引きこもりの俺とオウムのグリ
俺は一人暮らしをしている。
社会から距離を置いてもうどれくらい経つだろう。仕事を辞め、外へ出るのは週に数回の買い物だけ。家の中で過ごす時間がほとんどになり、気づけば誰とも会話をしない日が続いていた。
そんな俺にとって唯一の話し相手——いや、家族と呼べる存在がいる。
それは、オウムのグリだ。
「グリ、おはよう」
「オハヨウ! ゴハン! ゴハン!」
朝、ケージのカバーを外すと、グリはすぐに俺の言葉に反応する。昔から言葉をよく覚え、日常の中で俺が話しかけたフレーズを繰り返すのが得意だ。
「今日はいい天気だな」
「イイテテンキ! ゴハン! ゴハン!」
「お前、結局そればっかりだな……」
俺は苦笑しながら、グリのケージの前に餌を置いた。
この鳥は、俺が唯一まともに会話できる存在だった。
グリはただのオウムだけど、俺の言葉に反応してくれる。孤独な日々の中で、唯一俺の声を聞いてくれる存在だった。
「グリ、こっちおいで」
「オイデ!」
俺が指を差すと、グリはちょこちょこと止まり木から降りて肩に飛び乗ってくる。小さな爪が首筋に当たる感触が心地よい。
「よし、いい子だな」
「イイコダナ!」
言葉を真似するだけなのに、まるで会話が成立しているように感じる。
この狭い部屋の中、俺とグリだけの世界。けれど、それだけで充分だった。
「今日も外に出るのはやめておくか……」
「ヤメテオクカ!」
「お前まで繰り返すなよ……」
グリが面白そうに羽をバタつかせる。
俺にとって、この鳥は心の支えだった。