セリアと俺は
俺はモニターをじっと見つめていた。
セリアが震えながらも、必死にバリアを維持している。
「……逃げないのか。」
そう呟きながら、なんとなくわかる気がした。
セリアが気になっていた。
恋愛感情なんかじゃない。
ただ、見ていると、妙に自分と重なる。
出来ると確信したことは飄々とこなす。
でも、少しでも無理だと思ったら、すぐに逃げる。
まるで俺の人生そのものだった。
俺が引きこもったのは、社会に出てすぐのことだった。
学生の頃はそれなりにうまくやれていた。
勉強もそこそこ出来たし、コミュニケーションも必要最低限こなせた。
でも、社会に出た途端、何もかも違った。
期待されていたこと。
任された仕事。
最初は「まぁ、大丈夫だろ」と思っていた。
でも、現実は甘くなかった。
自分が思ったように動けない。
失敗するたびに、上司から叱責される。
周りと比べられ、自分がどんどん無力に思えてくる。
(俺には無理だ。)
そう思った瞬間、もうダメだった。
仕事に行くのが怖くなり、気づけば会社を辞めていた。
そして、家に引きこもった。
外に出るのも億劫になった。
逃げ出したら、戻るのは難しい。
モニターの向こうで、セリアは足を踏ん張っている。
(それでも、こいつは逃げないのか……?)
あの時の俺と同じように、「無理だ」と思ったらすぐに逃げてもおかしくない。
でも、セリアは違った。
(……俺とは、違うのか?)
それとも——。
こいつも、俺と同じように「逃げたい」と思っているのか?
俺はモニターを見つめながら、セリアの様子をじっと観察していた。
彼女は、明らかに分かっている。
ここで戦っても勝ち目がないことを。
それでも、逃げない。
バリアを張り続け、フィオナの帰還を待っているのだ。
(……フィオナ、早く戻ってこいよ……!)
俺は画面の中のセリアを見ながら、ふとフィオナのことを考えた。
今頃、狩りを終えて戻る途中なのだろうか。
そして、この状況を目にしたら、彼女はどうするのか。
きっと——逃げたいだろうな。
逃げたいよな、きっと。
でも、逃げられないよな。
俺と同じように、「無理だ」と思えば逃げる選択肢もあるはずなのに。
セリアも、フィオナも、逃げない。
俺は……何もできない。
(がんばれ……)
気づけば、俺は画面の向こうの彼女に向かって呟いていた。
「がんばれ……頑張れ……!」
「ガンバレ! ガンバレ!」
その瞬間、グリが大きな声で叫んだ。
セリアは驚いたように目を見開いた。
「……神獣様……?」
グリが繰り返す。
「ガンバレ! ガンバレ!」
セリアの頬が、かすかに震えた。
バリアの向こうで、エルゴードの攻撃がさらに激しくなる。
それでも——
「……うん。神獣様……私はひとりじゃないよね。」
セリアの声が、かすかに強くなった。
そして、彼女の目には、再び闘志の光が宿る。
俺は、ただモニターを見つめ続けた。




