7,熊が学園内に侵入してきた
地震と共に校長も忙しくなるはずだ。
幸いにも校長室は茅葺屋根の家なのに倒壊は免れていた。
「広見先生、学園全体は最新設備なのに何で校長室に限って時代錯誤な設備なんだでしょう?」
剣人は疑問に思った。
「あれは校長の趣味なのよ。本来は本館の中に校長室が有るけどその部屋は倉庫になっているわ」
広見先生も校長には呆れているらしい。
「何れにせよ、校長室が離れにあると色々と面倒なのよ。職員室から離れているから会議する時も直ぐに声掛けや連絡に手間がかかるからよ」
「そうなんですか、あの校長先生、相当癖が強いんですね」
他の教員からも校長は変わり者だと言われているらしい。それで割を食うのは千疋教頭である。
校長と教諭たちとの間を繋ぐのが結構、きついそうだ。
因みにこの教頭はクレーン射撃の名人で「スナイパー千疋」と銘打ったあだ名がついている。
特徴としては片眼鏡を掛けてあごひげを伸ばしたオッサンである。
何れにせよ、二人とも変わり者であることは確かだがこの学園を維持していくのにはこの二人の活躍は必要らしい。
でも、個性があるし、生徒たちに慕われているのなら別にいいんじゃないかな。
公立学校の先生の場合、役所ならではの古い体質というか制約が多い学校が多いので生徒にとっては自由が利かなくて不快に思うことがよくあるので流石、お金が掛かっているだけの事はある。
それにしてもスナイパーってカッコいいよなぁ。
僕も射撃が上手くなりたい。
ならいっそ、クレーン射撃部に入ろうかと検討することにした。
だが迷っている時に学校内が騒ぎ出した。
「おーい、皆~。熊が学校に入ってきたぞー! 校舎の中に入れよー!」
他所のクラスの先生たちが生徒たちに呼びかけてきた。でも地震の避難者等で校舎も定員が一杯で避難できる余地が少ないのにどうすればいいのやら。
その頃、僕は赤尾さんと銀竜さんと迫間と行動を共にしていた。
でも彼女らは僕の服にしがみついて離れようとしない。女の子だから怖いものは仕方無いのは分かるけど迫間には誰も寄り付かないのは頼りにされていのかな?
それはともかく一匹の熊が僕たちに近づいてきた。
「く、熊って近くで見ると結構、大きいんだな……」
初めて熊を生で見るのは初めてなので腰が抜けそうだった。
「こ、怖いよう……」
僕も怖いけど男なら彼女らを守ってやらないといけない。
「迫間、なにか良い方法ないかな?」
「お、俺に聞くないよ。俺だって熊を身近に見るのはじめてだし、棒で叩くか拳で殴りつけるしかないだろう」
あんなに大柄な迫間でさえもビビっているのでアテに出来そうにないなぁ。
運よく、目の前に木の棒が有ったのでそれを構えて彼女らを背後に寄せて庇うことにした。
熊は一番弱そうな獲物が女の子たちだと思い込んでいる為かジリジリと更に近づき、襲い掛かろうとしてきた。
くそ、僕はどうなっても良いがせめて赤尾さんや銀竜さんだけでも守り切りたい。
その時、後方から銃声が響いて、熊が硬直した。
一体、何が起きたんだ! そう思った途端、その熊が目の前に倒れた。
「し、死んだのか、この熊……」
でも血は出ていない、となると打った弾は実弾では無く麻酔銃なのか?
そうだ、後方からの銃声、振り返ると展望台からライフルを構えている男性がいた。
よく見ると手すりに足を乗せてバランスを保っているのが良く分かる。
あれは千疋教頭だ。よくあんなに離れた距離で熊に命中出来たことには驚いた。
僕は目が良いので遠くのものは良く見える自信はある。
しかし、一歩間違えたら生徒に弾が当たるかもしれない。
千疋教頭はそのリスクを考えていたんだろうか?
でも麻酔銃なら致命傷にはならないとしても打ち所が悪いと、ゾッとしてしまう。
「えーん、怖かったよ~」
「ああああぁぁぁーーー!!」
赤尾さんも銀竜さんも僕にしがみついて泣き出した。
「ごめん、流石の僕には熊が相手ではどうにもならなかった」
「違うの、白金君は決して悪くないよ。最後まで私や小梅ちゃんを庇ってくれたんだから」
赤尾さんは落ち着いて話してくれたけど銀竜さんはまだ泣き止まない。
この子は同い年にしてはまだ幼く見えるから一番狙われやすかったのかもしれない。
落ち着くまで暫くこのままにさせておくしかない。
「くそ、あのハゲ、俺たちまで巻き沿いにする気かよ」
迫間は教頭に対しては不快に思っている。
「でも教頭先生があの時、銃で撃ってくれなかったから僕たちはやられてたよ。僕はあの人を責めるつもりはない」
これで決心がついた。
僕は教頭にあることを頼むことにした。