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先生と私

作者: 森くん

いつからなのかはっきりとは思い出せない。初めて先生を見た時なのか、手を繋いで歩いた時か。気がついたらもうずっと私の心には先生が染み付いていて、今となってはどう足掻いたって拭いきれない。あの夢みたいな5日間を忘れたくなくて、今日も現実世界から思考を飛ばす。


先生との5日間を過ごす中で、写真は1枚も撮らなかった。代わりに目に焼き付けるように、肌にすり込むように記憶した。あの優しい視線も、心地よい声も、柔らかいキスも、首筋の匂いさえも忘れたくなかった。


私は初めから、失う時を思って怖くてたまらなかった。ふわふわした夢の中を歩いているようで、いつ目が覚めるのかと怯えていた。幸せと不幸せが同時に押し寄せてきて、それでもなだれ込んでくる幸福な時間にただ身を任せていたかった。


先生は別れ際、見送らずそのまま行って、と私に言った。私は先生に、お気をつけて、と一言いいそのまま立ち去ったけど、うまく笑えていたか分からない。一度も振り返らなかったし立ち止まらなかった。先生は帰るべきところに帰るだけで、悲しむようなことではないんだと自分自身を納得させるように、とにかくその場から遠ざかった。不思議と涙は出なかった。


今日も先生からの言葉たちが私へ届く。私はそれを確認しては安堵する。そしてこれはいったいいつまで続くのかと絶望する。先生は私を、天国にも地獄にも連れていくのだ。


だけどまだ、もう少しだけ、あの甘い時間の余韻の中にいさせて欲しい。目を瞑ると浮かんでくる。手を繋いで歩いた夜の公園も、スペインバルのテラス席の優しい風も、私を抱く先生の表情も全部。それだけで私は夢の中へまた潜っていける。


先生はこれをパラレルワールドと言ったけれど、じゃあどうやったらパラレルワールドへ行けるのだろう。夢でいいからもう一度会いたいと思ってしまう。

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