怪しむセリア
王宮の大広間に、豪華な食事が並べられた。
黄金に輝くロースト肉、芳醇な香りを漂わせる焼き立てのパン、湯気の立つスープ。そして果物や甘い菓子が美しく盛り付けられている。
だが、その中央——。
「ゴハン! ゴハン!」
奇妙な鳥が、テーブルの上に置かれた食事をつついていた。
広間に集まった貴族や騎士たちは、神妙な面持ちでそれを見守っている。王も、厳かな表情のまま鳥を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「汝の名を尋ねよう。我らが世界に降臨した神聖なる存在よ、汝は何と名乗る?」
その問いかけに、鳥は一瞬顔を上げた。
「グリ!」
間髪入れずに答える。
その瞬間、広間がざわめいた。
「グリ……? まさか……!」
「グリフォンの名……?」
「そうか! 神獣グリフォンが顕現したのだ!」
驚きと畏怖が広間を満たす。
セリアは「違う違う!」と叫びそうになったが、周囲の空気に飲まれ、言葉を飲み込むしかなかった。
彼女が「違う」と確信しているのには、理由がある。
(まず、グリフォンとは通常、半獣半鳥の姿を持ち、強力な魔力を持つと言われている……でも、目の前のこの鳥は、ただの鳥。羽はあるけど、獅子の身体も、猛々しい爪も、何もない。ただの丸っこい、小さな鳥……。
それに、勇者であるならば、神聖な光に包まれ、異世界の言葉を理解し、使命を帯びているはず。でも、この生き物は……喋る言葉が意味不明! そして、真っ先に要求したのが食事!?
何より、神獣や勇者ならば、私たちの世界に存在するどんな記述とも一致する特徴があるはず。でも、こいつには、どの伝説にも似た記述がない。まるで、どこか違う場所からワープしてきたみたい……)
王は周囲が神獣をあがめる姿を見て満足げに頷くと、セリアへと視線を向ける。
「セリアよ。この神獣を召喚したのはそなたであろう?」
「は、はい……」
「ならば、そなたが神獣のお世話役となり、その意思を汲み取るのだ。」
セリアの顔が引きつる。
(えっ、待って!? これ、絶対違うのに!?)
セリアはこっそりグリを見つめる。
「まるで……誰かが、言わせているみたい……?」
ただの思い違いだろうか。しかし、彼女の直感が「違う」と訴えていた。
だが、異を唱える間もなく、王の命は下され、セリアは“神獣グリ”のお供として付き添うことが決まってしまった。