を君に

村に到着するころ、日は完全に落ち夜になっていた。


「少しここで待っててね。」

アヤさんを村の敷地の少し外、生い茂った木の内の1本に寄り添わせる。

「ギン、ここでアヤさんを守っててあげて。」

ギンは何も言わず、アヤさんのそばに座っていた。

「えらいね。すぐ、戻るよ。」




家に戻り、扉を開ける。


「ただいま。」

昨日と同じように、親父と母さんが血相を変えて僕に詰め寄る。

「ジン!ジン!!大丈夫だったか!?」

「ああ…良かった…本当に良かった」

「ナタリーはいる?」

「ここから最寄りの人間の居住区で、大規模な魔法の行使があったって聞いてな。俺たち気が気じゃ…ナタリー?」

「ナタリー、いる?」

「あ、ああ。おーい!ナタリー!」

「大丈夫?大丈夫なのね?ジン。どこにも怪我はないわよね?…え?」

母さんが僕の体を確かめ、驚愕する。

「背中が…治ってる…」




「なーにー。あ、兄ちゃん!おかえり!デートどうだったさ?」

「みんな、僕についてきてほしいんだ。」

「「「え?」」」

騒々しくする家族と会話をしようともせず、要望だけを言う。

その姿に、皆は違和感を覚えながらも、有無を言わせない僕の雰囲気を察して、全員靴を履き始める。




家族全員で外を歩く。アヤさんが待っている場所まで、案内をする。

そうだ、聞いておきたいことがあったんだ。


「ねえ、親父、母さん。」

「ん?なんだ?」

「僕って二人の実子じゃないでしょ」

「「!?」」

「え?何?どういうこと?」


ああ、やっぱり。そうだよね。おそらく僕は、人間とグルガル族とのハーフだ。魔法が使えるようになったんだ。グルガル族じゃ、ありえない。

でもそんなこと、どうでもいい。


「うん。ありがとう。でも、僕からしたら二人が本当の親だから。だから、これからも変わらず一緒に生活したいな。…ダメかな?」

「ダメな訳ないだろ!」

親父が声を荒げる。

「お前は、俺たちの息子だ。今までも、これからもそうだ。俺たちがお前の家なんだよ。一緒に生活するに決まってるだろ。」

「うん。ありがとう、親父。」

僕のただならぬ雰囲気に圧倒され、母さんとナタリーは押し黙ってしまっている。




もう少しでアヤさんのいる場所だ。

「ねえ、みんな。僕ね、二日前に彼女が出来たんだ。」

誰も何も言わない。

「ごめん、みんな。その子ね、人間なんだ。」

「え!?」

ナタリーだけが反応を示す。やっぱり、母さんも気づいてたのか。


「それでね、皆にもあってほしいんだ。でも、ちょっと事情があってさ。」

「…事情って、なんだ?」

「その子ね、今日、僕のせいで死んじゃったんだ。さっき親父、人間の町で魔法が行使されたって言ってたよね。あれ、僕なんだ。」

3人が立ち止まる。そりゃあ、そうだよね。


僕も立ち止まり、振り返り3人に目をやる。全員、ひどい顔をしていた。

「昨日その子と一緒にいたところ、その町の人間に見られてたみたいでね。その子は、いろいろなひどい罵声を浴びせられながら、人間に処刑されたんだ。その時から、なんでか知らないけど、魔法が使えるようになったんだ。だから、その町を壊した。」

皆が信じられないという顔をしている。母さんの息は浅くなり、ナタリーは目を涙ぐませている。


「それで、彼女をこの村で埋葬してあげたくてさ。僕の一番のお気に入りの場所で。でも、その前に、家族に会わせたいと思ったんだ。ごめんね、ただの僕のわがままだ。それで聞きたいんだけど、今、この村に軍人はいる?」


僕は振り返り、再び歩き始める。まばらにだが、後ろの三人も僕の後に続いてきてくれた。

「…軍人は全員、最寄りの町の調査で出払ってる。」

「そっか、よかった。それなら彼女をあの場所まで連れていける。ありがとね。」


グルガル族は魔法が使えないというのが常識だ。魔法で滅ぼされた町なら、まず僕らに疑いがかけられることはない。

僕が犯人だとバレるまで、まだまだ猶予がありそうだ。


「もう、つくよ。あ、ナタリー、ここまで来てもらった後に言うのもなんだけど、かなり残酷で衝撃的な光景だと思うから、ここで待っててもいいんだよ。」

「……私も、行く。」

「ごめんね、ありがとう。」




数分後、アヤさんの前にたどり着いた。

彼女は僕が去った時と全く同じ態勢で僕らを待っていた。木に寄り添い、両手をお腹の上で合わせている。

その左手の薬指に、僕からの指輪を嵌めながら。


彼女の姿を見た瞬間、ナタリーは少し遠くへ行き、嘔吐してしまった。ごめんね、ナタリー。


「…」

親父が無言で近づく。そして、顔を少し見つめてから、ゆっくりと抱きしめる。

「君が、アヤさんだね。息子を愛してくれて、息子に愛を教えてくれて、ありがとう。もっと、違う形で会いたかったよ。」

そう言い、離れる。母さんは涙をポロポロ流しながらアヤさんの肩に手を置き、ごめんなさいと繰り返している。それが何に向けた謝罪なのか、僕には判断が付かなかった。


ナタリーも落ち着きを取り戻し、アヤさんの前でしゃがみこむ。

「…きれいな方だね。」

「そうだね。僕にはもったいないよ。」

「どうやって出会ったのか、また教えてほしいな。」

「うん、もちろん。多分僕の、最初で最後の浮ついた話になると思うから。」

それを聞き、全員何も言えなくなってしまった。




ギンのことも軽く紹介し、みんなに目を向ける。

「じゃあ、そろそろ埋めてあげないと。親父、軍人は今いないんだよね?」

「…ああ、そのはずだ。お前のお気に入りの場所ってのは、あの海が見渡せる丘の上か?」

「うん。そこに埋葬してあげたいな。」

「分かった。念のため、俺が先に行って、周りを見ながら誘導する。」

「ありがとう。あ、あと、埋葬が終わったらガルシアさんに会いに行きたいんだ。みんなついてきてくれるかな。」

ガルシアさんはこの村の村長、グルガル族の長だ。

「俺はかまわないぞ」

「私もいいわよ」

「私も」

「うん。ありがとう。」

僕はアヤさんを抱きかかえ、丘に向かい歩き出した。




「あ、カドラー家だ!おーい!」

丘に向かっている最中、アリエルの声が聞こえた。その方向を見ると、モモア家の3人がこちらに向かって歩いていた。

…まあ、村の中を歩いてたら、そういうこともあるわな。


僕の家族が硬直する。見られたらまずいと考えたのだろう。

「みんな、大丈夫。」

もう、いいよ。疲れた。それに、アリエルにはいつか話すと言ってあるし、ご両親も僕に彼女ができたことを知ってた様子だった。いずれ話すことが、今になっただけだ。

…それに、もう少しでこの国は変わるから。


「ジン君!背中はだいじょ…う…ぅえ!?」

アリエルがこちらに走ってきて挨拶をしようとするも、僕の腕の中をみて驚愕する。

「いや~皆さんこん…!?」

「どうしたのよあなた。…ッ!」

3人とも同じ反応を示す。そりゃあ、そうだ。この村にいるはずのない、人間がここにいるのだ。それも、息をしていない子が。


「みなさん、こんばんは。驚かせてしまって申し訳ございません。紹介させてください。僕の彼女の、アヤと言います。」

僕の家族含め、全員、何も言えないでいる。


ああ、多分、僕は今みんなの目には異常者のように映っているんだろうな。いや、異常者か。多分、アヤさんが殺められたその瞬間から、僕は変わってしまったんだと思う。


「今日、この子に不幸がありまして。これから埋葬しに行くところなんです。すみません、先を急ぎますので、今日はこれで。」

向こうもどう言葉をかければいいか分からないだろう。気を使わせないために、僕は歩き始める。それにつられて、僕の家族も足を動かす。


「まって!!」

立ち止まる。振り向いたら、アリエルがこちらに向かい歩いてきていた。

「私も、ついていっていい?」

「…いいよ。一緒に行こうか」

どういうつもりかは分からないが、この子のことだ、何か考えがあるに違いない。

5人で歩き始める。アリエルのご両親はその場で立ち尽くしたままだった。




優しい海風が吹く、丘の上に到着した。

「みんな、ありがとうね。穴を掘るから、少しだけ待ってて。」


そう言い、僕がいつも寝転がる定位置の横にアヤさんを寝かせ、その定位置に穴を掘り始める。

ここが一番景色がいいんだ。アヤさんには、気持ちよく眠ってもらいたい。


何も道具を持っていないので、手で掘り始める。いつも工事で穴を掘ってるから、こんなものお手の物だ。


一人で掘り進めていると、後ろから穴を掘る音が聞こえた。アリエルが、一緒になって穴を掘ってくれていた。

「ありがとう、アリエル。でもそんな気にしなくていいんだよ。」

「ううん、やらせて。」

「…分かった」

何を考えているのだろう。言葉も交わしたことがない、大嫌いなはずの人間のために。


「アリエルちゃん、少し交代してくれ。俺たちも手伝いたい。」

親父がアリエルに話しかける。見ると、親父の後ろに二人もついてきていた。

「分かりました。」

「ありがとう」

親父と交代する。5分ほど掘り進め、次は母さん、その次にナタリーと交代した。これでここにいるみんなが、アヤさんのために行動したことになる。

…アヤさん、うれしいね。少なくとも、ここにいる全員は、アヤさんのことを認めてくれているよ。だから、ここで眠っても、さみしくないよ。




数十分で、深さ2メートルほどの穴が完成した。アヤさんを抱きかかえ、穴の中に飛び降りる。

アヤさんをきれいに寝かせ、最後にその顔を見つめる。


「…今生の別れに、なっちゃうね。でも安心して、いっぱい会いに来るから。…でも多分、これからすごく忙しくなるから、来れなくなることも多いと思う。あらかじめ謝っておくね。ごめんなさい。」

その冷たくなった手を握り、アヤさんの顔に僕のそれを近づける。


「バイバイ。愛してるよ。」

そして、額にキスをした。




穴から這い上がり、皆でアヤさんの上に土をかけていく。


僕がアヤさんへ最後の挨拶をしてる間に、親父が近くらか1mほどの縦長の石を持ってきてくれていた。


穴を埋め終わり、その上に墓石を置く。

お墓の前に膝立ちになり、両手を合わせる。後ろでみんながごそごそする音がする。おそらく、皆も同じようにしてくれているのだろう。


数分間の祈りを終え、立ち上がる。皆も同じように立ち上がりその場を後にする。…アリエルを除いて。

アリエルは祈りを捧げたまま、数分間その場を動かなかった。




時刻は24時を回ったところだろう。体感の話だけでなく、僕の本能がそれを理解する。


…魔力が、戻った。

正確には魔力というより、魔法を行使する力が戻ったというところか。

そして直感的に理解する。

…魔法は、1日10分のみ行使可能、24時を過ぎると再度行使可能となるのか。


変な条件だ。こんな条件になった理由でもあるのだろうか。それも、おいおい調べていこう。

とにかくこれで、先に進める。思ったより早く行動が出来そうだ。


アリエルの祈りが終わる。立ち上がり、こちらに近づいてくる。

「遅くなりました。待たせてしまいすみませんでした。」

「ううん、ありがとうね、アリエル。」

「こちらこそ、連れてきてくれてありがとう。」

アリエルが力なく微笑んだ。ああ、人の笑顔を久しぶりに見た気がする。僕はこれから、心から笑える時が来るのだろうか。


「僕たちはこれからガルシアさんの家に行くけど、アリエルはどうする?」

「私は家に帰るよ。お父さんとお母さんが心配だし。」

「そうだね。それがいいと思う。」


おそらく、またすぐ会うことになる。

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