モンスター現る
カタン、カタン、と馬車の車輪が規則的に回る音が響く。
朝から馬車に揺られ、セリアは少し退屈していた。
「……こんな旅で、本当に魔王討伐ができるの?」
ため息混じりにそう呟く。
「トウバツ!」
グリが勢いよく繰り返す。
「いや、あんたが討伐するわけじゃないでしょ……」
セリアは呆れたように肩をすくめた。彼女の肩にちょこんと乗るグリは、相変わらず何も考えていなさそうに羽をバタつかせている。
この鳥が神獣扱いされ、共に魔王討伐に旅立ったというのだから、もはや世の理が崩壊しているとしか思えない。
そんな時——。
「……ん?」
御者台に座る馬車の御者が、馬の手綱をきつく引いた。
「お、おい……!」
前方の道の先、何かが動いた。
木々の隙間から、小さな影がいくつか飛び出してくる。
「ゴブリン!?」
セリアは反射的に杖を握った。
緑色の小柄な体、ギラついた目、錆びたナイフを握りしめたゴブリンたちが、馬車の進路を塞ぐように広がっている。
「これは……襲撃ってやつ?」
「ゴハン!」
「いや、あんたのご飯じゃないから!」
グリの無邪気な発言を無視し、セリアは身構えた。
「ちょうどいい、戦闘の練習だ!」
こうして、セリアとグリの最初の戦闘が幕を開けた——。
「……おいおい、マジかよ……」
俺は画面を見つめながら、頭を抱えた。
そこには、異世界でゴブリンに包囲されるセリアとグリの姿が映っている。
「こんな状況で戦えるのか? いや、セリアが戦うのはわかるけど……グリ、お前は何もできないだろ……?」
案の定、画面の中でグリは気楽そうに羽をバタつかせている。
「ゴハン!」
「いや、飯じゃねぇよ!!」
頼むからもうちょっと状況を読め!
俺の声は相変わらずグリ以外には届かないが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「セリア、大丈夫か……?」
不安を抱えながら、俺は画面の向こうを見守るしかなかった。




