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君のブサイク  作者: アサミラ
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第一話

「コーラさんの思い出話、聞かせてくださいよぉー!」


 後輩が興味深々な様子で俺に聞く。

 わざとらしく顔を近づけてきて、正直鬱陶しい。

 

「あぁもう、すりすりしてくんな! しょうがない、ここは一つ、何か話でもしようかな」

「マジっすか!?」

 

 後輩が体を後ろに飛び跳ねさせて、派手に驚く。

 まさか本当に話してもらえるとは思っていなかったのだろう。

 

「飯の時間までまだ時間があるな。少し長い話でもしようか」


 深呼吸をする。

 

 この話はたしか3年前……、もうそんなに経つのか。

 長いようで、短かった。

 

 ……………………。

 

 いや訂正しよう。

 マジで長かった。

 本当に長かった。

 

 俺は、その今でさえ、彼女を待ち続けている。


 3年前。

 

 突然だが、俺は猫だ。

 何を言い出すかと思うだろうが、そうとしか言いようがないのだ。

 人間のように物心つく前から教養がある訳でもないし。

 それなのに、なぜか自分が猫というもので、人間に飼われるものであるという知識だけはある。

 矛盾だ。

 

 ちなみに、日本語もわかるが、口の形的に喋ることはできない。

 だから、猫は猫だけで、猫にのみ喋れる言語を作った。

 犬とも会話可能。

 なんていうかなぁ、強いていうなら日本語でバイリンガルスピークとでも言うのだろうか。

 犬の言語と猫の言語をごちゃ混ぜにして話す感じ。

 え? お前らはニャーとしか言わないだろって?

 いやいや、人間も「は」と「わ」を使い分けてるじゃねーか。

 あと、今時の猫、ニャーとか言わないから。

 

 こういうのを、神様の力っていうのかな……。

 とりあえず、俺は猫であること理解してくれればOKだ。


 そして、俺が今いるのが、ペットショップ。

 飼い主を探すところ。

 見つけてもらうって言った方がお前ら的には正しいのだろうが、俺たちの世界ではマッチングみたいなものだ。

 その飼い主が嫌だったら全力で嫌がればいい。

 そしたら、なんとかなる。

 

 まぁ、それで帰ってきた奴はいないんだけどな……。


 だが、俺にはそんな心配はない。

 なぜかって?

 俺も理由が最近まで分からなかった。

 俺と目が合った飼い主は、目を逸らす、か、鼻で笑う、しかしない。

 人生で初めて鏡を見た瞬間わかったよ。

 

 俺みたいなやつのことを、ブサイクというのか……ってな。


 この年にして分かってきたことがある。

 人間、猫、犬、その他もろもろ、大抵、顔だなって。

 生まれつき能力差なんてないっていうじゃん?

 でもさ、顔に差がある時点で、それは能力差があるってことなんだよ。

 俺みたいなやつからすると、マジで、腹が立ってしょうがない。

 おっと、愚痴が出てしまいそうになった。

 まぁ、俺がブサイクで売れ残りってことも理解してくれればOKだ。

 

 名無しの二歳。

 人間年齢でいうと、十歳くらいなのか……?

 自分で言おう。

 俺は今、絶賛反抗期中である。


 珍しく、外に出してもらえた。

 外と言っても、フェンスで囲まれた、狭い檻。

 だが、文句なんて言っていられない。

 客……飼い主に俺の可愛さをアピールしなければ。

 そして、顔とのギャップに可愛い子を落としてやる!


 予定は、根から崩れた。

 というか崩したのだ。


 周りの猫ばかり撫でられているその状況。

 俺が無理矢理、手に触れようとすると、触れる直前に手を引いて、生ぬるい笑顔で手指消毒。

 分かる、この顔は嬉しくないけど相手が善意でやってくれたことに対してどう反応していいのか分からない時に出てくる笑顔だ。

 某飲食店のゼロ円スマイルよりも薄い。

 次そいつがきた時には噛みついてやる。

 俺は心に、そう決めたのであった。

 

「でさぁ、マジであの客ありえなくね?」


 周りの猫に愚痴り散らかす。


「誰かさん達が撫でられてるせいで、俺嫌な思いしてるなぁーー!?」


 俺も何がしたいのか分からず、もう十分くらい思考を停止して、流れるままに喋り続ける。


 すると突然、一匹の猫が泣き出した。

 ぶっちゃけ、猫の〝泣く″も〝鳴く”もあんまり違いはないけど、店員が何かを察したのか、俺を飼育ケースの中に戻した。

 計画は大成功どころか、一ヶ月外出禁止となったのだ。


 こんな毎日が楽しいかと言われれば、俺は激しく首を振るだろう。

 自分のやりたいこと、思ってることがなくて、なんでこんなに口が悪くて、どうして空気が読めないのか。

 そしてそれがなんで俺だけなのか。

 考えても考えても分からなくて、結局今の状況が続いていく。

 このまま何も分からず死んでいくのかと考えると、悲しいというより、怖い。

 

 だがそんな俺にまたもやチャンスが訪れた。

 神様は俺を見捨てていなかったんだ!(こんな顔にしたことは許さないが)

 なんと! 飼い主が見つかったのだ! 

 そいつが可愛いかと言われれば微妙だが、どうやらお金がないらしく、安い猫を探しているらしい。

 

 俺の顔を見るなり、目をキラキラさせながらこちらを指していた。

 その小さい手で俺に触れると、抱き上げ、家へ連れて行った。

 最後に後ろで見守るその他猫たちにドヤ顔を向けて、俺はその牢獄を後にする。

 これから始まるDomestic life(飼い猫ライフ)がとても楽しみだ!

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