女騎士の正体
温泉の湯気がゆらゆらと揺れる。
セリアは目を閉じながら、心地よい湯の温もりに浸っていた。
「……ふぅ、やっぱり温泉って最高ね……。」
すると、隣で静かに湯に浸かっていたフィオナが、ふっと息をついた。
「……セリア。」
「ん?」
「お前は、六騎士という存在を知っているか?」
「六騎士?」
セリアは目を開け、フィオナを見た。
フィオナは湯に肩まで浸かりながら、遠くを見るような目をしていた。
「昔……この国には、六騎士と呼ばれる六人の騎士がいた。王国最強の剣士たちで、魔王軍にとっても脅威となる存在だった。」
「そんな人たちがいたんだ……。」
「……私も、その六騎士の一人だった。」
「えっ!?」
セリアは驚き、思わず湯から身を乗り出す。
「フィオナさんが……!? でも、どうして今は……?」
「……かつて、私たち六騎士は魔王軍を追い詰め、あと一歩で勝利を掴もうとしていた。だが——」
フィオナは少し間を置いて、静かに続ける。
「——罠だった。」
その一言に、セリアは息を飲んだ。
「私たちは魔王軍の計略にはまり、囲まれた。激しい戦闘の末、六騎士は全滅……全員、死んだと思われている。」
「……じゃあ、フィオナさんは?」
「私は……運が良かった。」
フィオナは自嘲気味に笑った。
「戦いの最中、致命傷を負いながらも、かろうじて生き延びた。そして、気を失ったままこの村の人々に助けられたんだ。」
フィオナはそっと湯に指を滑らせた。
「それ以来、私はこの村に身を隠しながら生きてきた。……もし、魔王軍に私が生きていると知られれば、この村も標的になるかもしれない。それだけは避けたかった。」
セリアは言葉を失った。
そんな過去があったとは思いもしなかった。
「それで……リューゲン王国の騎士になったの?」
「そうだ。表向きは王国の兵士として、だが、私はこの村やその周辺を守るために剣を振るってきた。」
「……」
セリアはじっとフィオナを見つめる。
「他の六騎士も……生きている可能性は?」
フィオナはかすかに微笑む。
「……わからない。」
それは、答えたくないのではなく、本当にわからないのだろう。
「私は……生き延びるだけで精一杯だった。この村にたどり着くので、やっとだった。」
温泉の湯気が、静かに二人を包み込む。
「……もし、生きているのなら、いつかまた会いたいとは思っている。」
フィオナはそう言いながら、湯に深く沈み込んだ。




