グリは異世界にいました
「……グリ?」
俺は愕然としながら、辺りを見渡した。ベランダの下には何もない。地面にも、どこにもグリの姿が見当たらない。
「嘘だろ……どこ行ったんだよ!?」
心臓がバクバクと鳴る。
落ちたのなら、下にいるはずだ。
でも、いない。
どう考えてもおかしい。逃げたとしても、こんな短時間で視界から消えるわけがない。
訳が分からず、俺は頭を抱えた。
そのときだった。
突然、目の前の空間に、ふっと揺らめく光が現れた。
「……なに?」
光は徐々に形を成し、黒いフレームを持ったモニターのようなものが、宙に浮かんでいた。
「は? なんだこれ……?」
俺は自分の目を疑った。
部屋のどこにも接続されていない、突如現れたモニター。
そこには——見たことのない景色が映し出されていた。
広がる草原。遠くには城のような建物が見える。そして、その中央——。
「……グリ!?」
画面の中に、グリがいた。
だが、その周囲には見知らぬ人々。甲冑を着た騎士、ローブを羽織った者たち。皆が驚いたようにグリを見つめていた。
「おい、グリ!」
「……? ゴハン!」
画面の中のグリが、俺の声に反応した。
俺の胸が高鳴る。しかし、周囲の人々は何も反応していない。
「……俺の声が、グリにだけ聞こえてるのか?」
訳が分からない。
混乱が一気に押し寄せる。夢か? いや、こんなにリアルな夢があるか? 何かの幻覚? それとも……。
心臓の鼓動が早くなる。
「……おい、どういうことだよ、これ……」
俺はモニターを凝視しながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。