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薬院宮の毒草公主は平穏を望む  作者: 江本マシメサ
第四章 月宮――野菜妃の悲劇

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まさかの事態

 山茶花はすぐに呼びかけた。


「青香妃! 起きてください! 起きて!」


 耳元で叫ぶも反応はなし。

 続いて青香妃の口元に耳を近づけ、呼吸音が聞こえるか確認する。


「息、してる?」

「いいえ」


 胸に手を当ててみたものの、心臓から鼓動は感じない。

 最後に手首に指先を当てて脈を調べてみる。これも確認できなかった。


「あなた、青香妃は亡くなられています」

「なっ――!?」


 病気か毒殺かはわからない。けれども女官が一人もいないという異常な状態で、青香妃が息絶えていることだけは確かである。


「あなた、どうします?」

「ひとまず皇后に報告をして――」


 今後の対処について話し合う中、ドタバタと大きな足音が聞こえた。


「え、何?」

「女官が立ち入る物音でないことは確実かと」

「山茶花、冷静だね」


 奥だ! 進め! という野太い怒号のような声も響いていた。

 山茶花が青香妃の枕元から立ち上がると、夕星が守るように前に出てくれた。

 それと同時に扉が勢いよく開かれる。

 押しかけてきたように登場したのは、武装した兵士だった。


「女の悲鳴が聞こえてきたと思えば」

「何事だ!?」


 山茶花はそこまで大きな悲鳴などあげていない。それなのにどこから声を聞き、駆けつけたというのか。山茶花は冷静な様子で兵士達を睨むように見つめる。


 兵士の一人がどかどかやってきて、口から血を流した青香妃の状態に気付く。


「なっ、死んでる!?」

「お前、青香妃を殺したな!?」

「はい?」


 いったい何を言っているのか。山茶花は問いかけるも、彼らは聞く耳なんぞ持っていないようだった。


「この者達を捕らえよ!!」

「はっ!!」


 大勢の兵士達が押しかけてきた。

 夕星が山茶花に手を伸ばすも、兵士の一人が頭を掴んで床に伏せられていた。

 じたばたと抵抗していたようだが、頭を殴られて失神したようだ。


「乱暴なことはしないでくださいませ! どこにでも同行いたしますので!」


 そう訴えると山茶花の腕に縄がぐるぐる巻きにされる。

  まるで罪人のように、山茶花は連れて行かれたのだった。

 脱出が難しいと思われた月宮から、連行という形で外に出ることとなった。

 空には満月がぽっかり浮かぶ。

 いつもならば美しいと思う月も、連行されている中ではどこか不気味に見える。


「よそ見しないで歩け!!」

「わかっておりますとも」


 夕星は暴れると思われたからか、全身縄で巻かれていた。運ばれる様子を見ながら、まるでイモムシのようだと思う。


 山茶花と夕星は縄で拘束された状態で馬車に乗せられ、運ばれていく。

 そんな状況を山茶花は冷静に受け止めていた。

 馬車には格子が填め込まれ、逃げられないような構造になっていた。

 見張りの兵士はおらず、夕星と二人きりとなる。


「あなた、意識はあるのでしょう?」

「あ、バレた?」

「ええ。殴られた場所は大丈夫ですの?」

「うん、平気。私、石頭でさー。たぶんだけれど、殴ったほうが痛かったと思う」


 その会話を最後に山茶花と夕星は押し黙る。互いにここで何を話しても無駄だと思ったからだ。

 その後、馬車は後宮内にある罪人を収容する建物に到着した。

 ここでは主に横領した女官や盗みを働いた宦官などが連行され、罰を受けているのだ。

 公主や妃が捕らえられたという記録はこれまでなかっただろう。

 貴人を収容するような場所はないようで、他の罪人らと同じように地下牢へと連れていかれた。

 山茶花と夕星は二人仲よく一つの牢に入れられる。

 そこは四つの牢がある空間だったが、他に収容されている者達はいないようだった。


「そこで反省してろ!!」


 兵士はそんな言葉を吐き捨て、重く堅牢(けんろう)な扉をバタン! と大きな音を立てて閉ざした。

 地下牢は灯りなんてあるわけもなく真っ暗である。ただ手を伸ばしたら夕星がいることだけはわかった。


「山茶花、ケガはない?」

「ええ、おかげさまで」

「よかった」


 それから夕星は何も言わずに山茶花の手を握った。まるで大丈夫、と言ってくれるような気がして山茶花は励まされる。

 どこで誰が話を聞いているかわからないのだ。余計なことは言わないほうがいい。それだけは互いに理解し合っていた。


 いったい誰がこのような事件を画策したものか。犯人は山茶花が月宮へ行くと知っている者だろう。

 不審な点と言えば女官達の不在である。どうして彼女達は一人もいなかったのか。

 山茶花の訪問をもっとも早く知り、犯行の計画を可能とするのは女官だろう。

 ただ、山茶花に殺人の罪を押しつけた意味が理解できない。

 誰かの依頼だった? それとも罪を被らせるならば誰でもよかった?

 わからない。

 青香妃は十八歳で天真爛漫な性格だったと聞いている。

 どんな人物なのか、山茶花も会って話してみたいと思っていたのだ。

 それなのに青香妃は一言も言葉を交わさずに命を散らしていた。

 いったい誰が犯人なのか。

 今頃犯人は山茶花に罪をなすりつけ、どこかでほくそ笑んでいるに違いない。


「絶対に、許しませんわ!」


 力強い声は牢に響き渡る。

 夕星の山茶花の手をぎゅっと握って応えてくれた。 

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