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3人の聖魔法使い  作者: えいちゃん
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3人の聖魔法使い エピソード2

◎  暫くの平穏


王妃様との文通が始まった。

スキルとか鑑定できるって初めて知った。

早速やってみた。


鑑定結果  スキル洗浄 

呪いや病原菌、瘴気を洗浄する。                   

ピュリフィケーションより効果が長続きし、強い。

病気の予防にもなる。


鑑定結果  ピュリフィケーション 

アンデッドを成仏させる。瘴気を浄化する。

穢れや汚れを浄化する


鑑定結果  生活魔法 浄化  汚れを浄化する。


鑑定結果  シールド 魔法障壁により物理攻撃や攻撃魔法から守る。


浄化は上に行くにしたがって上位互換ってことだね。

ちなみにトイレをしたら生活魔法の浄化ね。

ピュリフィケーションは強すぎた。

デリケートな部分をたわしで力いっぱいこすったらどうなると思う?

悲鳴を上げてハイヒールをかけたね。

ピクルスちゃん、笑いすぎだろ。


それから王都の伯爵邸でスキル洗浄とピュリフィケーションを使いまくった。

その結果、呪いや瘴気、人の悪い残留思念なんかがほぼなくなった。

王妃様との文通の結果、互いのスキル洗浄の内容が違うことがわかった。

個性なのかスキルのレベルかは検討課題とした。

聖なる光は伯爵領に帰ってから安全に配慮して試してみることにした。

あだやおろそかに使うなってどーゆーこと?


鑑定結果  スキル交換  交換する

はい、スキル交換については全くわかりませんでした。


(サンドウィッチ家の昇爵と領地の割譲についてはあなたの活躍分も入っているので侯爵から分け前を貰ってくださいね。)って意味わからん。

侯爵様に見せたらなるほどと言ってたけど、けっこういいところを領地として貰ったそうな。

6月になってやっと領都に戻れることになったけれど、侯爵様はまだ帰れないみたい。


帰り道で生まれて初めて魔獣に襲われた。

魔獣はめったに自分の縄張りから出ないけど、空飛ぶ魔獣は例外だそうだ。

特に被害の大きいのはワイバーンだ。

上空から馬車めがけて飛んできて体重とスピードで踏みつぶす。

それからゆっくり獲物を食べるそうな。獲物って人間だよね。

落下するとき、サイレンみたいな音を出すからすぐわかったけど、領都の屋敷よりでかいワイバーンだった。

聖なる光を発動して助かったけど、滅相もない威力だった。

直径約2メートルの穴が屋敷よりでかいワイバーンを貫通してた。

向こうの青空が見えるんだぜ。

確かに、あだやおろそかに使えない。

でも、これトンネルほりに使えるんじゃない?

狩ったワイバーンはまだ可食部分がいっぱいあったので、みんなで宴会した。

近くの村や町の人に配ってもまだ余った。


領都の屋敷でも洗浄とピュリフィケーションを使いまくる。

あれ、夫婦の寝室がけっこうな強さで呪われてた。

昔の子供部屋ってとこも。

後で報告しよう。


現在の私のステータス

(レベル15  職業 男爵、聖魔法使い、魔獣殺し  

聖魔法レベル6  生活魔法レベル2

魔法一覧  ハイヒール、ハイキュア、エリアヒール、エリアキュア、ピュリフィケーション、聖なる光、鑑定、シールド  

スキル 交換、洗浄、念動力)


魔獣を殺したことでレベルが爆上がりしたね。


◎  侯爵の憂鬱


やっと帰れる。もう7月じゃないか。

あれから新しい領地の差配をどうするかでもめた。

結局、今までの統治機構をそのまま受け継ぐことで決着した。

良くない部分はどんどん改良すると宣言したらびくついてたのは笑った。

旧領の統治機構はしっかりしているから、なんとかなったが

妻とセバスチャンには頭が上がらなくなりそうだ。

領地に帰り、残務整理と休養に1週間ほどかけた。

それからタマゴからの報告を聞く。

タマゴが他人の手を握ると能力が交換できるらしい。

タマゴの能力はなくなるのではなく複写されるようだ。

タマゴが握手した人間はステータスが見れるようになるそうだ。早速やってみる。

ステータスというと私のステータスボードが出てきた。


レベル40  職業(称号)  侯爵、魔獣の天敵

剣術5 槍術7 盾術5 軍隊指揮4 統治5

土魔法レベルMAX  マナバーン  生活魔法

魔法一覧  土魔法全て  鑑定

スキル 洗浄、念動力

生活魔法と鑑定、スキル洗浄と念動力は増えたようだ。


鑑定結果 魔獣の天敵  弱い魔獣が逃げ出す。

鑑定結果 土魔法レベルMAX  全ての土魔法が使用できる。

鑑定結果 マナバーン  大砲のように魔力を放出できる。

鑑定結果 鑑定 色々なものが鑑定できる。

    隠ぺい魔法がかけられているものは鑑定できない。

鑑定結果 スキル洗浄 人間の魂を洗い素直にする。

    過去に犯した悪行を洗いざらい白状する。

鑑定結果 スキル念動力 

   使用者の体重以下の物を自由に動かすことができる。

     範囲は半径5メートルほど。

     練度により進化する


最近、弱い魔獣と出会わないと思ったら(魔獣の天敵)のせいだったのか。

マナバーンは初めて知った。なんとなくやり方は解る。

鑑定とスキル洗浄、スキル念動力はタマゴからもらったようだ。

スキル洗浄は使えそうだとにやりとする。


タマゴのステータスを鑑定する。

レベル28  職業(称号) 男爵、聖魔法使い、魔獣殺し  

聖魔法レベル6  生活魔法レベル2  土魔法レベル1

魔法一覧  ハイヒール、ハイキュア、エリアヒール、エリアキュア、ピュリフィケーション、聖なる光、鑑定、シールド          

スキル 交換、洗浄、念動力


レベルが爆上がり土魔法が増えていた。

タマゴには握手はしないことを約束させた。

握手したら能力が増えるなんてわかったら誘拐されるぞと脅したら高速で首を縦に振っていた。


タマゴから我々夫婦の寝室と昔の子供部屋が呪われていたと

報告があった。

実は王妃様から聞いていた。ピクルスの弟妹が早世したのは呪いのせいだった。あの呪術師が呪ったのだ。

どうもまだ裏がありそうだが、今は領地が増えたことやタマゴのことで手一杯だ。

終わったことは仕方がないと暫く放置することにした。


スキル洗浄を使用して旧ソテー伯爵領の代官どもを締め上げるとでるわでるわ。

こいつらを罷免するのは簡単だが、元々有能な官吏なので

再雇用という形で違う領地に移動させた。

これはタマゴの案だ。

なんでも昔タマゴの国で、盗賊に困り果てた領主が盗賊の親玉を捕まえて改心させ、他の盗賊を取り締まらせて成功したそうだ。

効果は抜群で腐敗した官吏を一掃できた。

王妃様にタマゴとの文通経由でお知らせすると王に勧めてみるとのこと。

少しでもこの国が良くなってほしいものだ。


◎ 領都での治療


領都は1km角の正方形で全周を高さ10m巾3m程の高さの壁で囲まれており、その西側に領主館と領主館前広場が昔の領都外壁の外に外付けされている。

壁の外側は堀となっていて、領主館を含めた全周が堀となっている。

これらは代々のサンドウィッチ伯爵が土魔法によって堀をうがち、掘った土を固めて外壁にしたものである。

領主館の外壁の外側はほぼ垂直の岸壁となっており、すぐ下の深い谷間とともに外敵の侵入を阻んでいた。

初めは領都の真ん中に領主館があったが、手狭になったため西側に新たに建設し、元々の領主館は中央公園にして領民の憩いの場となっている。

全ての道は石畳で舗装され、上水道下水道が完備されている。

これは2代目サンドウィッチ伯爵が土魔法によって製作したもので、王都の石畳の舗装と上水道下水道も代々のサンドウィッチ伯爵によって建造され、分家によりメンテナンスが行われている。

領主館と領主館前広場の間も城壁によって分離されている。

領主館前広場と領都の間にある旧領都外壁には3つの門がありそこから領都に繋がっている。

領都がこういう構造になっているのはスタンビートに対抗するためであった。

この世界には魔獣がいて、たびたび大発生しスタンビートと呼ばれていた。

スタンビートが発生した場合、領都の3つの門が跳ね橋となっていて堀と外壁により守る。

そこを破られたら領主館と領主館前広場に領都民を非難させる。

なかなか上手く考えたものだ。


領都では領主館前広場で聖魔法による治療を行うことになった。

治療前に治療を希望する全員の症状と内容が記録されてゆく。

寿命や栄養失調の者には聖魔法が効かないことを説明したが

少しでも効果があることを期待している場合は治療することになった。

領主館前広場は領軍を率いての魔獣討伐などの出陣式を行うため、かなりの大きさがあり、旧領都外壁から3本の街道につながっている。

お触れを出して1週間後、思った以上の人数が集まっており、最初にサンドウィッチ伯爵から挨拶がある。


(この度、ここにいるタマゴ・ウイッチ男爵が聖魔法使いであることがわかった。

王の慈悲により平民に治療を施す。

聖魔法は神や信心とは関係のない魔法である。

見た目通りタマゴ・ウイッチ男爵は異邦人で我々とは違う神を信仰している。

平民は布施やお礼は必要ないので王に感謝するように。

貴族や金持ちは対価を申し受ける。白金貨1枚を予定している。

これは王都における王妃様の治療と同額である。

貴族や金持ちであっても、実情に鑑みて減額をする。

ただし、ごまかしや詐称の場合は全額取り立てる。

今後も王都や我が領都で年に数回行う予定である。

なお、聖魔法が効かない事例もある。

寿命である場合、腕や足の欠損、重い病、栄養失調などである。

魔法契約により私、トマト・サンドウィッチ伯爵が彼、タマゴ・ウイッチ男爵に命令しないとタマゴ・ウイッチ男爵は聖魔法を発動できない。

では、トマト・サンドウィッチが命ずる。タマゴ・ウイッチよ、聖魔法を発動せよ。)


私は一礼し、魔法を発動した。

(エリアハイヒール、エリアキュア、ピュリフィケーション)


広場の上に白い靄のようなものが現れ、人々の体に沈んでゆく。

人々の体から黒い靄がにじみ出てきて上空へ上る。

地より薄い光が発せられ人々と黒い靄を浄化する。


(目が見えるぞ。)

(腕が動く。)

(寝たきりだったのに起きれるようになったぞ。)

多くの人が王や侯爵、男爵に感謝した。


見るからに貴族の人や豊かそうな人がそおっと逃げ出そうとするが、領主館前広場と領都の間にある旧領都外壁の門は治療前に閉じられている。

騎士と侯爵旗下の貴族が全員の面通しをする。

身元を確認すると貴族か貴族の家族が7名、大商人かその家族が10名紛れ込んでいた。

何人かは黙って白金貨一枚を払って去っていったが他の者は

口々に文句を言いだす。

(王都ではタダでやったと聞いている。有料とは今聞いた。

払わんぞ。)

(当家は清貧を旨とする家風(つまり貧乏)であるので減額をお願いしたい。)

(では支払いを拒否された方、身元が貴族や富裕であると確認されたのに認めない方は王国法に従い、入牢の上、ご家族に督促状をお送りする。お支払いが確認され次第、開放する。それでもお支払いいただけない場合は借金奴隷となっていただく。

清貧を旨とする家風の御家柄の方や資産総額が白金貨3枚に満たない方は全資産の1/3を申し受ける。)


全員が青くなる。

高位の貴族や上中位の富裕層はごまかしをせず、払って去っていった。

ここに残っているのは伯爵以下の貴族と中位以下の富裕層でありいわゆる成り上がりや没落寸前の者達である。

全員がしぶしぶ支払って去っていった。

ちなみに資産総額は自己申告だが、文官たちが妥当と認めていた。


(王妃様ってあれでしょ。国のために働いている騎士や文官、女官はタダで治してるって言ってたけど、金取ってたの?)

(あいつらは無能だから無役か、何らかの理由で職のない貴族だ。高位の貴族でもどうしようもないのは無役だ。

中には地方の領主のくせに代官に任せっきりで中央に役職がないのに王都でぜいたくな暮らしをしている奴もいる。

そういうのや上中位の富裕層は白金貨1枚を相場とされたそうだ。

資産総額が白金貨3枚に満たない者は全資産の1/3ってのも

王妃様の相場と合わせてある。

王城に行きたくない者や行けない者がこっちに流れてくる。

予想がついてたから閉じた場所でやったんだ。

商人でも町のパン屋は平民でタダだし、本当に貧乏な貴族は

見逃してタダにしてやったんだから、持ってるやつから搾るのはありだろう。)


(ところで私の取り分は?)


(半分はお前の取り分で、後の半分はウチの税金になる。

これも王妃様と合わせた。

王妃様は嫌いな貴族の令嬢を治療して白金貨半枚分の収入を

けっこうお喜びになっておられたそうな。

新作のドレスと宝飾品は全部王妃様持ちで発注なさるそうだ。

今回のはちょうど白金貨6枚だから、後で白金貨3枚渡すぞ。

こっちの分の税金は孤児院の運営と教育費だな。

神殿から孤児院を買い取って王国で運営することになった。

領地持ちの貴族でも孤児院の運営を渋るところは王都と

有志貴族で引き取ることになるだろう。)


(30億レンだね。じゃあ、次回からの私の分も孤児院のほうに回して。今回のは私のおこずかいにするわ。ピクルスちゃんにプレゼントなにがいいか聞いてくるね。)

(何?ピクルスにプレゼント?)

聞く間もなく走り去ってゆく。

2週間くらい後、青く可愛いワンピースを着たピクルスがいた。

目と同じ色の服を送るのは婚約者だろ?

俺は聞いてない。

妻と娘に問いただしたが、ごまかされた。

タマゴは全然そんな気はなさそうだ。

なんか外堀から埋められてきてるような気がする。


ピクルス、まだ結婚とか早すぎる。

私はまだ許さんぞ。


◎ シールド


レベル28  職業(称号) 男爵、聖魔法使い、魔獣殺し  

聖魔法レベル6  生活魔法レベル2  土魔法レベル1

魔法一覧  ハイヒール、ハイキュア、エリアヒール、エリアキュア、ピュリフィケーション、聖なる光、鑑定、シールド

スキル 交換、洗浄、念動力

これが今の私のステータスだ。

 

シールドの魔法は使ったことがなかったのでやってみた。

体を中心に半径2m程の透明な球体が発生した。

あるのはわかるのに見えないのはどういうことだろう。

歩くといっしょについてくるけど、足の下にもシールドがあるようだ。

セバスチャンといっしょに庭で試してみる。

庭の真ん中に椅子に座ってシールドと唱えるとシールドが発生する。

外から石を投げてもらうが跳ね返される。

剣や槍でつついてもたたいても通らない。


途中でピクルスちゃんが来て参戦した。

生活魔法は極めると攻撃魔法になるって知ってた?

水をぶっかけ、火で焼き、ウインドカッターかましてゴーレムで殴りつける。

岩石を念動力で飛ばすのはやめようね。

普通死んじゃうよ。ちょっとは手加減しようね。

タマゴさんなら聖魔法で治せるから大丈夫ですって、即死はダメだからね。

奥さんが来て止めるのかと思ったら、アイスランスって氷の槍を打ってきた。

いくら弾くっていっても、滅茶苦茶大きな音がしたよ。

侯爵様まで飛んできて笑うなよ。止めろよ。


まあ、これで物理も魔法も弾くことがわかった。

透明な球体を広げてみたが直径5メートルが限界だった。

シールドをかける前に入っているものは透明な球体の中に入れた。

シールドをかけてから中には何も入れることができなかった。

砂を投げてもダメだったが、空気は出入りするようで音も聞こえる。

シールドの中から外にも出せなかった。

半径2メートルであれば1度かけると1日持つ。


思いついて体の表面をシールドで覆うようにやってみた。

簡単にできた。

ついでに常時発動も出来た。

聖魔法の訓練になると思い、常時発動で体の表面をシールドで覆うようにする。

ついには寝ているときも起きているときも、意識せずに発動できるようにまでなった。

侯爵様、脅すからね。誰にも黙って身を守ることができた。


◎ 聖なる光の応用


聖なる光はレーザー光線だね。

もしかして小さいのが出来るかもしれないので練習してみた。

あれこれやってみるうち、指から小さいのが出せるようになった。

初めは(聖なる光)って魔法名を唱えてたけど、心の中でつぶやくだけで発動できるようになった。

直径1センチくらいまでしか絞れなかったけど、威力も絞れたと思う。


木や岩に直径1センチの穴を何本も穿ってみた。

木は貫通したけど岩は1m程で止まった。

木を貫通した後ろの木は、少し焼けていたが、それ以外無傷だった。

全部の手指から同時に10本出してみた。

指一本で撫で切りにするようにしてみる。

それでもレーザーサーベルは作れなかった。

これ、レーザー光線銃だね。

いざという時の切り札に取っておこう。

シールドと同時にできるかやってみた。

聖なる光を発動する直前に、聖なる光を出す指先のシールドだけを解除する。

聖なる光を発動すると同時にシールドを戻す。

初めはゆっくり、次第に早くやってみた。

これってダブルスペルって言うらしい。2つ同時に魔法を使用することだそうだ。

やってみると簡単にできたんだけど、普通出来ないらしい。


王妃様に極秘で教えてあげた。

王妃様もいざという時の切り札に取っておくそうだ。


◎  サンドウィッチ伯爵領の成り立ち


サンドウィッチ伯爵家は初代から土魔法の大家である。

地魔法ではなく土魔法と言うのは初めは土地の開墾に使用されたからだ。

魔力の弱い土魔法使いは荒れ地を起こし耕すことくらいしかできなかった。

1日頑張って1アールほどがせいぜいで、壁や堀を作るなど夢物語だった。

巨大な壁や堀を一瞬で作れるほどの土魔法使いは初代トンカツ・サンドウィッチが初めてだ。

また、土魔法使いは数が少なく、いても魔力が弱すぎて戦力にならない。

王国の創立時、拝領した領地は狭く、王都方面を除き、周りを魔の森や山脈、荒れ地で囲まれていた。

時の宰相になめられ、碌な領地を貰えなかったのだ。


魔獣は魔の森の縄張りからはめったに出てこない。

初代サンドウィッチ伯爵は領都を魔の森のすぐそばに作り、守りを固めた。

まず海側である南側に領地を広げることにして、領都の城壁の東側を南側に伸ばし、深さ10m巾3m程の堀を掘り、掘り出した土を利用して高さ10m巾3mの城壁を作る。これを100mほど南側に伸ばす。

次に伸ばした城壁の100mほど西側に、南側に城壁を伸ばすようにし、深さ10m巾3m程の堀を掘り、掘り出した土を利用して高さ10m巾3mの城壁を作る。これを100mほど南側に伸ばす。

その両端を結ぶようにして堀と城壁を作る。

100m角のコの字型に城壁と堀で囲ってしまうわけだ。

これを1人で半日程で行ったのだから大したものである。

囲ってから中の魔獣を退治し、開拓して平地にする。

これを繰り返し、安全を見極めて内側の城壁と堀を平地に戻す。


数年のうちに海とつながった。

砂浜であったため、製塩を行うことにし、領の財政は大いに潤った。

運がいいことに海辺や海には大した魔獣はいなかったため、広大な砂浜は全て塩田と漁業に利用できたのである。


王国は塩を他国の岩塩に依存していた。

他国に高い金を払って手に入れるしかなかった塩を自国で生産できるようになった上、漁獲を得た。

宰相は領地替えしようと企む。


この件について初代は王宮に説明をしに行くことになり、

多数の貴族の前でデモンストレーションを行う。

会場に砂を運び込み、壁と堀の模型を作成する。

これは建国戦争時に彼が敵と戦う時に好んで使用した魔法だったため、一緒に戦った貴族たちは褒め讃えた。

(あの時、伯爵が突然落とし穴を作って敵兵を落とした時、すうっとしましたなあ。)

(矢を土壁で防いでいただいた時は命拾いさせていただきました。)

(やはり軍功第一は伯爵ですな。)


デモンストレーションが終わり、一瞬で壁と堀が崩れ去ったのを見た後、質疑応答があった。

(これはいつでも消せるのですかな?)

(魔法を解くのは一瞬です。)

(ではあなたの領都の障壁と堀もなくなるのは一瞬ですか?)

(作るのに時間はかかりますが、魔法を解くのは一瞬です。)

(あなたが死んだら魔法は消えるのですか?)

(魔力が残る間は魔法は残りますが、数年だと思います。

息子にも土魔法を重ねがけさせておりますので、私と息子が死なない限り魔法は消えませんが、両方死ねば数年で魔法は消えます。代々重ね掛けする予定ですから、私の血脈が続く限り魔法は消えません。)


これでは領地替えはできない。


これを代々続けて、伯爵領は最初の2倍となり王国で最も豊かな領地となる。

海岸はどんどん増え、港に有利な地形を見つけて港を作った。

海外と貿易をはじめ、さらに豊かになってゆく。


トマト・サンドウィッチ伯爵の代で限界が訪れた。

領都の城壁と領壁に土魔法を重ね掛けするだけで半年かかるようになった。

残りの半年で領地の統治と社交をしなければならない。

いくら代官や統治機構が優秀でも、最終決定するのは伯爵である。

以前はレタス伯爵夫人が統治と社交の半分を担ってくれたので、それなりに余裕があったのだが、白死病で動けなくなったのだ。

代官や文官を現地に呼びつけて統治を行い、社交はほとんどせず、王への報告と商談のみを行うようにした。


タマゴはそんな時、現れた。


◎  領兵との訓練


(タマゴ、領兵の訓練につきあえ。

訓練中の怪我を治せば聖魔法のレベル上げになるだろう。)

(うん、いいよ。魔獣退治にも興味あるし。すぐ行く。)


普段は領主館前広場が領兵の訓練場となっている。

訓練中に怪我はつきもので、時には大怪我をすることもある。

訓練中の怪我を治すと感謝され、気持ちいい。


突然、本物の剣が飛んできて私の体にあたった。

シールド魔法を常時発動していたおかげで何のけがもなかったけど、無かったら重症だったろう。

(すっぽ抜けました。すみませんでした。)ってそいつ謝ったけどなんか狙ってやったような気がした。

剣を受け取るとそいつ私に切りかかってきた。

いくら切ってもシールドが跳ね返す。

(聖なる光)

直径1センチほどの光がそいつの肺を貫く。

もう一人こっちに向かってきたので同じように肺を貫いた。

二人とも血の泡を吹き、息が出来ず、咳き込んで体を動かせないようだ。


(縛り上げろ。タマゴを狙った刺客だ。白状させる。)

歯にでも仕込んであった毒を飲んだようで顔色が紫色になり、体が痙攣しだした。

(死なせない。ハイキュア。)

二人の体から黒い靄が立ち上り、黒い球となって私の手に落ちてきた。

(貰っとくね。拷問に使えそうだ。)

にっこり笑ったタマゴにビビって、その後、領兵達はタマゴに逆らわなくなった。


刺客は縛り上げられ、タマゴはハイヒールをかけて治療する。

侯爵にスキル洗浄をかけられて白状した。


この事件の真相はこうである。


トマト・サンドウィッチ侯爵は初代から数えて10代目である。

いままで直系男子のうち魔力が強い者が領地を継いだが、当代には直系男子がいない。

実は再婚で前夫人には男子がいたが侯爵の子ではなかった。

現在トマト・サンドウィッチ侯爵の直系はピクルス侯爵令嬢しかおらず、婿を養子に迎える必要があり、領地を守るため土魔法を使える必要がある。

初代から今までいくつかの分家が出ており、他にも土魔法が使える者が何人かいる。

ピクルス侯爵令嬢と年かさの合うのが5人。

そのうち4人は魔力が弱く使えない。

残りの一人は魔力はあるが平民を馬鹿にする貴族至上主義者だった。

そいつが刺客を雇い、タマゴを襲わせた。

タマゴに土魔法の才能があると聞いたからである。

タマゴを殺せばサンドウィッチ侯爵家の婿になれると踏んでやったのだ。

確かに王国には土魔法使いは少なく、魔力が多いのはそいつくらいだった。


トマト・サンドウィッチ侯爵は怒り、王家に審議を申し立てた。

そいつはつかまったが殺人未遂であったため、平民に落とされた後、国外追放となった。魔の森に捨てられたのだから死刑と変わらない。

一件落着してトマト・サンドウィッチ侯爵はピクルスの婿候補がタマゴしか残っていないことに気づいて愕然とした。


どうしよう。


◎ 次期サンドウィッチ侯爵


侯爵はタマゴの土魔法使いとしての適性を見てみることにした。

(タマゴ、土魔法を教えてやるから付き合え。)

領主館内でこっそり教える。

1日目で巾3m深さ3mの堀と巾3m高さ3mの壁を20m作ることができた。

2日目には領都の城壁半分に土魔法を重ね掛けできた。

3日目には領都の城壁残り半分に土魔法を重ね掛けし、土魔法を改良して強度を高め、魔力の残る時間を長くすることができた。

3日目の終わりに侯爵は覚悟を決める。


夫人とピクルス令嬢も呼んでの話し合いをする。

(タマゴ、ピクルスの婿にならんか。次期侯爵だ。)

(いやだ。)

(私がお気に召さないのですか?)

ピクルスが涙目で抗議する。

(ピクルスちゃんは好きだけど、スローライフが出来なくなる。三食昼寝付きのグータラ生活が希望って言ったよね。

侯爵様っていつも忙しそうじゃん。

私は自分の興味のある楽しそうなことだけやりたい。

まあ、金貰ってるからその分は働くけど、寝る間も惜しんで

働くのは違うと思う。

だから嫌だ。)


侯爵は目をつぶって考える。

(すぐではないし。ピクルス、レタスも勉強してタマゴを手伝え。

私も出来る間はバックアップする。他に候補がいない。

なんとかたのむ。)侯爵は頭を下げた。

暫く間をおいてからタマゴは話し出した。

(侯爵様も、奥さんもピクルスちゃんも助けてね。約束だよ。)

タマゴは立ち上がり、ピクルスに向かって一礼した。

(お友達から。お願いします。)

(私のほうこそ、よろしくお願いします。)


これでタマゴとピクルスの婚約が決まった。

王家に報告と婚姻願いが提出される。

前例があったため、受理された。

今回のように魔力の強い跡取りに恵まれなかった貴族が、魔力の強い平民を養子にしたことがあったのだ。


貴族に魔力のない子供が生まれることがある。

その子は貴族を継げるが、次の代に魔力のない子しかいない場合は貴族籍を剥奪される。

このため、貴族に魔力のない子供しか生まれなかった場合に

魔力のある養子を取るのはよくあることで、魔力さえあれば平民を養子に取ることさえあったのだ。

元をたどると元貴族の子孫であることもあり、隔世遺伝と思われた。

大っぴらにされてはいないが、貴族に魔力のない子供が生まれた場合捨てることさえあったようだ。

このため、貴族至上主義は実際にそぐわないものとされたが、振りかざす者はいつの時代でもいる。

サンドウィッチ家の分家の貴族全員から文句が出た。

平民のしかも異邦人である者を本家の跡取りとは認められないと。

先日タマゴを狙って断罪された分家も入っている。


サンドウィッチ侯爵は全員を呼んで土魔法を使わせた。

一番魔力の多いものでも、時間をかけて巾30cm深さ30cmの堀と巾30cm高さ30cmの壁を1mしか作ることが出来なかった。

(タマゴ、やってみろ。)

タマゴは巾3m深さ3mの堀と巾3m高さ3mの壁を10mを一瞬で作って見せた。

(お前たちとタマゴでは魔力にこれだけの差がある。数十倍だ。お前たちでは全員でやっても領都の城壁に土魔法を重ね掛けすることすら数年かかるだろう。

領と魔の森の境にもこれと同じものがあり、領都の城壁の百倍はあるぞ。

私は今、これを維持するだけで1年の半分かかっている。

お前たちでは一生かかっても出来ん。

魔法が切れて魔物が溢れたらどうなる。スタンビートだぞ。

お前たちにサンドウィッチ侯爵家を継がすことは出来ん。

文句があるなら王家に訴えろ。)


それでも訴えた分家はスタンビートを企み、国家反逆罪の恐れありとされ、貴族籍を剥奪された。

これよりタマゴの婿入りはだれも文句をつけるものがいなくなった。


◎新たな命


タマゴとピクルスの婚約が王家から認められたころ、レタス夫人が懐妊した。タマゴは喜び、レタス夫人にヒールをかける。

(この子が大きくなったら侯爵継がなくても良くなるかもしれない。健康に生まれてきてね。いっぱい教えてやるんだ。)

(私との結婚はどうなさるおつもりですか。)

(そうなったらいっしょにスローライフしよう。

お金はどうにかなりそうだし、どこかいいとこ今から探そう。)

(まあ、そんなにうまくいかないだろうな。

王城や王都外壁の維持、王領の拡大に使役されるぞ。)

(そんなー。三食昼寝付き。週休三日。有給休暇、魔法契約違反だ。)

(魔法契約にそんなのは入ってなかったぞ。)


(ところで男か女か知りたい?)

(わかるのか?どっちだ。)

(男の子。魔力もある方だと思うけど、まだそれ以外わかんないなあ。)


サンドウィッチ侯爵家の全員が、まだ見ぬその子を愛した。


◎ ピクルスの兄


ピクルスには兄がいた。兄らしきものと言ったほうがいいだろう。いわゆる悪役令嬢の子だった。

悪役令嬢とは先王の王太子の許嫁でビーフ・ステーキ侯爵令嬢という。

ベジタブル王立学園で1年下の男爵令嬢に王太子が恋をした。

その男爵令嬢をステーキ侯爵令嬢がいじめたというのである。

他の貴族からすれば礼儀の間違いを正したりしただけで普通の対応に見えた。

しかし、王太子は彼女を卒業式で断罪した。

王太子の側近が嘘の証言をしてまで、証拠らしい証拠もなく無理やりである。その場で婚約破棄を申しつけた。


(どう考えても私は悪くないと存じます。

しかしながら王太子殿下が公の場で私との婚約を破棄されたのはまぎれもない事実。

君言、汗の如しと申します。甘んじて婚約破棄を受け入れます。)


堂々としたその態度にトマト・サンドウィッチ伯爵は感銘を受け、ステーキ侯爵家に侯爵令嬢との婚姻を打診した。

王太子との婚約を破棄された令嬢など、まともな嫁ぎ先がないと踏んだステーキ侯爵はそれを受け入れることとする。


実はビーフ・ステーキ侯爵令嬢は断罪の数日前に王太子にレイプされていた。

もちろん秘密にされた。王太子ともあろうものが女人をレイプするなどあってはならない。

王太子としてはビーフ・ステーキ侯爵令嬢を第2妃として王妃としての実務を取らせるつもりだったようだ。

そのため、レイプして言うことを聞かせようとしたのだ。


トマト・サンドウィッチ伯爵とビーフ・ステーキ侯爵令嬢は婚約から1か月で結婚した。王太子からの横やりを防ぐためであった。


ところがビーフ・ステーキ侯爵令嬢は王太子の子を身ごもっていたのである。

また、レイプの後遺症で男性恐怖症となりトマト・サンドウィッチ伯爵とは白い結婚のままであった。

トマト・サンドウィッチ伯爵はビーフ・ステーキ侯爵令嬢の子が王太子の子であることをうすうす感じていた。

生まれた子は濃い金髪、金眼の男子で王家の正当な血筋の証拠を持っていた。

出産が重くビーフ・ステーキ侯爵令嬢は産褥で死亡する。


トマト・サンドウィッチ伯爵は悩んだが、その子は誰が見ても王家の血筋である。

仕方なく王とステーキ侯爵に事情を説明し、その子を見せた。

王とステーキ侯爵にすればその子は孫である。

王は自分と同じ濃い金髪、金眼を愛で、ステーキ侯爵は自分とよく似た幼子の顔立ちに涙する。

本来であれば次期王太子として嘱望される存在のはずだった。

あまりにも不憫である。


ステーキ侯爵は自分の子として育てると言い出した。

(その見た目は将来の禍根となりますぞ。)

トマト・サンドウィッチ伯爵は言わずにおれなかった。

(わしにも王家の血は入っておる。隔世遺伝と言い張れば良かろう。長じてわが旗下の男爵にしてやればよい。)

(王太子の落胤とすれば良いのではないか?)

(母親は誰となされるのですか?)


結局、ステーキ侯爵が泥をかぶり、市井の妾との自分の子として育てる事となった。いない妾は産褥で死んだこととされた。

もちろんステーキ侯爵夫人には事実を話すことにする。


ステーキ侯爵は事の次第をトマト・サンドウィッチ伯爵に詫びて感謝した。

トマト・サンドウィッチ伯爵はステーキ侯爵の3女を妻として迎え入れることとなる。

これがレタス夫人である。

医療の発達していないこの世界では人は簡単に死ぬ。

姉が死んだら代わりに妹を嫁に出すのは貴族では普通に行われていた。


それからしばらくして王太子と王太子妃の乗った馬車がワイバーンに襲われ、二人とも死亡するという事件が起きた。

上から乗りつぶされ、しかもまだ生きている体を喰われるという悲惨な状況で遺体の一部しか残らなかった。

めったにないことで運が悪いとしか言いようがない。


トマト・サンドウィッチ伯爵はその時のことをレタス夫人に話す。

(天網恢恢、疎にして漏らさずと言うが。自業自得とはこういうことを言うのかもしれないなあ。)

結局、第2王子が王太子となり、その後、王となる。

今の王には2人の王子が出来、王家の跡継ぎ問題は解消された。


ところがステーキ侯爵夫人がこのことをその子に漏らしてしまった。

悪いことにステーキ侯爵も押し切られ、真実を話してしまう。

チキン・ステーキと名付けられたその子は自分の待遇が不当だとして王に直訴した。


(そのものの首をはねよ。)

王は即断した。

将来の禍根となる芽を刈り取ろうとしたのだ。

先王とステーキ侯爵が助命を嘆願した。

トマト・サンドウィッチ伯爵は嘆願しなかった。

結局、生涯幽閉とされた。


幽閉場所はトマト・サンドウィッチ伯爵領の魔の森との境にある尖塔である。

王は王領やステーキ侯爵領では逃げられる可能性があると判断し、助命を嘆願しなかったトマト・サンドウィッチ伯爵に任せたのだ。

領壁から新たに100mほど魔の森側に伸ばした壁の端に建てられた尖塔は魔の森の側へは降りることができる。

死にたければ魔の森に行けばよいのだ。

領壁の通路側には食事を入れる小さな扉がついているだけで人間の出入りができない。人が入ると土魔法で出入口を閉じる仕様だ。


その出入口を閉じるとき、チキン・ステーキは聞いた。

(なぜ、私の助命を嘆願してはくださらなかったのですか。

もし貴方が私の助命を嘆願して下さっていたら生涯幽閉などにならなかった。

一度は息子として認めて下さったのでしょう。)


(なぜ、私がお前の命乞いをしなきゃならんのだ?

お前の父親は私の妻をありもしない罪で婚約破棄し、あまつさえレイプした。

その結果生まれた子がお前だ。浅薄な考えで何人もの人間を不幸にした。

その報いで魔獣に喰い殺されたのだろう。

そのお前が自分の待遇を不満に思い、王に直訴した訳だ。

少し考えれば自分の存在が王国にとって邪魔だろうことは判るはずだ。

なぜ、誰にも相談することなく事を急いだ。

お前が生まれた時、その場で殺してもよかったのだぞ。

私にお前の命乞いをするつもりはない。)


その時チキン・ステーキは初めて自分の甘さを知った。

食事は今でも残さず食べられている。まだ、生きているのだろう。


タマゴ・ウィッチ男爵はトマト・サンドウィッチ侯爵からチキン・ステーキのことを聞かされた。

二人はもう親友であり、将来の義父と義理の息子である。

ある意味チキン・ステーキの立場とかぶるところがある。

酒に付き合い、懺悔のように、悔恨として話される。

誰でも過去を振り返り、悔恨の情にとらわれることはある。

しかし、終わってしまったことは元に戻すことなどできない。

もし、今、あの場に戻れたとしても同じ決断を下すだろうことをトマト・サンドウィッチ侯爵は判っていた。

(なあ、タマゴどうすればよかったのかなあ。

どうすればあの子を助けられたのかなあ。)

(侯爵、無理だよ。そんな甘い考えしかできない奴は何度でも同じ間違いをしでかす。そんなのが王にならなかっただけでも良しとしなきゃね。

まあ、長じるまで貴方が直に教育できたとしても、遺伝ってものもある。

親があまり出来が悪いと子も似る。

生まれた子には何の罪もないって言うけど、ありゃ嘘だ。

私の国では人の魂は生前の行いに従って、生まれ変わり死に変わりするって信じられている。輪廻転生って言うんだけどね。

生前の行いにふさわしいところ、ふさわしい親のところにしか生まれ変われない。

それを遺伝って言ってるだけだ。

先の王太子と同じような甘い考えを持っていたのを遺伝とすればそんなのが2代続けて王になっていたら、王国はどうなっていただろう。

私の国には(偶然はない。必然しかない。)って言葉もある。

これが神の采配ってことなら、どう転んでも結果は変わらなかったんじゃないかなあ。)


侯爵にもはっきりわかっていた。

愚痴を聞いてほしいだけである。

(わかっちゃいるんだがなあ。今更どうにもならないってことは。)


(チキン・ステーキには私が会ってみる。面白そうだ。

私ならシールドで身を守れる。)


◎ 魔獣退治


この世界には魔獣がいる。野生生物が魔素を取り込みすぎると魔獣となる。

そうなると大きさも2倍以上になり、見た目も変わって狂暴になり、人を見ると襲うようになる。獣も虫も魚も魔素を取り込んだ物は全て魔獣と呼ばれている。

生まれた時から魔獣もいるようである。

人が魔素を取り込みすぎると死ぬだけで魔人という存在はこの世界にはない。

竜種を除いて知能の高い魔獣もいない。

魔素は魔の森の魔素溜まりや地下のダンジョンから発生している。

魔の森を開拓すると魔素溜まりはなくなるが、魔素が全くないと魔法を使えなくなる。魔素は魔法にも必要なものなのだ。

この世界は魔法ありきで成り立っているため魔の森やダンジョンを全てなくする訳にはいかない。


そのほかに瘴気という物も存在した。

これは瘴気だまりといわれるところから吹き出すガスのようなもので、人体にも動植物や魔物にも良くないものであるが正体がわかっていなかった。

人や動植物が瘴気にさらされると死ぬが、魔物が瘴気にさらされるとより狂暴になり、一定以上瘴気にさらされると狂い死にする。

普段はさほど濃くならず影響がないため、問題視されていない。

ただ、完全に浄化するには聖魔法によるしかないものと認識されていた。


魔獣は5mを超える大きさのものは稀である。

ほとんどが3m以下の大きさであり、空を飛ぶワイバーンや竜種は5mを超えることがあるが、これは魔力で体を維持しているからと考えられてきた。魔獣の中でも特殊なのだ。

空を飛ぶ魔獣にそもそも城壁や堀は役に立たない。

空を飛ぶ魔獣の被害は稀であり、数年に1度程度で、多くても数人程度であったため対象外とされたのだった。

これが城壁や外壁の高さを10m巾を3m、堀を深さ10m巾3mとした理由でありこれで魔の森との境界が守られてきた訳である。


魔獣は食べると美味い。魔素は人の体にも必要なのだろう。

また、魔獣の素材は材質として優秀でいい金になる。

魔獣からとれる魔石は魔道具の動力となるし、魔法薬の原料ともなる。

魔の森もダンジョンも資源の宝庫であり、領地持ちの貴族にとっては資産ともいえる。

ともあれ人が開拓し人の住める場所にした面積は、人の住めない荒れ地や山脈、魔の森に比べてまだまだ小さく、侯爵領にしても王国としてもまだまだこれから開拓すべきであった。

トマト・サンドウィッチ侯爵は年の半分を領と魔の森の境である領壁と堀の維持拡大にかけていて、これは能力の限界だった。

同時に魔獣との戦闘は避けられず、タマゴの参戦は願ってもないことだった。


チキン・ステーキが幽閉されている尖塔はサンドウィッチ侯爵領の外壁から100m程壁を伸ばした先端に作られていた。

この壁と尖塔の周りには堀がなく、スタンビートが起こった際は外壁と縁を切られ、見捨てられる。

外壁の上は通路となっており、外壁の内側には200mおきに外壁に昇る階段がある。外壁の中は密であり空洞になっていない。

外壁には1kmおきに領兵が出入りする門があり、門は高さ3m、巾3mで普段は閉じられている。

門はゴーレムであり、呪文を唱えると橋に変化し、魔の森側に繋がる。

この呪文はトマト・サンドウィッチ侯爵が信頼した部隊長にのみ教えられ、定期的に魔獣討伐が行われている。


愚痴から暫くして、タマゴは領兵とともに魔の森に渡った。

外壁上より風魔法や火魔法が届く限り焼き払ってあるため、40m程は草原となっていて見通しが良い。

火、水、風の魔法使いは数が多く、魔力も多い者もいるため、半年に一度は焼き払うらしい。

早速、魔獣が走り寄ってきたため、タマゴは聖なる光ピストルバージョンにて頭を打ちぬく。自動追尾付きに改良されていた。

山魔狼は草原との境を出るか出ないで次々と絶命した。

所定の数の領兵が渡り切ると、部隊長が呪文を唱え、橋は壁に戻った。

部隊長は数十頭もの山魔狼が絶命しているのを見ると感心して言う。

(なんと素晴らしい腕前ですな。タマゴ殿。私は部隊長を受け賜っておりますイタリアーノ・パエリア騎士爵と申します。)

(タマゴ・ウイッチ男爵です。次来ますよー。幾らか残すんで近接戦闘お願いしますねー。)

山魔狼より大きい一角魔兎が飛んでくる。

タマゴは聖なる光マシンガンバージョンで打ち続けるが、素早い動きでかわす一角魔兎も多く、数頭が近くまで来る。

領兵達は剣や槍で応戦し、それらを屠った。


魔獣の突撃が収まるとタマゴはシールドで体を覆う。

草原と魔の森の境まで行くと、今度は土壁を作る。

(アースウォール)

半径百メートルの円を描くように高さ10m巾3mの土壁をつくり囲う。

壁の外側には出来た土壁分の堀も穿っているはずだ。

土壁の内側を領兵の魔法使いが火と風の魔法で焼き払ってゆく。

こちらに向かってきた魔獣は聖なる光ピストルバージョンと領兵達に倒されてゆく。焼かれた魔獣の肉の匂いが漂った。

部隊長が安全を確認して呪文を唱え、壁から橋が生える。

非戦闘員が橋を渡って屠られた魔獣を領壁内へ運搬する。


タマゴが土壁の中心から100m領壁と平行に行き(アースウォール)を唱える。

半径百メートルの円を描くように高さ10m巾3mの土壁をつくり囲う。

タマゴは(重なっている部分だけ解除)と言うと領壁側のクロスしている部分が崩れて平地になってゆく。

その土壁の内側を領兵の魔法使いが火と風の魔法で焼き払ってゆく。

こちらに向かってきた魔獣は聖なる光ピストルバージョンと領兵達に倒されてゆく。

部隊長が安全を確認して呪文を唱え、壁から橋が生える。

非戦闘員が橋を渡って屠られた魔獣を領壁内へ運搬する。


これを繰り返す。

これが初代トンカツ・サンドウィッチ伯爵考案の魔獣退治法である。

一人のけが人すら出ず、今回も成功した。

もう魔獣屠殺法と言っていいかもしれない。


今まではトマト・サンドウィッチ侯爵がいなければできなかったが、今後は基本タマゴが行うことになる。

侯爵とタマゴがいないときは基本やらない。

今回、魔の森に作った土壁と堀は暫く残すことにした。


これを繰り返し、尖塔まで安全地帯を構築する。

チキン・ステーキは幽閉されている尖塔からこれを見ているはずである。


あと一回、アースウォールを唱えれば尖塔に繋がるというところでタマゴは自分以外の全員を領壁内へ退避させた。

土魔法で階段を作り土壁に登る。

(おーい、チキン・ステーキ。生きてるなら返事してー。そっち行ってもいいかーい。)


◎ チキン・ステーキ(生涯幽閉となるまで)


私、チキン・ステーキはステーキ侯爵家の第3子だ。

父であるスモーク・ステーキ侯爵の婚外子である。

ここベジタブル王国では身分や出自が重要視される。

婚外子である自分は侯爵家を継ぐことはできない。

せいぜい旗下の男爵に取り立てられるのが関の山だ。


私を憐れに思ったのか、父は私を15歳でベジタブル王立学園へ入学させてくれた。

べジタブル王立学園はベジタブル王国の貴族および優秀な平民を育成する目的で作られた学園だ。12歳から16歳までの子弟を集め、高等教育を施す。

ほとんどが裕福な貴族や商人の子弟であり、初等教育は修了した者が対象であるため、入学試験がある。

数学、歴史、文学、初等魔法があり、既定の学力に達していないものは入学できない。

貴族はよほど何かの理由がない限りこの学園を卒業しないと職にもつけない。

成績別の組分けになっており、上からA、B、C、D、E組だ。

ただし、女性は早くに結婚した者は退学することになっていた。

私が入学したのが15歳なのは婚外子だからだ。婚外子の在学期間は2年間と決められている。


入って早々、私は期待を裏切られた。

高位貴族でも明らかに既定の学力に達していないものがいるのだ。ところがA組に在籍している。明らかに不正がある。

しかも身分をかさに下位の組の者に暴力をふるう者までいる。

証拠を集め、学園長に直訴したら退学処分を食らった。


家に帰り父母に報告する。

母がポロっと漏らす。

(可愛そうに。本当の出自が明らかであればこんなことにはならなかったろうに。)

(本当の出自とは何ですか?)

(馬鹿者。知れれば殺されるかもしれんのだぞ。) 

(殺される?かまいません。

私は金髪金眼で父上にも母上にも似ていません。

私は本当のことが知りたい。)

(どうなってもよいのなら教えるが、本当に良いのだな?)


父母は真実を教えてくれた。

私は元王太子の子だったのだ。

元王太子は他の女に懸想し、婚約者である母をレイプし、婚約破棄した。

その結果生まれた子が私だ。その後、魔獣に喰い殺された。

だが、私に罪はないはずだ。


私は自分の待遇を不満に思った。

本当ならば次の王太子には私がなっていたはずだ。

本当の出自を明らかにすれば上の爵位を得て学園長を断罪できるのではないか。


何も言わず部屋に籠って王へ直訴するチャンスをうかがう。


王国法にはこう書かれている。

(下着のみにて寸鉄を帯びず、直訴状を掲げて直訴を叫びたる者の直訴は受けるべし。ただし直訴した者は死罪に処す。)と。

(王族は死罪を免ずる。)とも。

それならば、王族である私は直訴しても死罪にはならないのではないか?


私は直訴状を作成し、下調べをする。

王と王妃は夏に避暑に離宮へ向かう。プライベートなものなので警備の数も少なく、特に王都を出てしばらくは治安も景色もよいため、王は窓から外を覗かれる。

その時を狙って直訴しよう。

直訴状には私の生い立ちとベジタブル王立学園での不正について書き記した。不正の証拠とそれを学園長に差し出し直訴したこと、その直後に退学処分を食らったことも、退学通知書を付けて記した。

これは私が身分が低いからで、本来であればありえないことであることも付け足した。


私は王国法に従い下着のみで靴も履かずに直訴状のみを掲げて王の面前へ飛び込んだ。

(直訴にございます。お願いします。直訴にございます。)


王は驚いたが、騎士に踏みつけられた私の体から直訴状を受け取られた。

(そのものを引き立てよ。)


◎ 直訴の結末


離宮には先王とスモーク・ステーキ侯爵、トマト・サンドウィッチ伯爵が呼ばれて来た。

(トマト・サンドウィッチ伯爵、ここに書いてあるチキン・ステーキの生い立ちは

本当か?)

(事実でございます。)

(なぜ知らせなかった。)

(チキン・ステーキが生まれた時、陛下はまだ立太子されておりませんでした。先王陛下にはご報告いたしました。

先王陛下と陛下の間で話が通っていると思いましたが?)

(あれがあまりに憐れでの。3人で話し合ってステーキ侯爵が市井の妾との自分の子として育てる事にしたのだ。

話さなかったのはあれの命を守ってやるためじゃ。

お互い知らぬ方が良いと思ったのじゃ。)


王は暫く目を閉じて考える。

(ベジタブル王立学園の不正については報告を受けている。

近々に学園長を含めた教授陣を交代させるつもりであった。

問題は直訴した者が隠された王族だったことだ。

王国法では直訴について取り上げるが、直訴した者は死罪と決まっておる。

これは死を覚悟してまでする直訴だから取り上げろという意味だ。必ず死罪になるから意味があるのだ。

直訴が是正された時、事実はどうあれ、直訴した者に名誉が与えられることになる。生きていたら褒美をやらねばならぬ。それだと直訴が横行する。だから名誉は与えるが死罪にすることでバランスを取っているのだ。

王国法には王族は死罪を免ずるともある。

あやつは自分が王族だから死罪にならないと思って直訴したのだ。

これでは兄のようではないか。思い込みだけで正義感にかられ、周りがまるで見えていない。

あやつを王族と認め、なにか気に入らなければ、また直訴するぞ。

あんなのを王族にし権力を握らせたらとんでもないことになりかねん。)

(では王族であることはお忘れになり、死罪を申しつけられよ。)


王は決断する。

(そのものの首をはねよ。)

サンドウィッチ伯爵と王の言葉に先王とステーキ侯爵は反論する。(せめて命だけは助けてやりたい。)と

(では処刑したことにして身柄を私にいただきたい。

わが領壁から新たに100mほど魔の森側に伸ばした壁の端に尖塔を立てその中に生涯幽閉とします。尖塔の場所は私以外知りません。

魔の森の側へは降りることができるようにし、自死の自由を与えましょう。

彼の父は私の妻をありもしない罪で婚約破棄し、あまつさえレイプしました。その結果生まれた子が彼です。

彼の父は浅薄な考えで何人もの人間を不幸にした。

その報いで魔獣に喰い殺されたのだろうと私は思っております。

少し考えればチキン・ステーキは自分の存在が王国にとって邪魔だろうことは判るはずです。

ところが彼は誰にも相談することなく事を急ぎました。

確かに陛下の仰せのようになりかねません。

チキン・ステーキが生まれた時、その場で殺せば良かったのかもしれません。

この件については私にも責任があります。最後まで見届けたいと思います。)


ベジタブル王立学園の不正について、証拠は採用され学園長を含めた教授陣は交代となった。在学生すべてが入試程度の学力試験を受け直しさせられ、合格点に満たないものは退学となる。

王宮に勤めている者も卒業試験と同等の学力試験を受け直しさせられ、あまりにもひどい者は退職させられた。

これにより高位の貴族であっても無能が淘汰され、本当に能力のあるものが王宮に勤めることとなる。

地位をかさに着てのいじめや横車は一掃され、貴族至上主義はなりを潜め、実力主義が進むこととなった。

チキン・ステーキは直訴し、死罪を賜った事になった。

その後、チキン・ステーキが直訴したから学園は改革された形になり、一応の名誉は与えられたのである。


サンドウィッチ伯爵はチキン・ステーキに事の次第を大まかに説明した。

尖塔への出入口を閉じるとき、チキン・ステーキは聞いた。


(なぜ、私の助命を嘆願してはくださらなかったのですか。

もし貴方が私の助命を嘆願して下さっていたら生涯幽閉などにならなかった。

一度は息子として認めて下さったのでしょう。)


(なぜ、私がお前の命乞いをしなきゃならんのだ?

お前の父親は私の妻をありもしない罪で婚約破棄し、あまつさえレイプした。

その結果生まれた子がお前だ。浅薄な考えで何人もの人間を不幸にした。その報いで魔獣に喰い殺されたのだろう。

そのお前が自分の待遇を不満に思い、王に直談判した訳だ。

少し考えれば自分の存在が王国にとって邪魔だろうことは判るはずだ。なぜ、誰にも相談することなく事を急いだ。

お前が生まれた時、その場で殺してもよかったのだぞ。

私にお前の命乞いをするつもりはない。)


その時チキン・ステーキは初めて自分の甘さを知った。





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