6,恐竜の骨とジップライン
「迫間君、この恐竜の骨、壊してちょうだい」
「えっ!? 俺がですか?」
広見先生は突然、迫間を指名した。
でも何で展示してある恐竜の骨なんか壊すんだろう……
「別に蹴っ飛ばしても、良いわよ」
「わ、分かりました」
迫間は思いっきり引っ張ってみたら崩れてきた。
「おーさすが迫間だ! ようっ!オッサン高校生!」
「だーれがオッサンだ!」
迫間はムキになった。でも落とした直後、各骨がバラバラになっている。
「そして、男子全員で骨を開けてください」
広見先生が一体何を言い出すんだろうと思ったら骨の中から非常食や防災用品が出てきた。
「そう、この恐竜の骨はカモフラージュなの。実は災害の時に何時でも取り出すように用意されていたのよ」
常識で考えたらこんなこと思いつかないのだがこのアイデアは校長が発案したそうだ。
「わー、防災用品が沢山あるね。流石が男の子。困ったら助けに来てね♪」
赤尾さんが僕に照れくさいことを言ってきた。
でも、銀竜さんはそれを聞いてムッときた。
そして、彼女はグイグイと僕の服を引っ張った。
「うん、勿論、銀竜さんの事も僕が守るよ」
それを言ったら彼女はニコッと機嫌を取り戻した。
「こら! 恐竜は俺が先に倒したんだぞ!」
迫間は割を食った感じがして不快に思った。
「すまん、迫間、今度は僕も一緒に手伝うよ」
「まあ、分かればいいや」
後で確認したのだが、迫間は嫉妬心で怒っているのではなく広見先生にこき使われたことに腹が立ったと呟いた。
この学校には珍しく校舎内にジップラインがある。
因みにジップラインとはスチールケーブル等に滑車を取り付けてぶら下がり自重で滑走する器具のことである。
本来、アトラクションとして人が山を急ぎで下るときの交通手段として利用しがちだがここは学校なので物資の運搬仕様として設置されている。
地震で多少は歪んでいるものの、大した損害では無かったので救援物資を山の天辺から麓まで早く送ることが出来た。学園内ならトラックを使うよりも効率的だった。
しかも支柱には幾つかソーラーパネルが設置しているので電気も無駄遣いしなくて済む。
近隣の住民で被災して家に住めなくなったのでここで暫く仮住まいする市民にとってはとても有難い学園である。
「ねえ、あのジップラインって一度乗ってみたいね」
「駄目だよ、銀竜さん。あれは運搬用だから人は載っちゃダメなんだって」
剣人は小梅に注意した。 過去に生徒が一人ふざけて乗ったという事例が有ったが人が乗る設計にはなっていなかったので荷台から落ちて骨折した人がいるらしい。
「そうよ、小梅ちゃん。もう小学生じゃないんだから言う事聞きなさいって」
「そうだね、稲子ちゃん胸が大きくて重たそうだからロープが切れて落ちそうだからね」
「な、なんですって! コラー! 小梅ちゃん! そこに座りなさーい! お説教よ!」
「あはははは、やーだよー!!」
銀竜さんは笑いながら走って逃げ、それを赤尾さんが追いかけっている。
まあ、これだけ元気があれば二人は大丈夫かな。
一方、先生方は、セグウェイに乗ってあちこち学園内を巡回している。
流石に生徒たちは運転はおろか、乗せて貰えないのは言うまでもない。
生徒たちはリアカーを使って救援物資等を運んでいる。
勿論、けが人もいるのでテントで仮設の医療現場や宿泊施設で学園は一杯になっている。
この学園は正にこの町の誇りである。この学校に入って良かった。