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薬院宮の毒草公主は平穏を望む  作者: 江本マシメサ
第一章 風宮――美容妃の憂鬱
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四夫人の問題

 天帝が創りし巨大国家〝天猽国〟――そこには絶対君主である皇帝が国民の頂点に立ち、長きに渡り支配している。

 そんな皇帝の象徴は、帝都〝亢龍こうりゅう〟でも大きな存在感を示す〝黄禁城こうきんじょう〟。

 皇帝の色を現す黄色の屋根は圧巻で、巨大な皇帝の移住区に朝廷、一万にも近い部屋数など、権力を示すような絢爛豪華けんらんごうかな造りとなっている。

 そんな黄禁城の後方に位置する場所に、皇后や妃、公主らが暮らす後宮があった。

 一昔前までは数百人の美女妃が住まう夢のような場所だったが、その歴史も猛毒妃と呼ばれた皇后烈華の登場により幕を閉じる。

 皇帝の専属薬師だった彼女は長年暗躍し、気に食わない妃らを毒殺して回っていたのだ。

 現皇帝の初代皇后、燦珠璃の死も薬師時代の烈華が産褥熱だとねつ造し殺したのではないかと噂されるほどだった。

 猛毒妃烈華の暗躍の影響で数百名いた妃らは四名にまで減った。

 後宮に誰もいなくなるまで烈華の暴挙が続くと思いきや、彼女は突然死んだのだ。

 原因不明だったため、死因は変死として片付けられる。

 皆、烈華の死を不気味がっていた。

 新しい皇后、黎雪花が即位し、後宮に平和が訪れると思っていた。

 四夫人がそれぞれ別の体調不良を訴えるまでは。


 後宮には皇后の持つ鳳凰宮ほうおうきゅう、元皇后烈華が造らせた薬院宮の他に、四夫人が暮らす宮殿がある。


 美麗妃びれいひと呼ばれる美意識が高い妃、李思思り・ししが所有する風宮ふうきゅう


 画師妃がしひと呼ばれる芸術家である妃、玉翡翠ぎょく・ひすいが所有する花宮かきゅう


 美食妃びしょくひと呼ばれる食通の妃、胡麗明こ・れいめいが所有する雪宮せっきゅう


 野菜妃やさいひと呼ばれる農村出身の妃、馬青香ば・せいかが所有する月宮げっきゅう


 それらは黄禁城内でも華やかな建築が施されており、四季折々の美しさを宮殿内に取り込んで風花雪月ふうかせつげつの情緒情趣を取り込んだ佇まいとなっている。


 皇后の監督のもと、四夫人は不自由のない暮らしをしていたのだが、ある日それぞれ体調不良を訴えるようになった。


 美容に命をかける思思妃は真珠のような肌と絹みたいな髪が自慢だったが、酷い肌荒れと髪の傷みに悩むこととなる。

 さらに舌の感覚もおかしくなり、食事をおいしく感じなくなったそうだ。


 皇帝専属絵師である翡翠妃は突然のめまい、骨や関節の痛みに加え、耳が聞こえにくくなったという。

 絵を描く以外は寝込んでいるようだ。


 国中から珍しい食材を集め夜な夜な宴を開いている麗明妃は、ある日を境に吐き気、嘔吐、下痢を繰り返すようになったという。

 大好きだった宴を自粛する毎日を過ごしているとのこと。


 宮殿の庭に畑をこしらえ農作業に勤しんでいた青香妃は、倦怠感と眠気に襲われ、すっかり元気がなくなっている。

 くわを持たない日はなかったと語っていたものの、現在は数日もの間握っていないらしい。


 それぞれ後宮を出入りしている宦官医が診察したものの、特定の病と診断されず、効果的な治療法もないままであった。

 四夫人のうちの一人が症状を訴えているのならばまだしも、全員が全員原因不明の体調不良に襲われているのだ。


 いっこうによくならない四夫人の様子を見守っていた女官達が、しだいに口々に噂するようになる。

 彼女らの体調不良は猛毒妃の毒が原因なのではないのか、と。

 死して尚、猛毒妃烈華は妃らを苦しめている。

 自らの命と引き換えに、四夫人を呪ったのだと触れ回るようになったのだ。


 そのような噂話が後宮内で流れることは、皇后雪花にとっては心外である。

 悪い噂ばかり流れる烈華だったが、意外にも雪花には親切だったらしい。

 四夫人時代、なかなか子どもが生まれないという悩みを烈華に打ち明けた雪花は、ある漢方を受け取ったという。それを飲んだら妊娠することができたのだ。

 その後、薬院宮が後宮内にできてからは直接言葉を交わすことはなかったものの、文の交換は続けていたらしい。


 烈華の一人娘、山茶花は雪花からも後宮内に流れる不穏な噂を調査し、真実を明らかにしてほしい、と頼まれる。


 喪が明けてから、皇后雪花と二度目の面会を果たした。

 今回は夕星との結婚報告をするためだったが、後宮で発生している事態についても詳しい話を聞くことができたのだ。

 夕星もついてくると言ったものの、彼は毒草団子を食べて寝込んでしまった。

 きちんと毒が入っていない団子を作っていたのに、山茶花や南天が食べる用にと作った毒入りのほうをうっかり食べてしまったのである。

 山茶花は毒なしの皿を用意し、説明をしていたのに話を聞いていなかったのだろう。山茶花がでかける前までのたうち回って苦しんでいたが自業自得だった。

 今頃南天から献身的な看護を受けているだろう。

 目が覚めたら水をたくさん飲ませなければ。そんなことを考えつつ鳳凰殿の廊下を歩いていると、背後から声がかけられる。


「桜山茶花! 見つけたぞ!」


 振り返った先にいたのは二十歳に満たない少女。

 黒銀の髪を美しく結い上げ、豪勢な金の簪と玉で飾った姿は百合のごとく美しい。

 そんな彼女は怒りの形相で山茶花のもとへ接近してきた。


「お主、夕星様と結婚したと聞いたが!?」

「はい、間違いありません」

「この、泥棒猫が!!」


 少女は頭に刺していた金の簪を引き抜くと、山茶花に向かって投げてくる。

 攻撃を予想していた山茶花はひらりと回避したので、簪が床に転がる音だけが廊下に響き渡った。


「お、お主、なぜ避ける!? あの簪がいくらするのか知らないのか?」

「知っていたら、普通は投げないと思うのですが」

「お主がその身で受ければ、簪が傷つくこともなかっただろうに!」


 女官が拾ってきた金の簪は傷が付いていた。少女はそれを叩き落とし、身につける価値などないと叫んでいた。


 いきなり山茶花に絡んできた少女の名は黎月花。皇后雪花の一人娘である。

 幼少期から山茶花を敵対視し、ことあるごとにケンカをふっかけてくるのだ。

 今回は夕星との結婚が気に食わなかったのだろう。山茶花はため息を零す。


「夕星様のことを、誘惑したのだろう!?」

「いいえ、そのような事実はございませんわ」

「嘘を吐くでない!」


 この調子だと永遠に恨まれる。そう思った山茶花は真実を述べた。


「月花、わたくし達の結婚はあくまでも偽装的なものですの。後宮の騒動を調査するために、夕星様が都合がよいと望んだことですわ」

「そ、そうなのか?」

「はい」


 事件が解決すればこの夫婦関係は解消されるだろう。そう告げると、月花の怒りはあっさり収まる。


「なぜそれを早く言わぬのか!」


 月花は上機嫌な様子で叩き落とした金の簪を拾うように女官に命じると、受け取ったそれを結婚祝いだと言って渡してきた。


「期間限定の妻であれど、夕星様に恥をかかせるでないぞ!」

「……」


 去りゆく月花を見つめながら、朝から早くも疲労感を覚える山茶花であった。

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