19,女の子同士の決闘
銀竜が恐るおそる現場に向かうと既に、赤尾は彼女が来るのを待っていた。
「小梅ちゃん、よく逃げずに来てくれたわね。そこは褒めてあげるわ」
赤尾は渋い顔で語った。
「あの……私は稲子ちゃんが一体何がしたいのか分からないよ。何で態々体育館裏に呼び出すから…」
「それは、こう言う事よ!!」
赤尾はいきなり、ハンマーを銀竜に向けて殴りかかろうとした。
「あっ!危ないじゃない! いきなりそんな大きな武器を向けて襲い掛かるなんて!」
「大丈夫よ。力加減して振ったから。それに小梅ちゃんもアニマルスーツ着ているから当たっても死なないでしょ?」
「そういう問題じゃないよ。なんで私たち友達同士で戦わなくちゃならないの?」
「私はね、貴方の図々しい所が大っ嫌いなのよ!」
「えっ? 私、そんな悪気が無いのに!」
「それに白金君にどっちをお嫁さんにしたいか言ったわよね?」
「う、うん、言ったような言ってないような。よく覚えていない…」
銀竜の軽はずみな言動に遂に赤尾はキレてしまった。
「そういう大事なことを軽々しく口にしないでよ!」
「キャァァァー!」
再び赤尾はハンマーを振り、それに反撃しようとアイアンクローをぶつけてきたが、見事にその爪は折れてしまった。この武器はあくまで獲物を切り刻むだけに効力が有るだけで、質量の高い物に当たるときの対応は考慮に入れていない。ましてや、この巨大なハンマーに対しては脆い。
爪はもう片方は残っているが銀竜は躊躇している。
「嫌だよ、やっぱり私は稲子ちゃんと戦いたくないよ。私の武器は大きな爪だから稲子ちゃんに怪我させちゃうよ。顔が傷だからになっちゃうよ。」
「なら私の方から責めて早く決着付けるわよ!」
しかし、銀竜は爪が折れても腕に装着されている装甲でハンマーの衝撃を防いだ。
バァーン、バァーン、バァーンと装甲に当たる度にヒビが割れて来た。
「小梅ちゃんのアニマルスーツも爪以外、なかなか頑丈に出来ているわね」
遂に、赤尾のハンマーも劣化して柄が折れてしまった。
その直後、反対の手に持っていた盾も投げ捨てた。
「こうなったら予備の武器を出しなさい、私も出すから」
赤尾は背中から紙垂れの形をした矛を出し、柄を延べ竿のように伸ばしてた。
そして、銀竜に向かって襲い掛かる。
「うわっ!」
銀竜は咄嗟に太ももに装着しているクナイを2本取り出して矛を受け止めた。
「小梅ちゃん、貴方は白金君のことが好きならなぜ告白しないの?」
「何故って、高校生になってまだ間もないから早いかなって……」
「じゃあ、私が彼を貰っても文句はないわね」
「そ、それは……」
「まあ、幼児体型の貴方では色気は出せないだろうから無理ね」
傍から見れば、赤尾の言い方は凄く嫌味に聞こえなくもない。
銀竜は自分が小さくて胸が小さい事も気にしているからだ。
「ムキイィィー! もう怒った!稲子ちゃんの馬鹿かぁぁあー! この乳デカ女ぁああー!」
「うるさい、この貧乳娘! まな板!」
もう低レベルな内容の口論になって来た。
それだけ、このアニマルスーツの疑似獣人化は彼女たちの理性を蝕んでしまったのだ。
お互いメイン武器を捨てて、身軽になり動きも早くなった。
因みに赤尾の武装は攻撃よりも守備を重視にしているので本来は銀竜よりも動きは遅い。
何故なら、鳥居型の盾で突進してくる熊や猪を受け止め、その隙に稲荷ハンマーで獲物を叩いて気絶させる戦法なのであるからだ。もし、それが出来なくなるとこれらの重い武器を捨て、サブ兵器である紙垂れの矛を使うので格段と動きが早くなるのである。
「もう、稲子ちゃんが突き出してくる紙垂れの矛、滅茶苦茶早くて懐に飛び込めないよ」
「ホラホラ、どうしたの!? そんな武器では私に近づけないわよ!」
ただ、これは突進してくる相手には分が悪いので距離を詰められると不利になるというデメリットが有るので通常の武装しては使われないのである。
しかし、銀竜は身長が低めなのでこの矛の長さでは突進するのが至難の業だ。
その一方、白金と迫間は体育館の陰に隠れて、驚きながら傍観している。
「赤尾の奴、普段は優しいけど、キレたらマジで怖いな。女ってこえーよ。でもアイツ、お前の事好きだったんだよな。モテるよな。お前……」
普段、強気な迫間は凄くビビった。
「そ、そうだね。でも僕は赤尾さんが僕の事をそこまで好きだったなんて……僕はこれから彼女にどう、接して良いのか分からないよ……愛が重すぎるよ」
白金はすごく悩んだ。
「それよりも二人がこれ以上、暴れるのは不味いぜ。俺、先公とジジィを呼んでくるから。白金、お前は二人の喧嘩を止めに行ってくれ。じゃあな」
「お、おい。迫間!」
白金は一人、その場に取り残された。でも、悠長に考えている暇はない。
「と、とにかく二人を止めなきゃ!」
決意を固めて彼は修羅場に飛び込んだ。