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転生したのに死にかける

 数年前――


「ねえアレン、今日は特別な場所に連れて行ってあげる!」


 リナが振り返り、目を輝かせて言う。


 暖かな午後、村の外れにある小道を、リナとアレンが並んで歩いていた。

 リナは目を輝かせながら先を進み、アレンは少し不満げな顔をして後ろをついて行く。


「特別って、どうせまた冒険ごっこなんじゃないの?」


 アレンは肩をすくめながら冷たく言い返した。


「違うの!今回は本当にすごいんだから!」


 リナは口を尖らせて反論し、力強く胸を張った。


「へえ、どう凄いのさ?」


 アレンは興味なさげに問い返すが、リナの熱意に少しだけ気を引かれていた。


「川が見える崖の近くでね、風が気持ちよくてね!景色が綺麗なんだよ!」


 リナは両手を広げて熱弁する。


「崖って……危なくないの?」


 アレンは眉をひそめる。


「ほんっと男の子って情けないよね!そんなの平気に決まってるじゃん!まさか怖がってるの?」


 リナが挑発するように言うと、アレンは軽く舌打ちをしてそっぽを向いた。


「怖くないし。ただ、わざわざ行くほどの場所かなって思っただけ。」


 アレンの言葉は冷たいが、リナを振り払うことはしない。


「じゃあ、つべこべ言わずについてきて!」


 リナは嬉しそうにアレンの手を引っ張る。


「ちょっ、引っ張るなってば……分かったから。」


 アレンはため息をつきつつ、リナについていった。


「そうそう、それでいいの!」


 リナは得意げに笑いながら再び先を進む。


「あ、そうだ!」


 リナは急に立ち止まり、ぴょんとアレンの前に立ちはだかると、スカートの裾をひらりと広げた。


「今日の服、可愛いでしょ?お母さんが選んでくれたんだ!どう、似合ってる?」


 彼女は少し回りながら、期待を込めた目でアレンを見つめる。

 アレンは一瞬、リナを見て目をぱちぱちと瞬かせたが、すぐに顔を赤くしてそっぽを向いた。

 広がったスカートの裾から、白くすらりとした素肌がちらりと見えた。その瞬間、アレンの視線は無意識にそこへ釘付けになり、心臓が跳ねるような感覚に襲われた。


(細くて……触ったらどんな感じなんだろう)


 顔が一気に熱くなるのを感じ、慌てて視線を逸らしたが、さっきの光景が頭から離れない。


(あー、やばい、絶対バレてないよな……リナにばれたら恥ずかシヌ……!)


「……まあ、別に悪くないんじゃない?」


 声が小さくなり、どこかぶっきらぼうな口調で答えた。


「えっ、本当?」


 リナの顔がぱっと明るくなり、大きな瞳をさらに輝かせる。

 その表情には、無邪気な喜びとどこか妖艶な魅力が交錯していた。


「アレンのために選んだんだよ。」


 リナは軽く上目遣いで囁くように言いながら、さらにスカートの裾をちょっとだけさらに上げる。


「……そ、そうなんだ。」


 アレンはさらに顔を赤くして、そっぽを向いたまま何も言えなくなった。


「ふふっ、よかった!アレンが似合ってるって言ってくれると、それだけで嬉しい!」


 リナはスキップするように歩き出し、その後ろ姿を見てアレンは心の中でそっと呟いた。


(なんであいつ、あんなに楽しそうなんだよ……)


「ほら、早く来ないと置いていくよー!」


 リナの明るい声に、アレンは少し慌てて追いかける。


「はいはい、強引だよなリナって……」


 呟きながらも、アレンの口元にはわずかに微笑みが浮かんでいた。


リナはアレンの手を引っ張りながら、小道をどんどん先へ進んでいく。


「どこに行くの?」


とアレンが尋ねると、リナは振り返り、笑顔で「着けばわかるって!」と答える。

少し歩くと、目の前に広がったのは青い空と輝く川。

川の水面はキラキラと光り、草と花が風に揺れている。


「すごい……!」

とアレンは目を輝かせ、駆け出した。

崖の近くまで走ったアレンは「本当に綺麗だね」と言い、振り返ってリナに微笑む。

その姿にリナは満足そうに頷いた。


二人が草の上に腰を下ろすと、リナはもじもじと指を絡めながら小さな声で言った。


「ねえ、アレン……ここに連れてきたのは、大事な話があるからなの。」


アレンが不思議そうに「大事な話?」と聞くと、リナは深呼吸をして勇気を振り絞った。


「私、アレンのことが好き。本当に、大好きなの。」


驚くアレンに、リナはさらに続ける。


「アレンが12歳の誕生日にね、私と婚約できるように、お母さんにお願いしてるの。それだけじゃなくて、アレンのお母さんにも話してるんだよ!」


「えっ……僕の母さんに?」

とアレンが戸惑うと、リナはアレンの肩に手を置き、真っすぐに見つめた。


「だって、アレンとずっと一緒にいたいから。」

その言葉のあと、リナは静かに顔を近づける。


「……ん、リナ……?」


リナはじっとアレンを見つめたまま、静かに顔を近づけた。


「ちゅっ」と音を立ててアレンの唇に自分の唇を重ねた。


アレンの目が驚きで見開かれる中、リナは唇を軽く動かしながら、さらに「ん……」と小さな息を漏らした。


その瞬間、アレンの唇にリナの舌がそっと触れる。


「ぬるっ」とした感触が一瞬走り、アレンの頭に甘い痺れが広がった。


やがてリナはゆっくりと唇を離し、頬を赤らめながら微笑んだ。


「これが、私の気持ち。」


しかし、アレンは顔を真っ赤にしてその場に硬直していた。

頭が沸騰しそうで、何も考えられない。


「やめてよ!」


アレンは突然リナを押し返し、立ち上がった。恥ずかしくてリナの顔を見ることができない。

リナは驚いたように目を見開き、すぐにアレンの両腕を掴んだ。


焦りが彼女の顔に浮かんでいる。


「なんでよ!私とずっと一緒にいたくないの?」


リナは必死に訴えるように叫んだ。


「リナのすけべ!」

アレンは混乱しながら声を上げた。


「いっつもリナは自分勝手だ!僕の体をベタベタ触ってくるし、すけべなリナなんかと結婚なんてしない!」


ただの照れ隠しのつもりだった。

顔が熱くなり、どうしていいかわからず思わず口にしてしまった言葉だ。

しかし、その言葉はリナの心を深く傷つけてしまった。


その言葉にリナの表情が一瞬固まり、次の瞬間には怒りと涙が混じった声で叫んだ。


「アレンのバカー!」


リナは突き飛ばすようにアレンの胸を押した。


その瞬間、アレンの体がぐらつき、崖の縁を踏み外す。


「ぐらっ……!」


アレンは崖の斜面を転がり落る。


最後に「ゴツン!」という鈍い音が響いた。


「アレン!あれえええん!」


リナは涙を浮かべながら崖の上から叫ぶ。


崖下でアレンは微かに目を開き、弱々しい声で呟いた。


「リナ……泣かないで……」


その言葉にリナは涙をこぼしながら聞き入る。アレンは瞼を閉じかけながら言った。


「あー……これ、ダメなやつだな……」


涙で歪むリナの顔を見て、かすかに笑みを浮かべる。


「リナ……ごめんね……こんなことなら……僕もリナと結婚したいって……言えばよかったな……」


アレンの声が弱まり、瞳が静かに閉じる。


「アレン!アレン!」


リナは崖の上で泣き叫び、手を伸ばすが届くわけがない。


「ダメだ……私じゃ助けられない……!」


リナは涙を拭う間もなく立ち上がり、村へ向かって駆け出した。

後悔が胸を締め付け、涙が止まらない。


「私じゃダメ……誰か、大人に助けてもらわないと!」


リナは立ち上がり、涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま村へと駆け出した。

走りながら、リナの頭の中は後悔の声でいっぱいだった。


「アレン、待っててね……絶対助けるから……!」


リナの泣き叫ぶ声が風に溶け、遠くに響いていた。


その声を聞きながら、アレンの意識は薄れていく。

すると、頭の奥深くから前世の記憶が次々と浮かび上がってきた。


(……あー、そうか。俺、転生してたんだな。)


仕事帰りの記憶がよみがえる。

疲れた体を引きずってラーメン屋に入り、ささやかに豚骨ラーメンとビールで一息ついた。

あの瞬間だけが、何にも縛られずに自由だった気がする。


(それで、帰り道……そうだ……)


一人で夜道を歩いていたとき、突然後ろから誰かに刺された感覚を思い出す。

振り返ると見知らぬ女がナイフを握っていて、彼女が何か叫んでいたのも覚えているが、内容は全然思い出せない。


(結局、あれでジ・エンドだったんだよな……。何の因果か、あの世行きだったわけだ。)


アレンは乾いた笑いを漏らす。


(で、今世でもこうやって死ぬのか……けど、前世じゃ告白なんてされたことなかったしな。)


ふと、リナの涙に濡れた顔が浮かぶ。


(あんな可愛い子に告白されて死ぬなんて……まあ、ラッキーっちゃラッキーか。ははは……)


笑いながらも、心の中でつぶやく。


(あーあ、もう少し生きていたかったな……)


意識がぼんやりとしている中、突然、聞いたことのない冷たい声が頭の中で響いた。


「警告:対象の生命活動が危機的状況に達しました。緊急プロトコルを起動します。」

その言葉と同時に、視界に透明な画面が浮かび上がる。見慣れない情報が目の前に展開された。


---------------------------------

【ARインターフェイス】

【魔力残量】 38/38

【権限】

 ・回復魔法の権限

   回復魔法を使用する才能。

【インストール済み術式】

  (現在インストールされている術式はありません)

【スキル】

 ・自由の権能

   経験や行動の固定化、譲渡可能。

【クエスト】

 ・世界の救世

   発行者: アストリア

   報酬: 君が望む世界

---------------------------------



(何だ……これ……どうして頭の中に……?)


電子音が冷たく続く。


「現在の体の状況を分析し、必要な術式を検索します……検索中……」


画面の中央に術式検索中を示す光の輪が現れ、数秒後に結果が表示される。


【検索結果】

ヒールスキン [消費魔力: 10]

ディープヒール [消費魔力: 25]


「検索が完了しました。必要な術式をダウンロードします。」


術式リストが再び明るく輝き、次第にその形を明確にしていく。


「ヒールスキン、インストール成功。ディープヒールのインストールを開始します。」


ディープヒールのダウンロードを開始した途端、再び警告音が鳴り響いた。

「ダウンロードエラー……規定の魂の量を満たしていません。」

(魂の量……?)


計算中を示す電子音が響く。

「計算結果……魂の量、ギリギリ基準を満たすことを確認しました。」


一瞬の間を置いて、声が告げる。


「緊急事態につき、強制ダウンロードを実行します。」


圧倒的な光が術式リストから放たれ、アレンの視界に術式がインストールされる様子が映し出される。


「ディープヒール、ダウンロード完了。術式を発動します。」


術式が発動され、アレンの体に温かな光が降り注いだ。傷がじわじわと癒えていき、血が止まり始める。


「ディープヒール発動……魔力を消費。」

続いて、「ヒールスキン発動……魔力を追加消費中。」


視界の魔力残量が次第に減少していく様子が映し出される。


【魔力残量】 3/38


(なんだ……熱い……けど、これ……僕の体を治してるのか?)


光が徐々に消えていき、傷が完全に塞がると声が静かに消えた。


「回復魔法の実行完了。生命維持が安定しました。」


アレンは荒い息をつきながらまだ動けないでいる。

だが、体は確実に癒えていた。


「なんだよ、これ……僕……生きてるのか……」


アレンはまだ動かない体で空を見上げた。

その視界には、また一度だけ薄く光るクエストが表示されていた。


【クエスト: 世界の救世】

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