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10 ただの暇つぶし

「「「「いってきまーす」」」」


いつものように4人で家を出る。

昨日は本当にいろいろなことが起こったため、昨晩は全然眠れず、一般的なグルガル族と同じくらいの睡眠時間になってしまった。今日大丈夫かな…。


「「「いってきまーす」」」

「あっ…」


まあ、そうなるよな。

出勤時間がお隣のモモア家とかぶってしまった。

まあ、二日に一回はこうなるし、しょうがないことではあるが、今日くらいはかぶってほしくなかった。


「おーモモアさんご一行。おはよう。」

「おっ、みなさんおはようございます」

大黒柱同士が朝の挨拶をする。


「皆さんおはようございます。ジン君も…おはよ」


アリエルが、いつもと変わらない挨拶をし、僕の隣を陣取る。だが、その目は少し腫れていた。

昨日のことがあったのにいつも通り接してくれて、本当にうれしい。この子とはこれからも末永く仲良くしたいと思っている。

僕の周りの女性は、強い人ばかりだ。


「皆さんおはようございます。おはよ、アリエル。」

全員に朝の挨拶をする。

いつも通り、父親同士と、母親同士プラスナタリーで話し始める。そして、僕はアリエルと。

アリエルが僕の隣に来る際、ご両親から優しいまなざしを感じたのは勘違いではないだろう。




駅が近くなり、人が増え始める。いつものごとく、僕らの会話も終了する。

「あ~あ、やだな~。今夜合コンなのに、こんな場所で仕事なんて、死臭が移っちまう。」

「え~いいな~。俺も連れてってよ。」


駅の前に、いつものごとく見張りの軍人がダルそうに世間話をしていた。今日も今日とて人間は楽しそうだ。


少し遠くから軍人を見てると、その前を通ろうとする小さい影に気づく。

久しぶりに見る、僕より背の低い男性だ。と言っても、ほとんど変わらないけどね。


ああ、ヴァレン君だ。そうか、あの子も今年が10歳になる年だ。

ということは、もしかしたら今日が初出勤なのかもしれない。頑張れ少年。外の世界はなかなか過酷だぞ。


僕たちグルガル族は、男は10歳、女は12歳になると仕事を始めないといけない。それまでに、最低限の読み書きを叩きこまれる。


ちなみに、我々が何の仕事をするかを選択権は、人間にある。

我々に選ばせたら、この村を出て仕事をするなんて物好きはいないからだ。

この村内にもいろいろな仕事がある。一番大きいのは金属加工業、続いて農業で、そのほかにも小さい業種がちょくちょくある。

まあ、金属加工業の100%、農業の99%以上の成果物が人間に搾取されるんだけどね。本当に、奴隷だ。




引き続き目でヴァレン君を追う。びくびくしながら歩く姿に、一抹の不安を覚える。

彼の両親は村内の仕事のため、知らない人ばかりという状況がさらに恐怖を駆り立てているのだろう。


そして、恐れていたことが起きてしまう。


軍人の目の前を通る際、あまりの恐怖からか足がほつれ、転んでしまった。そして手に持っていた、新品の工具箱を落とし、中身が飛び出る。


「んあ!?痛ってえなぁおい!!」

工具箱に入っていたモンキーレンチが、軍人の足に当たる。絶対に痛くないはずなのに、大げさに声を荒げる。


「ひぃ!ご、ごめんなさいごめんなさい!」

ヴァレン君が反射で言葉を発してしまった。


くそっ!まずい!

ヴァレン君が声を出してしまった瞬間、走り出していた。


「ジン君まっ」

『まって!』と、僕を止めようとしたアリエルの口をアンドリューさんが抑える。

僕の家族はというと、親父は苦虫を嚙み潰したような顔を、母さんとナタリーはお願いだからやめてという顔をしていた。

ごめん、みんな。多分、これから数日間苦労を掛けると思う。




「あぁ?お前、なんでしゃべってんの?周り見てみろよ。しゃべってる奴なんて一人もいないだろ?」

そう静かに言い、腰に携わっているチェーン製の鞭を手に取る。

「え~、いいな~。俺もストレス発散したいな~」


そう、これは彼らのストレス解消。それだけなのだ。

そしてそれが、我々グルガル族が人間を恐怖する理由。ほんの少しでも彼らの機嫌を損ねると、それこそ死ぬほど痛い体罰を受けることとなる。


僕は昔から出来が悪く、よく軍人の機嫌を損ねてしまい、ストレス解消の的にされそうになっていた。その度に、親父が代わりに罰を受けていた。

その現場を何度も目撃し、強くなろうと決めたのだった。こういう時、僕より立場の弱い人の代わりになっても平気なくらい、強くなろうと。

…まあ、そうはなれなかったんだけどね。


「人間様の前で言葉を発するのはご法度って習わなかったの?お前らの声聞くと、僕たちって虫唾が走るんだよね。」


そこでヴァレン君は、ようやく人の機嫌を損ねた際にしないといけない行動をとった。両ひざ、両手、額の5か所を地面につけ、背を丸める。身体はひどく震えていた。

「そうそう、でも遅かったね。まあお前はまだ子供だろうから、2回で許してやるよ。」

そう言うと、握った鞭の柄以外の温度が上がっていく。




グルガル族は人と比べ相当頑丈だ。通常の鞭で打たれても、痛みはするが、気を失うほどではないし、傷も二日で治ってしまう。

だが、魔法を使われると話は別だ。その軍人の腕章は赤くゆらゆらした模様が入っており、熱魔法師であることが分かる。

熱魔法師は、周囲や自分の触れているものの温度を上げることができる。

一人に対し罰を与える際、熱魔法師は得物を高温にし、それで僕らを痛めつける。


鞭が赤黒くなる。

「それじゃあ、二度と僕らの前で口が開かなくなるよう、教育してあげるねっ!」

そう言い、鞭を振り下ろす。


「ぐぅッ!」

すんでのところで間に合った。ヴァレン君の丸まった体に覆いかぶさり、鞭が僕の背中にあたる。

灼くような痛みが爆ぜる。


「ああ!??何やってんだてめえ!」

2回、3回と鞭が叩きつけられる。

服が焦げ、皮膚が裂け、肉が焼かれる。息を詰まらせ、喉の奥で短い悲鳴が潰れる。


「どけ!邪魔だ!!」

4回、5回。意識が遠のくが、ここで意識を失ってはダメだ。意識を失えば、間違いなく次の標的はヴァレン君だ。

ここでそれを許したら、僕が叩かれた意味がなくなる。ここまで来たなら、最後まで。


「俺も加勢しようか?」

「緊急時以外魔法は一人しか使えない決まりだろ!」

「へーい。いいなー。予定より全然ストレス発散できてんじゃん。」


6回、7回。目の焦点が合わない。

作業着の背中部分はほぼ焼けてなくなり、裂けて灼けた傷口が露出する。焼けた人肉の匂いが鼻をつんざく。

何も考えられなくなるが、鞭の痛みだけは叩かれるたびに鮮明に感じる。


「ふぅふぅ…。ふ~。いい運動になった~。すっきりしたから、もう行っていいよ。あ、ガキ、これからは人間様の前で絶対にしゃべるなよ。」

終わった…のか?

そう、これは軍人の気分によるもの。相手は誰でもいいし、気分で続けるかやめるか簡単に決める。


「ちなみに数えてたけど、今7回だよ。切りよく10回行った方がいいんじゃない?」

「あー、そう?どうしよっかなー。ま、せっかく今日魔力使ったんだし、しょうがないからあと1回だけ打つか」

せっかく今日魔力を使った?どういう意味だろう。まあ、そんなこと今は考える暇なんてないんだけど。


「ねえ、男気のある兄ちゃん。そのガキ行かせてやってよ。大丈夫、叩くのは兄ちゃんだから。兄ちゃんの土下座姿が見たくてさ。最後に土下座して、その背中叩かせてよ。お願い!」


気持ちが悪い。友達にお願い事を頼むような口調で話しかけてきた。

くそ、どこまでも不快な生き物だ。


体中がガクガク震えるが、ゆっくりとヴァレン君からどき、開放する。

揺れる視界の中で見たヴァレン君の顔には大粒の涙が伝っていた。安心させるために微笑んであげたいが、そんな余裕はない。


「もっとちゃっちゃと動いてよ。もうすぐ10分経っちゃうじゃん」

「あ、おい、10分て言っちゃダメなやつだろ」

「え?あ!やっべ。まあどうせ意味わからないだろ。頼むからチクんなよ」

10分?何言ってんだ。10分でも20分でもどうせ待つだろ。いつも暇暇言ってるじゃないか。


痛みで吐きそうになりながら、何とか土下座の態勢になる。あと、1回だ。踏ん張れ僕。


「いいねいいね~。おいガキ。ちゃんと見ろ。俺らに無礼をした後は、何もしゃべらずこの態勢になるんだぞ。そうしたら魔法を使わず、鞭打ちと唾だけで許されるからな。」

もう、早くしてくれ。最後の一回を受けて、早く電車で休憩したい。

こんなことされても、仕事を休むことなんてできないんだ。


「よーし、最後だから張り切っちゃうぞー!」

鞭の赤みが増す。ああ、くそ。もう一人のやつ余計なこと言いやがって。

手は出せないけど、想像の中でぶん殴ってやる。


「おらっ!」

「ぐっっあぁ!」


一番の衝撃が来た。血が飛び散り、頭や手足にかかる感覚がする。肉の焦げた匂いが一段と強まる。

よく意識が飛ばなかった。視界はぼやけ、吐き気と悪寒が止まらない。


「ふぅー。すっきりした。お疲れ兄ちゃん。仕事頑張ってな!」

そう言い、もう一人の軍人の方に歩いていく。


「それにしても死人ってすげーなー。こんだけやっても死なないんだもん。あ、もう死んでんのか。はは」

「いいなー。俺久しく死人に対して魔法使ってないのに。」

「俺もめちゃ久しぶりだったよ!いやー今日はラッキーだ。」


ラッキー?ヴァレン君が恐怖で転んだことがラッキーなのか?こいつら、本当にどうかしてる。倫理観なんてあったもんじゃない。

それとも、グルガル族がそんなに嫌いなのか?こっちだって生きてるんだぞ。頭がいかれてないとこんなことできないぞ。


身体をガクガク揺らしながら立ち上がり、ゆっくりと構内に進んでいく。

気づいたら、周りに家族とモモア家一同が来ていた。でも、手を貸すことはできない。そんなところ見られたら、また同じことが起きるからだ。


視界がぼやける。皆の表情を見る気力もない。

一人、また一人と、僕から遠ざかっていく。皆それぞれの行先の電車に向かっていった。


電車の中に入ろうとして、僕の隣にナタリーがいることに気づく。

電車に入り、背中をつけないよう、前のめりになって最寄りの席に座る。当然のように隣にナタリーが座る。それ以外の人の気配はない。

おそらく、僕からひどい悪臭がしているからだろう。人の肉が焼ける匂いは、ひどく不快なものだ。

ナタリーも無理しなくていいんだぞ。




「兄ちゃん!兄ちゃん、兄ちゃん!」

電車が出発し、黙る必要がなくなったとたん、ナタリーが感情を爆発させる。


「バカ!兄ちゃんのバカ!なんであんなことするの?」

何でだろう。正直自分でもよくわかっていない。

…ああ、小さいころ親父が身代わりになってくれた時、申し訳なく思う反面、すごくかっこいいと思ったんだった。僕も、こんなかっこいい大人になりたいと強く思ったんだ。

多分、今日ヴァレン君以外の知らない人が同じ状況になっても同じことはできなかった。幼いヴァレン君が、昔の僕を彷彿とさせてしまったせいで、親父に近づけると考えてしまったのだろう。

僕も、毎回こんな他人のために体を張るわけではないのだ。


「兄ちゃん…やだよ…もう二度とあんなことしないでよ…お願い…」

ナタリーの両手が僕の膝に置かれる。目を横にやると、ナタリーはボロボロ泣いていた。

久しぶりに彼女の涙を見た。最近は結構クールな感じで家にいるナタリーだが、意外と昔のままの泣き虫なのかもしれない。

よかった。『兄と同じ空間にいたくない』という最近の子の考えはまだ持っていないようだ。


大丈夫!こんなの唾つけとけば治るさ!

って、元気づけてあげたい気持ちはやまやまだが、あいにく痛みで声を出せない。ので、大丈夫だよと伝えるために何とか手を伸ばし、彼女の頭をなでる。

あ、手もガクガク震えてるわ。なんかかっこがつかないな。


「う…うぅ…お兄ちゃん…」

大丈夫、大丈夫。そのまま頭を撫で続ける。僕が平気ってこと、分かってくれたかな。


そしてそのまま、ナタリーを泣き止ませようと頭を撫で続ける。結局、到着するまで泣き止むことはなかったが。




駅に到着し、電車を降りる。涙は止まったが、依然不安そうな目でナタリーがこちらを見てくる。

早く行きなと伝えるため、少し強めに肘でつつく。それを受け、無力感を噛みしめるような表情をしながら歩き去っていった。


うう…痛い…痛すぎる…。


心の支えだったナタリーが去ってしまったから、激痛がぶり返してくる。

おそらく僕以外のグルガル族であれば、もう出血も止まり、痛みも少しだけど和らいでいる頃じゃないかな。

なんで僕はこんなに弱いんだろう。


ゆっくり歩きながら、いつも通り紙を拾い、指定された番号まで歩いていく。

そして掲示板を見てドキッとする。


ははっ、マジか。昨日と同じ現場じゃないか。どんな確率だよ。


痛みが少し和らいだ気がした。今なら少しだけ走れる気がする。

病は気からと言うが、その逆も然りのようだ。気分が良くなると、病は治るのかもしれない。




昨日と同じ道を、昨日よりずっと遅いスピードで走る。それでも人間よりは速く走れているだろう。

走ることで心臓が心拍数が上がり、鼓動に合わせて傷がズクズクする。でも遅れないようにしないと。

今日は8時から作業開始で、このスピードだ。寄り道はできない。もし遅れたら同じように体罰が下るだろう。

この状態で追加の体罰が来たら、僕の場合死んでしまう可能性がある。


アヤさんと出会った思い出の道にたどり着く。先を見渡しても、人影はなかった。

ああ、残念だ。一言だけでも言葉を交わしたい。そうしたらこの痛みも今よりずっと和らいだことだろう。


そして、別れ道。左は僕らの聖域だ。

行きたい気持ちを押さえつけ、何とか右に曲がる。このチャンスを逃したら、などと考えてはいけない。

まだ、僕らには十分な時間があるはずだから。




職場に到着し、ひざから崩れ落ちる。

痛い…疲れた…痛い…痛い。

まだ、身体がガクガク震えている。痛みで頭がおかしくなりそうだ。


「おい、兄ちゃん、大丈夫か?」

静かに、グルガル族の壮年の男性が喋りかけてきた。どなただろう。


「兄ちゃんもここだったんだな。今朝、見てたよ。いろいろ思うところはあるけど、とにかく、かっこよかったぜ。」

ああ、今朝の出来事を見てたのか。納得。


思うところというのは、なんとなく分かる。

標的がまだ少年だったからとはいえ、2発で済むところを8発食らったんだ。2発と8発だと、仕事への影響度も、傷の治りも、何もかも違う。2発で済むなら、少年に我慢してもらった方が良かったんじゃないか、そう考える人も多くいるはずだ。


加えて、人間のグルガル族に対する考え方も変わってしまうかもしれない。

従順に指示されたことだけを行い、ルールを守っていれば、向こうのこちらへの対応は変わらないだろう。

だが今回みたいに予想外のことをしてしまうと、警戒心増幅や追加のルールを提示される可能性がある。

グルガル族が安寧に過ごすためにも、余計なことはしない方がいいのだ。


「ありがとう…ございます…」

とは言っても、彼は僕を褒めてくれたのだ。ここは素直に感謝。…あ、ようやく声が出たな。


「もうそろそろ現場監督が来る頃だから、きついだろうけど立ち上がりな。ほら。」

そう言って手を差し伸べてくれる。その手を握り立ち上がると、離れたところに軍服の男が見えた。おそらく今日の現場監督だろう。

ありがたい。もう少し立つのが遅れてたらまた体罰があっただろう。




作業を開始するも、当たり前だが体が思うように動かない。少し動くだけで激痛が走る。

ありがたいことに、若めの現場監督はどこかに行ってしまった。作業者がちゃんと来ているかの確認のときも、数十秒に一回あくびをしていた。

これなら多少、いや、かなり動きが遅くても、怒鳴られることはなさそうだ。


「兄ちゃん、ちょっと」

先ほどの男性が近くに寄ってくる。

「兄ちゃん、今から言うことは俺の経験則だ。これを知ってどうするかは兄ちゃんに任せる。」

「?」


「今日の現場監督な、たぶん仕事終わるまで戻ってこないぞ。これまで3回あいつにあたったが、毎回朝の作業者の確認の後どっかに行って帰ってこないんだ。帰ってくるのは、毎回俺らの作業が終わるタイミングで、することも進捗の確認だけだった。作業者の確認もない。だから、どこかで兄ちゃんが休んでたとしても、俺は何も言わない。もしそうするなら、俺が兄ちゃんの仕事量もカバーできるように動くから。」


…なるほど。

普段であれば、仕事をサボるなんてことは考えもしないが、事情が事情だ。

しかも、ここはオウタだ。ほんの少し足を延ばせば、アヤさんに会えるかもしれない。非常に悩ましい。

あと、なかなかのイケオジだ。


「幸い、ここはかなりの田舎だ。多分探せば人が来ない場所だってあるはずだぜ。まあ、安全にサボるなら、仕事が終わる22時までに一回戻ってきて、念のため作業者の確認に備えるのがベストだがな。」


そうだな…正直、この状態で14時間働き続けるのは不可能だと思う。どこかで意識が途切れるはずだ。それがバレても、ある程度の罰は発生するだろう。仕事をしていないということは、サボっているのと同義なのだからだ。

予想だと、意識を飛ばしてサボったら鞭打ち2発、自分の意思なら10発以上ってとこかな。…運が良ければお咎めなし、運が悪くても10発でアヤさんと会えるなら、僕は…。


「ごめんな…さい。働けそうも…ないので、少し休ませて…いただきます。」

鞭10発を取ろう。


「おう!お前さん二人分以上の仕事をしてやるから安心しろ!」

「ありがとうご…ざいます。おそらく…数時間で帰ってくると思います。休める場所が…なければ、僕の掘った穴で…休みます。」

「ガハハ!自分で掘った墓穴だな!」

実際、そのまま死んじゃう可能性があるだろう。笑えないぞおじさん。


「そうなったら、現場監督が帰ってくるタイミングで起こしてやるから。ほら、行きな」

ペコリと頭を下げて、仮囲いのゲートの反対側に歩いていく。

ゲートの正面には他の民家がぽつりぽつりと点在しており、反対側は少し行くと昨日の川の上流に出る。


ゲートの反対側に向かう途中、作業者何人かと目が合う。皆さっきの話が聞こえていたか、僕の状況を理解しているのだろう、口角を少し上げペコっと頭を下げてきてくれる。

人生で初めて仕事をサボるという罪悪感から、皆に深めにお辞儀を返す。


仮囲いの前に到着し、目隠しシートをたくし上げ頭を少し出す。周りに人がいないことを確認し、一歩外に出た。


うわぁ、これが、サボるってやつかぁ。


ワクワク感と罪悪感で何とも言えない気持ちになる。

数秒間物思いにふけっていたが、アヤさんのことを思い出す。もしあの場所にいてくれたなら、今すぐにでも会いたい。


その気持ちがどんどん強くなり、少し駆け足で動き出した。

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