毒草園での邂逅
猛毒妃と呼ばれた先代皇后である桜烈華の死から一年――誰も寄りつけないはずの毒草園をひとりの青年が訪問する。
毒草ばかりが生え広がる庭で、マムシグサの赤い果実をぷちぷちと摘んでいた毒草妃の娘であり、公主でもある桜山茶花は背後から突然声をかけられ、頭の中が真っ白になった。
「やあやあ、おはよう。君が我が妹君、山茶花かな?」
振り返ってさらに驚いてしまう。
そこに立っていたのは幻かと思うくらいの美しい青年だったから。
年頃は二十歳半ばから後半くらいか。銀糸のような美しい髪に紫水晶のような澄んだ瞳、すらりと長い手足に誰もが見とれるような容貌――。
ただ山茶花が絶句したのは彼の容姿に驚いただけではなかった。
ここは彼女の亡き母、猛毒妃が愛した毒草園の中心地だったからである。
見渡す限りの毒草、毒草、毒草と、一歩足を踏み入れただけで毒の影響を受けてしまう場所なのだ。
ただ葉が肌に触れただけで腫れてしまうような強い毒性のある植物がいくつもある。
それだけでなく毒胞子をまき散らす菌類だってあった。
これまで山茶花とその母、女官の三人のみが立ち入るだけだった場所に、青年がのこのこやってきたので驚いているのである。
「私が誰かわかるかな?」
顔だけならば、山茶花の兄であり皇太子である人物にそっくりであったが――。
「お兄様ではありませんわね」
山茶花は言い切る。直接言葉を交わしたことはないものの、兄狼灰はこのように陽気な人物ではない。
「お兄様のことは遠目で目にしたことしかないのですが、真冬の北風のように冷たい空気を放っておりました。あなたのように、春の花風のようなお方ではありませんわ」
「花風みたいか~、初めて言われた」
青年は山茶花からの言葉を受け、にこにこしながら言葉を返す。
「その実、おいしそうだね。朝から何も口にしなくて、ひとつ貰ってもいい」
「え、あの」
青年は山茶花の持つかごから実を採らずに、その辺に生っていたマムシグサの実をちぎって頬張る。
「あなた、それは毒――!」
「ぎゃあああああ!!」
青年の悲鳴が毒草園に響き渡る。
山茶花がせっせと摘んでいた実はマムシグサという植物の実で、言わずもがな毒がある。
口にし噛んだ途端に不快な味が広がり、人によっては飲み込めないほどの強い痛みを感じるときもあるという。
「び、びりびりする! い、痛い!」
「口から出してくださいませ! 今すぐに!」
「の、飲んじゃった」
山茶花はうな垂れる青年の首根っこを掴んで、自らの手を口に突っ込んで無理矢理にでも吐かそうとした。
けれども青年は首を横に振って大丈夫だからと訴える。
「大丈夫なものですか!」
「本当に大丈夫なんだ。私は〝人族〟ではないから、毒で苦しんでも死にはしない」
「どういうことですの?」
ここで山茶花は青年の影が陽炎のようにゆらゆら揺れていることに気付く。
どうやら青年は人ならざる存在らしい。
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