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好きな子とのクリスマスデートを悪友に横取りされたので、俺は悪友の彼女を寝取ってやることにした

作者: 富良井戸

 恋ってのは、人を大きく変えてしまうことがある。


 たとえばあれだ、マンガでよく見るような、失恋したヒロインが髪をバッサリ切る──みたいな。

 あるいは、そうだ、垢抜けないJKに好きな人ができた瞬間、可愛くなりすぎて逆にモテまくっちゃう、みたいな。


 これらは全部フィクションの話だから、実際に起こる可能性は著しく低い。

 だけど、恋が人を変えるって通説は、否定する人も中々いないんじゃないか。


 好きな人によく見られたくって背伸びする、みたいな経験、誰でも一つや二つ持ち合わせているものだし、俺も実際そうだった。



 ──中学の頃、俺・田島 海斗(たじま かいと)は所謂陰キャだった。

少し長めの、ボサボサな髪の毛。メガネに変な逆張り精神の染みついた性格、人を見下すような顔。

 ただの陰キャじゃなく、嫌われる陰キャだったのだ。


 それでも、クラスのマドンナ・長瀬 美月(ながせ みつき)に密かな恋心を抱いてからは──勝ち目のないレースに名乗りを上げてしまってからは、せめて勝つ努力だけはしようと、あらゆる自己変革を行ってきた。


 髪は切って清潔に、メガネはコンタクトに、素直な性格に矯正し、常に感じの良い微笑を口元に。


 それ相応の苦労をして、俺はようやく嫌われる陰キャを卒業すると、やがて陰キャも卒業して、フツメンになり、そこから陽キャになり……。

 高校進学と同時に、俺は一軍陽キャ(陰キャにも優しいオプション付き)に成り上がることができた。


 それもこれも、美月のおかげ。

高校が離れてしまうことを危惧していたんだけれど、「近かったから」という同様の理由で、奇跡的に同じ高校に進学できた。

 ……もちろん、これはフィクションじゃなく、実際の話。

自分でもフィクションじみてると思うが、美月は同じ高校にたしかにいるのだから、仕方ない。


 クラスこそ違えど、以前より美月との会話も増え、ネットで『脈あり』とされるようなこともしてくれるようになり、高校デビューは大方大成功。

 俺のスクールライフは思いがけず充実したものになっていた。


 ──だがしかし、不安材料がまーったく無いわけじゃあない。

 唯一ある不安材料、しかもそのデカさはオリンポス火山級。



 ……悪友・相沢 琉翔(あいざわ りゅうと)の存在だ。



 彼とは美月と同じく、中学からの縁。

だから俺が美月のことを好きなのも、高校デビューをかましたのも知っている。

 そのうえ女好きで、中二から付き合っている彼女はいるが浮気は常習犯。

 ──まあ、一言で表すなら『輩』。

近付きたくないタイプの、悪目立ちする奴なわけだ。


 今まで一部の同級生に、俺が嫌われ陰キャだった過去を話すなど、まあやってくれた節もあったが、それに負けず自己研鑽を頑張ってきた。

 だから今の所琉翔がとんでもない脅威、というんでもないが、しかしようやく美月と仲良くなり始めている昨今──、あいつが黙っておくとは思えなかった。



 やがて二学期も終わりにさしかかり、俺は一世一代の大勝負に出ようとしていた。

 

 ……ズバリ、美月とクリスマスデート大作戦。


 もう充分すぎるくらい仲は深まっていたので、賭けにでてもいいように思えた。

このクリスマスデートを了承してくれた暁には、告白をしようと思っていたのだ。


 ──まあ、そのためには交渉しなくてはいけないわけで。

でも直接面と向かって玉砕した場合、立ち直れるだけのメンタルはさすがになかったので、ヘタレとは自覚しているがLINEで済ますことにした。


 「クリスマスってなんか予定ある?」

「ないよー」

「じゃあさ」

「うん」

「どっか出かけない?いっしょに」

「おーいいね」「いこいこ」


 ……以上、交渉の全容。

所要時間はわずか数分、しかも一言ずつで完了してしまうという。

 これがいいことなのか悪いことなのかはわからないが、とにかく!

 俺は意中の相手と、クリスマスデートの約束を取り付けることができたのである。




 「ごめん、あしたむりだ」


 そして今、二学期の終業式も終わって、いよいよクリスマス!というエキサイティングなはずの夕方、俺は携帯片手に立ち尽くしていた。


 ──事情を聞いてみたが、曖昧な答えしか返ってこず、はぐらかされてしまう。


 こういうとき、俺の脳裏によぎるのは、やっぱりあの男──琉翔なのである。


 「琉翔になんか言われた?」

そのメッセージを送った瞬間、美月は慌てるようにメッセージを連投した。



 「琉翔くんに海斗が告白しようとしてるって聞いて」

「私そういうつもり無くて怖くて」

「なら俺とすごそうって」

「だからごめん」

「告白にも応えられないしデートも無理」



 ──ちなみに、このメッセージ五件が来るまでにかかった所要時間は、わずか十数秒ほど。

 スマホから煙が出るくらいのフリック入力なんだろう。


 ……まあ、つまり。


 クリスマスデートはドタキャンされるし、告白はしてもないのに失敗するし、悪友に横取りされるし。

 考えられる上で最大級の失敗をかましてしまったわけだ。


 琉翔に俺のデート計画が伝わったのはなぜか?と考えてみても、正直琉翔ネットワークは広いので思い当たる節が多すぎるし。

 こんなことなら、友達に浮かれて「告白しようと思ってる!」とか相談しなきゃ良かった。


 琉翔や美月に対する憤り、失望、そんなものより、空白感の方がはるかに大きい。


 折角プレゼントも買って、デートプランも完璧に立てたのに。

全部おじゃんになって、楽しみだったはずの明日がなくなってしまって、お先真っ暗もいいところだった。



 ……美月とのLINEは途切れた。

もうメッセージ画面を見たくもないのでスマホを消す。


 ──刹那、再びLINEの通知音が鳴る。

今度は何かと電源を付けてみると──



 LINEの相手は美月ではなく、寛奈(かんな)──琉翔の彼女だったのである。



 「琉翔になんかされたでしょ」


 半年ぶりくらいのLINE。

中学では普通に仲が良かったが、高校が離れてからは連絡頻度も当然に減っていた。


 「まあな」

「傷心中だったりする?」

「これを傷心と謂わずして何と言うのかね」 「じゃ話して、何があったか」


 ……寛奈にそう促されて、たった今起こったすべてを説明する。


 寛奈は聞き上手で、しかも性格やビジュアルだっていい。

 なんで琉翔なんかの彼女をやっているのかわからないレベルの優良物件なのだが、そのためか琉翔からは相当愛されていると聞いたことがある。

 女好きで浮気をしまくる琉翔が、なぜか寛奈とだけは別れたがらないのは、それゆえだろう。

 とんだクソ男であることに変わりは無いのだが…。


 「そっか、やだったね」


 今だって、寛奈の聞き上手っぷりが存分に発揮され、俺の気持ちはいくぶん軽くなっていた。


 寛奈が俺のことを知っていたのは、琉翔が自慢げに話してきたかららしい。

『俺、あいつの好きな人寝取ったったわ笑』という底辺過ぎるLINEが来たので、俺に連絡をした、という次第だ。


 「琉翔が憎い?」

「そりゃもう」


 ……それから数秒して寛奈から来たLINEは、想像もしていない文面だった。



「復讐したい?」



 ──寛奈がそんなことを言うのは、意外だった。

 たしかにめっちゃ良い子な寛奈だが、事なかれ主義というか、荒波を立てることを嫌うタイプでもあったから。

 嫌なことをされても甘んじて受け容れてしまうタイプだし、復讐なんてなおさら。

だからこそ琉翔との関係も、ずるずる続いているのだろう。


 「ここだけの話、私ももう琉翔が嫌い」

「そうだったんだ」

「君の復讐心と、私の嫌悪感、どちらも両立できる方法が一個ある」

「なに?」


 そして、次の文面もやはり想像もしていないような、ぶっ飛んだものだった。



 「浮気しよう」

「私を寝取って」




 ……来たるクリスマス。

俺と寛奈はイルミネーションに照らされるクリスマスマーケットを歩いていた。


 「ほんとにここにいるの?」

「それは間違いない。琉翔言ってたし」

「てか、クリスマスに彼女以外の女と過ごすなよな…」

「いまさらだよ」


 寛奈の髪は中学より伸びていて、腰の辺りまであった。

いつもであれば結んでいるんだろうが、今日はまっすぐに下ろされていて、それがマフラーと白いコートによく似合う。

 手袋をしていても手が冷えるのか、ひっきりなしに手を擦り合わせて、白い息を吐いていた。


 ……今行われているのは、『琉翔美月カップル邂逅大作戦』。


 琉翔と美月がここにいるらしい、という情報を持っている寛奈によって提案された、まあ堅実な作戦。


 今回の目的は「俺の琉翔及び美月に対する復讐」それと「寛奈による琉翔への嫌悪表現及び琉翔への攻撃」だ。

ここで俺と寛奈が歩いていれば、自分の彼女を寝取られたことを察した琉翔への復讐にはなるし、それによってダメージも与えられる。

 これを機に寛奈は別れを伝えたいらしく、それのきっかけにもなりうるだろう。

 

 ──ということは寛奈は俺と付き合うことになるのか?とか、前日ドタキャンなのに寛奈と約束を取り付けられたのはなぜ?とか、まあいろいろ不可思議な点はあるだろうが、あいつらはそんなのに気付かないだろ!ということになった。

 俺達はめちゃくちゃあいつらを見くびっている。


 

 寒空の下、街は少しいつもと空気が違う。

イルミネーションの煌めきも、人々の表情も、どこか浮かれているような、メルヘンチックなような。


 ……クリスマスマジック、というやつか。


 この街を並んで歩いていた俺と美月を空想しかけたが、いずれにせよ告白は失敗していたと考えると、もうどうでもよくなった。



 「あっ、いたよ!」



 寛奈が声を上げる。

指を指す先には、たしかに琉翔と美月。

 ……ベタベタ触れあって、傍から見ればガチカップルだ。──実情は、浮気中の男とドタキャン女による、まあある意味お似合いかもしれないいびつなカップルなわけだが。


 「ねっ、手つなご」


 寛奈が途端、手袋越しではあるものの俺の手を優しく握った。


 「ちょっ、さすがにこれは……」

「今更何言ってんの、私を寝取るんだよ?」


 ……俺達も俺達で、まあまあえげつない会話をしているな。


 だが俺は、残念なことに高校デビュー云々とはいえど、女の子とのキャッキャウフフの類にはまるで知見がない。

 こうなってしまうのも致し方ないのだ。


 「だーっもう、イチャイチャしてこうぜ!」


 俺は覚悟を決め寛奈の手をそっと握り返し、琉翔達のいる方へと歩き出していく。

 寛奈は俺の腕に半身を預けていて、こちらもこちらでガチカップルの様相。実情は、復讐に燃える少年と彼氏を振りたい少女だ。


 一歩、二歩と歩みを進めるごとに彼らが近付いていく。

 数十歩ぎこちなく歩いて、彼らが眺めている商品のほぼ真裏に回ると、寛奈がわざとらしく声を上げた。



 「うわーっ、これとかいいね! めっちゃ海斗に似合いそうー!」



 大胆だな、と思ったが、ふと琉翔達の方を見ると、それはもうめちゃくちゃに俺らを凝視し、困惑と侮蔑と焦燥の表情を浮かべている。


 

 「だっ、だっ、だろーっ?」



 何が何だか分からないまま適当に答え、もう一度琉翔の方をちらり。

 何してんだこいつら…?という表情に変動はなく、何か決定的なことはできないか……と考えていると、寛奈が急に距離を詰めてくる。



 ──刹那、頬に、柔らかな感触。



 キスをされた、というのに気付くのは少し時間がかかった。


 「なっ、なんだよ急に!」

「えへへ、なんか海斗可愛くってちゅーしたくなった」

「ふ、不意打ちは困る……」

「んふふ、琉翔とかには内緒だよー?」


 寛奈の名演技。

俺らも俺らで琉翔たちに気付ていない設定なわけで。

 

 

 ──じゃあ、こんくらいしても許されるよな。



 俺は寒さからか、頬を赤らめる寛奈にぐっと近付いて思いっきり抱きしめ、


 「どしたの急に…!」


と照れる寛奈の唇に、自分の唇をそっと重ねた。



 「……もー、結構人いるんだから、ほどほどにしてよねー?」



 そう言いつつ、寛奈の顔はまんざらでもなさそうだった。


 ……演技、だよね?

いやー、寛奈、演技上手いなー。



 「おっ、お前ら……」



 図らずも良い感じのイチャつきができホッとしていると、向こうの方で声がした。

 ようやく、愛しの彼女が寝取られたことに気付いたらしい。


 「あ、あれ、琉翔──?!」

「なっ、なんでいるの……?」


 俺と寛奈は、めちゃくちゃ白々しく演技する。

 寛奈はまだしも、俺は完全な大根役者なのだが、大根役者過ぎてガチっぽさが出たのか、演技とは気付かない様子だった。



 「な、なんで海斗、私と約束したのに──」



 美月も美月で狼狽えている。

が、私と約束したというのはそうだが、ドタキャンしたのはあんたである。

なぜ被害者面をしているのか。俺は美月に対して感じるにしては毒々しすぎる、憎悪にも似た苛立ちを感じた。



 「ごめん琉翔、私、海斗と付き合うことになったからさ。ごめんね、美月ちゃんと幸せにやってよ」



 寛奈はこの流れで琉翔を思いっきり振る。

自分がめちゃくちゃ愛されていることを知っておきながら、この言葉を紡ぐ寛奈は、たぶんめちゃくちゃ琉翔が嫌いだったんだろう。

 言い終わった後の寛奈には、いくぶんの清々しさがみられた。



 「美月、新しい恋のチャンスくれて、ありがとな!」



 俺も俺で、めちゃくちゃ皮肉な笑みでめちゃくちゃな皮肉を言ってみる。

 自分に好意が向けられる、というのはまあまあな喜悦だろうから、自分を好いてくれる相手が目の前で消え、美月は驚愕を隠せない様子だった。



 「なっ、なんだよお前ら──も、もういい、知らねえ!」



 ふいに琉翔が珍しく取り乱し、どこかへ逃げ出してしまう。

一人取り残された美月も、数秒困り果てた顔をした後に、その背中を追って走り出した。



 「……あれ、別れられたってことで良いかな」

「いいんじゃね?」


 数秒のうちに無人になった眼前に、あのカップルの残像を見ながら、俺と寛奈は笑い合う。


 楽しくって、可笑しくって。

クリスマス色に染まった街が、隣にいる寛奈のおかげでより色付いて見えた。



 帰りがけ、家まで送っていくよ、と二人並んで帰路を歩いていると、寛奈がふいに立ち止まった。


 「どうし──…?!」


 寛奈の方を向くと、胸にたしかな温もりが飛び込んでくるのを感じる。


「……ぎゅーっ」


 寛奈の囁き声と甘い抱擁に包まれ、俺はいくぶんの幸福感という奴に溺れる。


「ねっ、さっきのもっかいして?」

「さっきのって──」

「わかってるでしょ! ほらっ」


 寛奈は可愛らしい仕草で自分の唇を指さし、両手を広げて俺を待ち構える。


 「……しゃあねえな」


 俺も寛奈の腰に手を回して抱き寄せ、そっと唇を交わす。冷え切った体に、体温が廻る。

 さっきよりもいくぶん長く、そして激しいキスは、クリスマスマジックのせいか、甘く感じられた。



 「──さっき琉翔達に言ったセリフ、私のあれは嘘じゃないからね?」



 顔を真っ赤にして俯き気味に言い、それから俺を上目遣いでロックオンする寛奈。

 最初こそ揶揄ってるのかと思ったが、寛奈の頬に注がれる朱を見て、それはないなと思う。


 今の寛奈は、演技なんかしていない。

本心で動いている。


 論拠や確証はないけど、それだけはわかった。

そして、このつぎに俺が言うべき言葉も。



 「──俺の言葉にも、嘘偽り無いよ」



 もう一度、寛奈を強く抱きしめて。



 「大好きだ。失恋直後でありながらクソ男、って思うかもしれないけど──でも、大好きだ」


 復習を済ませた失恋したばかりの男子と、振ることに成功したフリーになったばかりの女子。

 不健全な恋ではあるけど、でも、たぶん俺らにはその不健全さが寧ろ似合ってると思った。



 「私も、大好きだよ、クソ男くん──?」



 寛奈はくすっ、と笑う。


 「それでも、どっかの誰かさんよりずっとマシ。ねえ、海斗、好きっ!」


 あどけない笑顔が、聖夜に咲く。

イルミネーションの煌めきの代わりに街灯が、二人の影を一つにさせる。


 そういう甘いキスをしながら、サンタクロースとやらは、もしかして最高のプレゼントを運んできてくれたのかもしれないと思った。


 クリスマスは終わりがけだったが、俺の中で、また新たな何かが始まったような気がした。

メリークリスマス!!!

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― 新着の感想 ―
そもそも、主人公もヒロインも、何故あんなのと友達になったり恋人になったりしたのか…… 輩で女好きと、悪い面しか語られてないのに。 万が一何かの間違いで親しくなったとしても、速攻で縁切りしてると思う。 …
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