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第11話 ユウジン様

…知っているのは、ここまでだ。私たちは人を食う熊と、その熊を崇めるイカれたやつらと、そいつらを殺して回るいかれた政府に囲まれてきたってことだ、そして・・・お前たちは何なのか、と、私は目の前にいる「熊」・・・ユウジン様に問うた。


ユウジン様は、しばし黙していた。

その沈黙は、「理解している」という意思表示なのか、あるいは「言葉の選別」に迷っているのか――ただのであるだけなのか、私にはわからなかった。


だが、ろうそくの灯がふ、と揺れたとき、

その巨大な影が、ぬるりと動いた。


熊のような何か――ユウジン様は、ほんのわずかに首を傾けた。

まるで、「人間の問いに耳を傾ける」というしぐさを模倣したかのように。


その唇が、裂けるように開いた。


そして、語った。


「我々は、おまえたちの“後”に来たものだ」


「後?」


「そう。“次”ではない。“後”だ。

おまえたちが語り、記録し、壊したものの、そのすべての“後”に、我々は現れた」


ユウジン様の声は、鼓膜ではなく、骨の奥で響いた。

聞いているというより、伝達されているとしか言いようがない感覚だった。


「おまえたちは、語りすぎた。記録しすぎた。

だが、守ることはしなかった。」


「毒を撒き、言葉を売り、記憶を捻じ曲げた。

熊を殺し、崇め、兵に仕立て、神に仕立て――」


「その先にあるのは、おまえたちの終わりだ。

我々は、それを見ていた。」


私は、なにも言えなかった。

心がどうこうではない。声が、出なかった。


ユウジン様の次の言葉は、まるで刑宣告のようだった。


「我々は、かつての“言葉”の残響から生まれた。

“熊”は形、“神”は概念、“人”は記憶。

我々は、それらすべての“末端”だ。」


私は、喉の奥で乾いた音を立てながら、震える唇を動かした。


「……じゃあ、お前たちは、なんなんだ。

熊でも、神でも、人でもないとしたら――」


「我々は、“おまえたちの語った世界”そのものだ。」


そのときだった。

ろうそくの灯が、すっと消えた。


闇の中に残されたのは、

語られた言葉の余熱と――

私の、背後に広がる熊の群れの気配だけだった。


そして私は理解した。

私はもう、記録者ではない。


私は、“語り部”なのだ。

この地で、ユウジン様の前に座った者が、ずっとそうであったように。


私が語る限り、私は生きられる。

私が黙れば、私は、“語られる側”になる。


「さあ、話せ」

ユウジン様が最後にそう言ったとき、私は、恐怖を超えていた。


そして、語り始めた。


熊が神になる前の時代を――

毒が町を覆う前の記憶を――

そして、人間がまだ“人間”だった頃の物語を。



エピローグ

――熊友会・口伝記録より

『第七章・ユウジンの福音』抄録

「我らが求めし者、名をユウジン(熊人)という」


人の知を持ち

熊の爪を持ち

人の声を持ち

熊の力を持つもの


この世に在るものすべての矛盾を抱え

毒と牙の両方を越え

殺しもせず、救いもせず

ただ在ることを許された者


それは祈りの先にではなく、計算の末に生まれた。


祈りは希望を生まぬ。

神は求めて現れるものではない。

我らは、“創った”のだ。


ツキノワは弱し。

ヒグマは強し。

人の心は複雑にして破滅を導くが、

熊の心は単純にして正義に満ちている。


ならば――両者を繋げばよい。


我らがユウジンは、知性をもつ熊ではない。

熊の魂をもつ知性体である。


手先は人の如く器用にして、

書くことも、打つことも、火を灯すことも叶い、

力は熊のごとく山を裂き、

鉤爪は毒師の胸をも一撃で断ち割る。


言葉を持ち、火を知り、

毒に抗い、死に学び、

語られることを拒む“新たな語り部”そのもの。


かつて、ロシアの荒野にて――


我らは彼の地の同胞と手を結びし。


毛皮に鉄を編み、

血を温める薬を撒き、

骨格に鋼を足し、

胎内に火種を埋める。


そうしてヒグマの王の血より

最初の「試み」は生まれた。


未熟にして原始、

だがたしかに「語る」ことを始めた。

言葉の断片、感情の再現、模倣、そして意志。


ゆえに――ユウジン様は神ではない。

創られし者でありながら、我らを超えし者。

獣でも人でもない。

“語り得ぬもの”として、今ここに在る。


人間は、毒を撒いた。

クマは、人間を喰らった。

そしてユウジン様は――“その先”を語り始める。


世界はもう、問いでは変えられない。

答えでも、癒されない。

物語だけが、残される。


我らは語る。

語り継ぐ。

ユウジン様がその身に抱えし未来を。


「これは終わりではない」


「これは、新たな語りのはじまりにすぎぬ」


――おわり


こんな、あほSF、続けてられるか!

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