残念な事
地球温暖化を食い止め核戦争の脅威を回避した人類は、30世紀の半ば頃から外宇宙に進出して70世紀を越えた現在、大繁栄している。
大繁栄しているお陰で儲かっている大金持ちのお得意さまたちに、異星の生物である動植物を採取し観賞用ペットとして売りつけるのが俺の生業。
今回俺はお得意さまの1人に頼まれて、天の川銀河中央部付近にある木星程の大きさの水の惑星に来ていた。
まだ固有の名称は付けられておらず、KKM―417の番号が振られているだけの惑星。
此の惑星には陸地は存在せず、全周全てが水に覆われている。
殆どの場所が水深50メートルから300メートル程の比較的浅い海だが、所々に数万メートルから数十万メートルの深海が存在しているらしい。
らしいって言うのは、此の惑星を発見したホルストカンパニーの探査船が、惑星の400キロ程の上空を周回しながら探査してる最中に、惑星の所々に存在する亀裂の深さを計測しただけだからだ。
それで此の惑星の比較的浅い海には、地球の熱帯魚のようなカラフルな魚たちが珊瑚のような生物の周りを群泳している。
そのカラフルな魚たちを採取する為に俺は此の惑星に来た。
来たのだが、海面に着水して採取中に嵐に遭遇し船が沈没してしまう。
船は水深が数万メートル以上はあると思われる亀裂の、水深100メートル程の縁に引っかかっている。
何度かエンジンを全開にして脱出を試みたのだが、陸上や海上からの発進ならともかく、水深が100メートル程とはいえ海中からの発進は船体に負担が掛かりすぎて無理だった。
だから今は救助されるのを待っている。
此の場所を知らせる遭難信号発信ブイを数個海上に打ち上げているから、待っていれば助けて貰えるだろう。
もっともどれくらいの年月がかかるかは神のみぞ知るだけどな。
生存に必要な酸素は船の外に無限に存在する水から得られるし、食料も搭載してる食いもんが無くなったら船の周りを泳ぐ魚を捕まえれば良いだけだしな。
ただ燃料を節約する為に暖房を入れ続ける事が出来ないので、結露が発生して船内がジメジメしている。
ジメジメジトジトは我慢して、窓から見えるカラフルな魚たちの群泳を見ながらのんびり待とう。
救助を待って2週間程過ぎたある日、結露の水滴が天井から滴ってくるのを防ごうと、湿った毛布を頭から被って寝ていた俺の耳が「コンコン」と窓が叩かれる音をとらえる。
待ちに待った救助隊が来たのかと飛び起きて窓に近づく。
だが、窓の外から船内を覗き込んでいたのは美形の……人魚だった。
人魚って言っても、地球の絵本などに描かれている上半身が人で下半身が魚では無く、上半身は人だが下半身はイルカなどの海棲哺乳類のような姿。
人魚を観察すると腰に色々な道具類を引っ掛けたベルトを巻き、手に水中銃のような物を所持している。
ハハ、ホルストカンパニーの奴ら儲け損なったな。
発見した惑星に知的生物が存在していなければ、その惑星を発見した会社に惑星開拓の権利が与えられる。
しかし、知的生物が存在する場合は宇宙開発局が乗り出してきて権利が取り上げられ、開発局によりその知的生物と交流するか観察するかが決められるのだ。
そして此の知的生物を見つけた事で、俺の救助が早くなったという利点もある。
俺のような違法採取者の救助なんて後回しにされるのが常、それに対し知的生物を発見した旨を開発局に通報すれば、開発局のパトロール船が急行して来るからだ。
窓を挟んで美形の人魚と俺は互いに観察しあう。
美形の人魚を見ていたら人魚の後ろから別な者が現れた。
現れたのは半魚人そっくりな奴。
別な種か? と思ったが、仲良さげにお喋りを始めたのを見て仲間らしいと気がつく。
人が人魚と聞くと大半の人は、人魚姫を始めとして美形の女性を思い浮かべると思う。
だが、窓の外で戯れる2体の人魚と半魚人を良く観察すると、その体つきと戯れる動作から、美形なのはオスで半魚人がメスだという残念な事に気がついてしまった。