謹慎中の検証
崖で死にかけてから3日目
今、アレンは自宅で謹慎中だ。
母さん「本当に生きていてくれてよかった」
と涙を浮かべ、ぎゅっと抱きしめてくれた。前世で毒親に育てられた自分にとって、この無条件の愛情は何よりもありがたく、心底安心できる温もりだった。
母さんにはなるべく心配かけないようにしようと思った。
自分の部屋に戻ったアレンは考える。
「よし……今の状況を整理しよう」
アレンは窓際に移動し、小さな声でつぶやいた。
「ARインターフェイス」
インターフェイスは、発音しても念じても呼び出せるらしい。
ちょっと言いにくいんだよな……
呼称を「ARインターフェイス」から「ステータス」に変えられないかと思い、
「ステータス」と念じてみる。すると、淡い光の輪が手元に現れ、画面が浮かび上がった。
「なるほど、『ステータス』でも呼び出せるわけね」
短い命令で安定して画面が出せることを確認し、アレンはメニューをじっくりと眺めた。
【ステータス】
【魔力残量】 38/38
【権限】
・回復魔法の権限(回復魔法を使用する才能)
【インストール済み術式】
・ヒールスキン [消費魔力: 15]
・ディープヒール [消費魔力: 30]
【スキル】
・自由の権能(経験や行動の固定化、譲渡可能)
【クエスト】
・世界の救世
発行者: アストリア
報酬: 君が望む世界
この謹慎期間中にいろいろ調べた結果、わかったことは以下の7点だ。
・ヒールスキンで、1時間ごとに魔力が1回復する
・睡眠中は回復速度が2倍になる
・シスターのヒールは連続10回まで。総回復量は約150くらいが大人の平均?
・術式の検索機能がありそうだけど、試しても呼び出せない
・自由の権能は使い方不明で、反応がまったくない
・クエスト発行者アストリアの正体は母親に聞いてもわからず依然として謎
・魔法は才能がないと使えない
――アレンは深く息を吐き、肩の力を抜いた。
結局、まだまだ分からないことだらけだ。
術式のインストールもまったく反応しないし、自由の権能だって全然《自由》じゃない。
アレンは一度立ち止まり、視線を遠くに泳がせた。
好きなスキルを自由に作れるかと思ったけど、使い方がさっぱりわからない。
しかも魔法は才能がないと使えないらしい。
つまり、この回復魔法の権能が俺の魔法の才能のすべてってことか。
「俺って回復専用ヒーラー枠……?何か思ってたのと違うんだけど」
アレンは小さく目を伏せた。
「まあ主人公って柄じゃないか」
今世では才能も手に入れて、回復の魔法、つまり医療の才能があれば前世でも生活には不自由しないだろう。
贅沢な悩みかもしれないけど、
でも……期待してたぶんだけ、ショックは大きかった。
『どうして心が重く感じるのだろうか……』
なぜこんなにも期待しているのか、自分でもわからない
ただなんとなく心にぽっかり穴が空いているような気がした。
仕方なく庭へ出てきたアレンは、前世の子どものころから嫌なことがあると
よくやっていたストレス発散法を思い出す。
握りしめた小石を拾い、懐かしさに浸りながら木に投げつける。
「コン!」という音に、ふと思わず笑ってしまう。
いい年をしたおっさんが何をやっているのかと
「やってること、完全に子どもだけどな。というか子どもか!」
「でもまあ、いいや。誰かこの世界を救ってくれよ!」
謹慎7日目。
相変わらず石投げを続けていると、回数を重ねるたびに狙いが冴え、前世よりもずっと上手くなっている自分に気づく。
「このまま野球選手でも目指すか?」とバカなことを考えていると――
突然、視界にステータス画面が浮かび上がった。
システムメッセージ:自由の権能により経験値が規定量に達しました。スキル化します。
新スキル「投擲」を習得しました。
アレンはぎょっとして小石を落とし、ぽかんと口を開けた。
「へ……?」