勇者を召喚したら鳥が来た
大広間には厳かな静寂が満ちていた。
中央に描かれた巨大な魔法陣。周囲には王国の高官や騎士たちが並び、神聖な儀式の時を今か今かと待っている。
その中心に立つのは、王国直属の召喚士——見習いのセリアだった。
(大丈夫、大丈夫……成功する。失敗なんて、ありえない……)
セリアは自分に言い聞かせながら、両手を魔法陣へと翳した。
「今こそ、神々の加護のもと、偉大なる勇者をこの地に召喚いたします!」
王国が長年求め続けたもの——それは、伝説の勇者。
この世界には、過去幾度も魔王や災厄が訪れた。そのたびに、異界より現れる勇者がそれを討ち滅ぼしてきたという神話が残されている。
王国の占星術師たちは、星の運行から「近い未来、新たな脅威が訪れる」と予言した。そして、それを討つべく、王国はかつての伝説にならい、異界から勇者を召喚することを決定したのだった。
しかし、召喚士の数は限られ、成功する確率も低い。そこで、見習いとはいえ召喚の素質があるセリアに大役が回ってきたのだ。
(やるしかない……!)
王の前で失敗など許されない。国の期待を背負い、セリアは精神を集中させる。
「異界の勇者よ、我が声に応じ、今ここに降臨せよ!」
魔法陣が輝き、光が渦を巻き始める。
空間が歪み、眩い閃光が広間を満たした。
「おお……!」
「ついに……!」
騎士たちが息をのむ。
セリアも目を見開いた。
——光の中から、現れたのは。
……小さな、羽の生えた奇妙な生き物だった。
「……え?」
セリアは呆然とする。
そこにいたのは、羽根の生えた二足歩行の生物。異様に丸みを帯びた体、くちばし、そして赤い尾羽。
勇者……?
いや、そんなわけがない。
「えっ……なに、これ……?」
「ナニコレ?」
広間に、軽快な声が響いた。
それは、目の前の奇妙な生き物の口から発せられた。
「な……!」
セリアだけではない。広間にいた全員が硬直した。
「お、おい、喋ったぞ……?」
「勇者、なのか……?」
戸惑う騎士たちの中、セリアの頭はフル回転していた。
(え、え、え……待って!? なにこの生き物!? 鳥? でも鳥じゃない! 知らない! こんな生き物、見たことない! しかも喋った!?)
頭が混乱する中、目の前の生き物は楽しげに羽をバタつかせた。
「ゴハン! ゴハン!」
その瞬間、広間は沈黙に包まれた。
騎士団、貴族、王。全員が顔を見合わせる。
「……飯を求めているのか?」
「勇者が……まず食を欲している?」
その場の空気が微妙なものになる中、最初に口を開いたのは王だった。
「……この存在は、もしかすると神獣なのではないか?」
その言葉に、広間が再びざわめいた。
「た、確かに……! 神話には、神の使いが異世界より降臨するという話もあります!」
「そうだ、召喚の儀は成功している。ならば、これは神の意思かもしれぬ!」
「神獣様……!」
周囲の者たちは次々とひれ伏し始めた。
しかし、セリアの表情は晴れなかった。
(そんなはずはない……。これは本当に神獣なの? それとも……?)