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北の森の奥へ

 北の森——。

 陽の光が届かないほど鬱蒼と茂る木々。湿った空気が漂い、遠くで不気味な鳥の鳴き声が響いている。

「……この森、なんか嫌な感じがする。」

 セリアは身震いしながら、杖を強く握った。

「ニガナカンジガスル!」

「いや、お前は軽い気持ちで繰り返さないでよ……!」

 肩に乗るグリはいつもの調子だったが、セリアの背筋には冷たい汗が流れていた。

「このあたり、魔物が多いな……!」

 前を歩く兵士の一人が、警戒しながら剣を抜く。

 森の中では、すでに何度も魔物に襲われていた。

「グォォォ……!」

「またか……!」

 オークが一体、茂みから飛び出してきた。

 セリアは後ずさるが、

「ふんっ!」

 兵士の一人が一閃。

 オークは剣を受けた瞬間、吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。

「ギャアアアア……!」

 別の方向から現れたグールも、もう一人の兵士が軽く剣を振るだけで消し飛ぶ。

(……やっぱり、この人たち、めちゃくちゃ強い……!)

 セリアは戦闘のたびに後退し、魔法を撃つまでもなく兵士たちが敵を片付けるのを見届けていた。

 自分が手を出すまでもない。

「おい、大丈夫か?」

 兵士の一人がセリアを振り返る。

「え、ええ……その、すごいですね。」

「王国兵は伊達じゃないからな。」

 兵士が誇らしげに笑う。

(この人たちがいれば、案外このまま薬草を取ってすぐ帰れるんじゃ……?)

 そんな淡い期待を抱きながら、セリアは森の奥へと進んでいった。


 森の深部。

 木々の隙間から、かすかに霧が立ち込めている。

「王様の話だと、この辺りにあるはず……。」

 セリアは周囲を見回しながら、地面に目を向ける。

「薬草……薬草……。」

「ゴハン!」

「いや、違うでしょ!!」

 グリを小突きつつ、セリアは葉の茂る茂みをかき分けた。

 兵士たちも、注意深くあたりを見渡す。

「ん……?」

 そのとき、森の奥から不気味な風が吹いた。

「……誰だ?」

 兵士の一人が、剣を抜いたまま声を低くする。

 ただならぬ気配。

「……歓迎しよう。」

 どこからともなく、低く、木々を揺らすような声が響いた。

 その瞬間——。

 森の奥から、一人の男が現れた。

 全身を黒い蔦のようなもので覆われ、片手に禍々しい杖を持つ。

 冷たい目が、じっとセリアたちを見つめていた。

「……黒樹のエルゴード。」

 兵士の一人が唾を飲み込む。

 魔王の九幹部の一人。

 ついに、最悪の敵が姿を現した——。

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