01 いつも通りの毎日
始めまして。西田カーチェです。
漫画好きをこじらせた漫画オタクです。
ダブル主人公が好きで書いてみました。
一番好きな漫画はからくりサーカスです。
…どうして、こうなったんだろう
「ジン…」
数十秒の沈黙の後、僕の力を目の当たりにした親父が、力ない声で僕を呼ぶ。
…こうすることが最善だったのかな
眼前に広がる平地を眺めながら、十二分に考えた疑問がまた頭をよぎる
…結局僕も、人間と同じように暴力で解決しようとしてしまった
「にい…ちゃん…」
「ジン…」
「…本当に…ジン君…なの?」
…何度考えても、みんなが幸せになれる未来はこれしか思い浮かばなかった。いま改めて考えても、人間との共存は不可能だと思う。
…ならこれが正解なんじゃないかな。
たった今1億人の命を奪ったとは思えないほど冷静な考えのまま、改めてこの回答を導き出す。
…ああ、みんなが僕に畏怖しているのが分かってしまう。
でも、こうするしかなかったんだ。みんなにも相談したじゃないか。まあ、ここまで破壊的になるとは全員思っていなかったことだろうけど。
再度、静寂が訪れる。家族も、友人も、村のみんなも、誰も言葉を口にすることができなかった。
この状況を目視できる人全員にとって、あまりに衝撃的な出来事が発生した直後なんだ。そりゃあ、そうなる。
でもこのまま立ち続けているわけにもいかない。もうこの国には僕らしかいないんだ。たった今から、ここは僕らの国ということになる。そして僕がこの国の王になったんだ。
…だから、これが最初の、僕の王としての仕事だ。
僕は、みんなの顔が見えるように振り返る。王として、みんなを落ち着かせないと。これからの未来は、幸せになれるんだと思ってもらえるようにしないと。その一心で、この状況下で、なんとか笑顔を作り出す。そして、王として最初の一言を絞り出す。
「大丈夫。僕が、みんなを守るから」
………
……
…
この世界は差別と支配で形成されている。
僕はこの世界が嫌いだ。
「兄ちゃんおはよー。今日もよく寝てるねー。」
毎朝夜明けとともに起こしに来るこの褐色肌の娘はナタリー。僕より少し身長が高く、小顔で切れ長の瞳が印象的なショートカットの女の子。年齢は14歳と、僕より2歳下だが、はたから見るとおそらく弟に見えるのは僕のほうだろう。
「…おはよ」
目を瞑りながら弱弱しく答える。
僕は朝が弱い。正確に言えば、ほかのグルガル族よりも多くの睡眠を必要とする体質だった。皆が3時間ほどの睡眠で動き出す中、僕は6時間寝ても寝足りないと感じるくらいだ。
僕が起きたのを聞き、僕のそばに歩いてくるナタリー。そのグルガル族特有の山吹色の瞳で覗き込みながら軽く頬を指でつついてくる。
「今日も5時には出発だぞー。早く準備しないとまた叩かれるぞー。」
ナタリーの言う通りだ。最近人間どもは、使えない僕だけでなく周りの人たちも痛めつけるようになってきている。使えない僕だけを叩けばいいものの…。
「そだね、ありがと。おはよナタリー」
何とか目を開け、そのまつ毛の長いきれいな瞳を捉える。5時間弱も寝れたのにあまりに眠たい。
「うん!おはよ兄ちゃん!」
満面の笑みでそう返すと、早くきなよーと言い残しパタパタとリビングに戻っていく。
やっとの思いで体を起こし、肉体労働で引き締まった凹凸のある自分の体を見下ろす。
「やっぱり細いなー」
僕以外のグルガル族男性は皆逞しく、腕や胸筋や太ももに重厚感がある。そんな中僕は、凹凸のある体はしているが、みんなのように筋肉ががっちりつくことはなく、女性と男性の中間くらいの体型となっていた。
立ち上がり服を着た後、顔を洗いに洗面台の前に立つ。鏡に映るのは、グルガル男性特有の褐色肌とボルドーの髪を肩まで伸ばした、緑色の瞳をしている僕。
…この瞳の色は何なんだろう…
鏡で自分の顔を見るたびに思う疑問。グルガル族は僕以外全員瞳が山吹色であり、こんな色をしている人は他にいない。
…まあ気にしてるのは僕だけなんだけどね。
村の人たちはみんな心の底から優しい。こんな、見た目が違い、身体が小さく、弱く、長時間の睡眠が必要な僕でも、そんなこと気にも留めず接してくれている。
「母さん親父おはよ」
「おはよ、ジン」
「おはよう!今日もよく寝たなぁ!」
顔を洗い、簡単に寝癖を整えた後、朝食を食べにリビングに移動。
グルガル族女性特有の淡いピンク色の髪を後ろで縛っている母親と、肩につくほどの長さの髪をこれまた後ろで縛り、もみあげから輪郭に沿って綺麗にひげが整えられた父親に挨拶をする。二人とも仕事用の工具の手入れをしている最中だった。
「毎度遅くなってごめんね」
「寝る子は育つってのはウソみてえだな!ジンがこの家どころか村の同世代で一番小せえじゃねえか!」
ガハハと笑いながらそのごつごつとした手を止め立ち上がり、僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。撫で終わるのを待ってから、身長180cmと小柄の僕はめいっぱい首を曲げて親父の両の目を捉える。せっかく寝癖を整えたのに…
「ほんとそうだよね…。アレの大きさはようやく親父に勝てたけど、他はまだ全然だ。」
「はぁ!?」
「あらあら!?」
身を乗り出す母さん。
「兄ちゃんキモ…」
「ジン…あなたも立派になったのね…母さんうれしい…あんた体が小さいから母さん心配だったの…」
「母さん!?嘘だからな!?俺のが全然立派だからな!?」
「そんなこと言って。昨日風呂で負けを認めてたじゃん」
「嘘言うな!」
ウソである。寝癖の仕返しだ。精神的にも身体的にも仕事的にも親父にかなうところはないが、こういった舌戦であればもう負けないかな。
「ごはん待たせちゃってごめんね、食べよ。」
「あ、てめぇ!話を逸らすな!」
「「「いただきます」」」
「…いただきます」
席に着くと全員で朝食を取る。内容はいつも通り、パン一切れとゆで卵一個。
「「「「ご馳走様」」」」
全員60秒ほどで食事を終えると、各々仕事の用意に取り掛かる。
「みんな今日はどこで仕事なの?」
狭いリビングで手を動かしながら、全員に聞いてみる。
「俺はイクトリア州だな」
「私はアンクーバー州ね」
「私もー。兄ちゃんは?」
「僕もだ。じゃあ親父以外は帰りの電車同じになるかもだね。」
「ああ!?ずりいぞ俺も混ぜろ!」
僕たちが住んでいるグルガル村は、リティッシュ・ランバの最西端に位置している。リティッシュ・ランバは人間の人口約1億人、面積約10万平方kmの島国だ。この国には5つの州があるが、グルガル村は特別でそのどれにも属していない。
グルガル村の南西側は海、北東側は一番近い州のアンクーバーとなっている。アンクーバーからさらに北上した場所にあるのがイクトリア州だ。
4時半には全員の準備が終わり、少し早いが出発することとなった。
今日も長い一日が始まるな…いやだな…
そんな考えで頭がいっぱいになるが、そうも言っていられないのが現実。
「「「「いってきまーす」」」」
4人で家を出る。隙間風が通りまくる木造のボロ屋を出て周りを見ると、同じようなボロ屋から出てくる家族を何組か見かける。
「あ!カドラー家勢ぞろいじゃん!おはよう!」
「おっ、おはよう!」
お隣のモモアさん一家も同じ時間に出勤のようだ。声をかけてきた大黒柱のアンドリューさんに返答する父。
「皆さんおはようございます。ジン君おはよ」
そういって近づいてきたのはアリエル、僕と同い年の女の子だ。ナタリーと同じくらいの身長で、目はクリっと丸く、肩甲骨に届く長めの髪を後ろで縛ったかわいらしい女の子。
おはようと返事をすると、笑顔でスッと僕の隣に並び歩き始める。家族同士で世間話をしながら、駅までの道を歩いていく。
「ジン君は今日はどこで仕事なの?」
「今日はアンクーバーだね。アリエルは?」
「私はウレーだよー。めんどくさすぎるー。」
「ぐえ。それはダルいね」
「まあ帰りの電車で寝れるからいいんだけどねー。ジン君と違って3時間寝れれば十分だしっ」
「心からうらやましいです。」
「ちょっ、冗談だよー」
アリエルはケタケタと笑いながら、僕の腕を肘でつついてくる。ウレー州はこの国の最東端に位置しており、ここからだと電車で4時間弱ほどかかってしまう。まあ僕以外のみんなからしたら1日の睡眠時間を電車内で賄えるから、そこでの仕事を嬉しがる人も多い。…僕は絶対嫌だけど。
駅が見え始め、全員の顔が暗くなり、喋るのをやめる。ここまでくると人間に聞かれる可能性があるからだ。
駅は村の民家とは打って変わって綺麗な建物で、コンクリートや金属パネルがふんだんに使われている。
「あー気持ちわりぃ!きめぇな!!しかもくせぇ!死臭が充満してやがる!!」
噂をすれば。本日見る最初の人間だ。
「くそデカくて目障りだなぁ!死体が動き回りやがって、キモ過ぎるだろ!」
白色の生地に細やかな赤色のパイピングが施された、きれいな軍服に身を包んだ二人の人間が村のみんなを貶していた。薄汚れた作業着を着た僕たちとえらい違いだ。人間はベージュの肌と黒色の髪と瞳をしている。二人とも胸元に星形のバッジ一つと、一人は赤いゆらゆらした模様が施された腕章、もう一人はスカイブルーにギザギザした模様が施された腕章をつけていた。
階級は下士官、それぞれ熱魔法師と電気魔法師か。
熱魔法師は金属のチェーンで出来た鞭を、電気魔法師は警棒のようなものを腰に携えている。
貶している二人のほかにも、建物内には電車を動かすための充電に勤しんでいる一般兵が複数人いることだろう。そして建物の3階、最上階の窓を見上げると、白い髪と髭を短く整えた男がこちらを見下ろしていた。胸元には高級士官の証である三つの星と、そこの一人と同じ赤くゆらゆらした模様が施された腕章を巻いた、グルガル族全員が畏怖している人物、ザック・シルヴァン大佐だ。
「それじゃね」
人間に聞こえないようにボソっとアリエルが下を向いたままつぶやいた。僕はそれに応えるようにアリエルの腰をちょんと触る。
この駅は控えめに言ってもどデカい。グルガル族の総人口は約500万人。その中で都市部に出向き仕事をするのは全体の10%ほどいる。そして全員がこの駅からそれぞれの州に行くため、毎朝約50万人がこの駅を利用する計算だ。
そして同じように電車もどでかい。グルガル村から発車する電車はどれも2階席まであり、1階席と2階席を合わせると6000人が乗れるほどの大きさだ。この大きさで時速約300kmも出るのだからすごい開発力だ。まあ、この電車も、線路も、なんなら駅自体も、建設したのは僕らグルガル族なんだけどね。
駅はめちゃくちゃ静かだ。全員が口をつぐみながら電車へ向かう。聞こえる音はみんなの足音と、さっきの二人の人間が僕らを貶す叫び声くらいだ。
ナタリーと母さんと同じ電車に乗ると、それぞれ友達が座っている席の隣に腰を下ろしていく。電車は両端に3席ずつ座れる構造をしており、ナタリーも母さんも友達の隣が開いていたようだ。
僕も車内でネイトとダビデがいる席を運よく見つけるとその席に腰を下ろす。
ネイトは長めの天然パーマと垂れ目のイケメンで、ダビデは坊主頭にきりっとした目のイケメンだ。座るとお互いの脇腹をっ肘で小突く程度で、言葉は発しない。
ようやく発射の時間になり、電車が駅を離れると、車内のみんなが一斉にしゃべり始める。電車は無人で走るため、人間に聞こえる心配はない。
「二人ともおはー」
ネイトが最初に口を開く。
「おはよ。ジンはよく眠ったか?」
「おはよ。昨日は全然眠れなかったわ。5時間くらいしか寝れんかった。」
「おっ、二日間ぶっ通しで働けそうじゃん。」
「48時間肉体労働は超人の僕でもきついっす」
「父さんは俺らの年のころ60時間肉体労働したって言ってたよ」
「超人は今引退しました」
「はは、相変わらずの睡眠時間だねー」
村のみんなは僕の体のことを理解しながらも、こんな話にノってくれる。ほんといいヤツらばかりだ。
その後も電車に揺られながら軽口をたたく。アンクーバー到着後はまた何もしゃべれない時間になるため、この30分の電車の時間がとても貴重だ。
「それじゃねー」
「またな。ジンはくれぐれも怪我に気をつけろよ」
「おう、ありがと。それじゃ」
アンクーバーに到着する直前に全員が別れの挨拶を済ます。
到着すると、電車を降りたすぐそばに山積みになった紙が欄列しており、その紙を一枚取る。
1851番か。
番号を確認するとその隣に設置された箱に紙を戻す。そしてどデカい駅構内を見渡し、1801~2000と書かれた標識を確認した。
二人を順番に肘で小突いた後、皆自分が引いた番号の標識のほうに歩いていく。
歩いて少し経つと人がまばらになり始める。そこからは電光掲示板での案内となり、1851~1900はアゴア市で8時から建設作業であることを知った。この駅からアゴア市まで40kmほど離れているから、グルガル族が普通に走ると1時間弱ほどで到着する計算になる。だけど僕はかなり頑張っても1時間では着けない。
それじゃあ今日も一日頑張りますか。とりあえず、個人目標は1時間以内に現場到着!
駅を出ると、村とは大違いの風景が広がっている。
石畳できれいに舗装された道路、10階以上もある鉄筋コンクリートで建てられたビル、行き来する馬車と、きれいに着飾ったベージュ色の肌と黒色の髪と瞳の人間。
こことは比べ物にならないほど貧相な村で生活している僕からすると、やはりうらやましいと感じてしまう。まあ、今見えているものすべて建設したのは我々なんだけどね。
「うわ、死体だ」
「マジで気持ち悪いな」
「朝からいやなもの見たな。ここ通る時の時間ずらさないと。」
「ママ―、あの人なんか変」
っ…。早く職場に行こう…。
作業場まで走る時間は気持ちのいいものではない。道行く人全員から汚物を見るような目で見られ続けるからだ。そういった視線から逃げるように走り続け、頭の中を別の思考で満たしていく。
この世界は支配と差別に満ちている。少なくとも、僕の知るこの国ではそうだ。
この世界には人間とグルガル族の二つの人種が存在し、差別対象は後者だ。差別される理由は簡単、魔力がないからである。
人間は大なり小なりあれど、須らく魔法を行使できる。そして、他人の魔力を目視で感じ取ることができるそうだ。後光のようにモワモワと淡い光が見えるらしい。そして我々グルガル族は魔力がなく、魔法が使えない。
人間は死亡すると魔力が消失するため、人間同士だと死亡したか否かがすぐにわかる。
そのため、人間から見る我々グルガル族は、死んだ人間が活動しているように見えるということだ。
それは我々では考えられないほど気持ちが悪く、生理的に受け入れられないと聞いたことがある。
僕らから見たら、同じ形をした言葉を解せる仲間なのに…。そしてこれ以外にも迫害の理由があると聞いたが、詳細までは分からない。
グルガル族への迫害はずっと昔からある。
今日に至るまで何度も反乱を企てたそうだが、そのどれもが成功することはなかった、という話を子供のころから耳に胼胝ができるほど聞いている。
人間はグルガル族に比べ非常に脆く、体も小さい。村で一番小さい僕でも、この街だと僕より大きい人を探すのが難しいくらいだ。
そんな人間が我々を蹂躙できる理由はたった一つ、魔法だ。
何度反乱を企てても、実行に移したとたんに魔法師が村へやってきて、体中が火傷し、息もできないほどの高温で村を包む。
村全体の気温を一気に上げるので、幼い子供や老人が死亡することも多かった。幼いころに一度だけ村が反乱を企てたことがある。その際村が地獄と化したのを鮮明に覚えている。
そして、その地獄を作り上げたのが、先ほど我々を見下ろしていたザック・シルヴァンただ一人だったことも…。
あんなことができる人間からしたら、我々なんて大き目なハムスターの大群くらいにしか見えていないことだろう。
そんな中、人間が僕らを生かす理由は一つ、便利だからだ。
僕らは人間とは比べ物にならないほど体が強く、睡眠時間も短いため、人間には重労働な仕事も、我々は長時間ぶっ通しで行うことが可能だ。
そして僕らはみんな仕事が早く、しかも丁寧なものだから、奴隷のように朝から晩までほぼ無給で働かされることになっている。
一日働いてもらえるのは一日分の食料のみと、自転車操業どころの話ではない。
人間は働けばしっかり給料をもらって、自分や大切な人たちのためにお金を使えるらしい…正直超うらやましい。
っと、別のことを考えようとしたのに結局いやなことを考えちゃったな。
ともあれ、そういう理由で我々は人間に従うことしかできていないのが現状。この国が他国から見てどのように見えているかはわからないが、すごい国だと思われていたら僕としても鼻が高いな。ここに立っている建物も道路もインフラもほぼすべてグルガル族が作ったのだから。
いつかグルガル族と人間とで平等な生活を…なんて。まあ、難しいか。
そんなこんなで本日の作業場に到着。息を切らしながら道端に立っている時計を見ると、駅を出発してから1時間と6分ほど経過してしまっていた。個人目標未達成。仕事だったらこれで鞭打ち2回かな。
今日はここに建てる民家に着工する。広さを見ると僕の家5軒分くらいだけど、これが平均的な人間用の民家の大きさになる。
そして、家一軒建てるのにグルガル族に与えられる期間は20日。人間が建てるとしたらどれくらいの期間がかかるか分からないけど、僕らはこれを過ぎるととんでもない体罰が待っているので、納期は絶対に間に合わせないといけない。
「おい!着いたなら早く取り掛かれ!」
現場監督である軍人が早速注意してくる。まだ定刻前なのに…いいけどさ。
軍人の目を見ないように、隣においてある設計図面を確認する。うん。普通の家だな。
それじゃあ改めて、今日も一日頑張りますか!




