書籍発売記念 南天の誕生日!
毒草園を、白い家禽がガアガアと鳴きながら駆け巡る。
その様子に気付いた夕星が、のほほんと山茶花に話しかけた。
「わあ、かわいい家禽だなあ。あの子、うちで飼育するの?」
「いいえ、これから調理しますけれど」
「えーーー!?」
家禽のまさかの運命に、夕星は涙目になる。
「そっか。食用か。あんなにむくむくに太ってかわいいのに」
「むくむくに太っているのは、〝片皮鴨〟を作るからですわ」
「何それ?」
「丸焼きにした家禽を香ばしく焼いて、小麦粉を練って作る薄い皮に包んで食べる料理です」
「へえ、おいしそう!」
南天の誕生日が二日後に迫っているので、山茶花が手ずから作るという。
なんでも片皮鴨は調理に数日かかるようだ。
「そうだったんだ! だったら私も手伝っていい?」
「もちろん」
夕星に言い渡されたのは、家禽を捕まえるというものだった。
「ぐわぐわぐわ~~~!!」
「わー、待ってよ!」
毒草園を走り回り、毒にむせながらなんとか家禽を捕獲する。
「はあ、はあ……山茶花、捕まえてきたよ」
「ありがとうございます」
山茶花は慣れた手つきで家禽を締めたあと、血抜きをし、羽根を抜いておく。
続いて尻を切って体内に空気を入れて膨らましたものに、蜂蜜をお湯で溶かしたものを皮の表面に塗って、風通しのよい場所で乾かしておくのだ。
「この工程をすることによって、皮がパリッと、黄金色に焼けますの」
「へーーー! 手が込んだ料理なんだねえ」
「ええ」
それから二日後、南天の誕生日当日に、仕込んだ家禽を調理する。
林檎の木の薪で熾した火で、じっくり焼いていくのだ。
こうして手間暇かけることにより、黄金色にパリッと焼き上がった片皮鴨が完成した。
南天を呼んだら、誕生会が始まる。
片皮鴨を見た南天は、感極まっている様子だった。
「まあ、なんて立派な片皮鴨なんでしょう!! とてもおいしそうです」
「喜んでもらえてよかったです。今から皮を削ぎますので」
全体の皮と肉を百八片、削ぐという。
「山茶花、どうして百八片なの?」
「幸運を呼ぶ数字ですの」
「ああ、なるほど」
削いだ皮と肉は、小麦粉の皮にネギと甜麺醤のタレを付けて包む。
「南天、どうぞ」
「ありがとうございます」
南天は恐縮した様子を見せながらも、嬉しそうに受け取って頬張る。
「世界一おいしい片皮鴨です!」
「大げさですこと」
山茶花は夕星の分も作ってあげる。
「どうぞ」
「誕生日じゃないのに、いいの?」
「ええ、あなたも片皮鴨作りを頑張りましたから」
「やったー!」
夕星は一口でぱくりと頬張る。
小麦粉の皮はもちもちしていて、家禽の皮はパリパリ、肉はジューシーだった。
これが、甘辛いタレやネギとよく合う。
「本当、世界一おいしい!」
そんな感想を口にする夕星を見て、山茶花は淡く微笑んだ。
南天の誕生会は、和やかな雰囲気で過ぎていったのだった。




