18,疑似獣人化システムの弊害
獣人化した武装をした女の子の活躍の陰で次第に獣たちが学園周辺に寄り付かなくなり、マタギの件も無事解決した。しかし、新たな問題も出て来た。
それは疑似獣人化により、女の子たち2人が理性を失いかけている事である。
銀竜は元からお転婆な娘だから、あまり大きな変化は感じられなかったが。赤尾は喋り方に違和感が出て来た。
「校長先生から頂いた武器のお陰で日頃の鬱憤が晴らせて毎日スッキリしているっコン!」
「はっ? 赤尾さん、今「コン!」て言ってなかった?」
「えっ? 私そんなつもりはない…コン」
「あれ、あれ、あれ? なんで私、言葉を嚙んだんだろう?」
赤尾は一瞬青ざめた。
この現象を広見先生に相談して再び黒川校長にも報告しに行った。
「うむ、そうじゃな。何度もあのスーツを着てマタギを繰り返しているうちにキツネの遺伝子が染みついてしまったんじゃろう」
「校長、それはどういう意味ですか!」
広見先生は嫌な予感がして少しキツイ口調になってしまった。
「もう少し詳しく説明すると銀竜君のスーツは普通にオオカミの細胞だけで武装が出来たのだが、赤尾君の武装はキツネの細胞だけでなく、お稲荷様の力も借りておるんじゃ。つまり神様の霊(御霊も宿しておるんじゃよ」
「それじゃ、この子が余りにも可哀想じゃないですか。直ぐに辞めさせてください!」
「うーむ、急にそう言われてもなぁ~」
黒川校長はとても悩んだ。
「広見先生、私は構いません。だって私の家系は神職ですので、いつかこのような運命になるのは薄々分かってたことですから」
「赤尾さん、貴方はそれで本当に良いの?」
「はい、覚悟の上です」
その後、校長室を後にして赤尾は屋上に上がって一人で空を見上げていた。
「はあ、私これからどうなっちゃうんだろう。いつかキツネになっちゃうのかな……怖いよ……コン」
彼女は呟きながら体操すわりをして頭を埋めた。
暫くして銀竜も屋上に来た。
「稲子ちゃん、どうしたの? 浮かない顔して?」
「別に。小梅ちゃんは良いよね? あのアニマルスーツを着ても何も影響ないから」
「小梅は平気かな。あのスーツ着て暴れるとなんかスカッとして気持ちいいから」
「私はだんだん気持ち悪くなってきたわ。あれを着ると本物のキツネになるかもしれないのよ?…コン」
「え? 稲子ちゃん、さっき「コン」って言ったね?神社のお稲荷様みたいだね、アハハハ!」
「な、何かおかしいの! 私は真剣に悩んでいるのに……小梅ちゃんの馬鹿ぁぁー!!」
此処まで酷く怒る赤尾は初めてだった。それで銀竜もすごくビビった。
「稲子ちゃん、ゴメン。笑ったのは悪かったよ」
銀竜は恐るおそる謝った。
「本当に謝りたいなら、放課後、アニマルスーツを着て体育館裏に来なさい…」
赤尾は凄く不機嫌そうな表情で言葉を発しながら屋上を去った。
銀竜は慌てて白金と迫間のいる場所へ駆けつけて来た。
「白金っち、迫間氏、稲子ちゃんを怒らせちゃったよ。助けてよ~」
彼女はしゃくりあげて泣いている。
「銀竜、お前が赤尾を怒らせているのはいつもの事だろう?」
迫間は呆れながら答えた。
「違うもん、今回はいつもと事情が違うんだもん。あの子がいつもと口調が違う事を笑ったらすごく怒って放課後、体育館裏に来いって言われて……」
「確かに銀竜さんの話を聞くと普段の赤尾さんでは考えられないね」
白金は真剣に話を聞いてくれた。
「しかも、稲子ちゃん、アニマルスーツを着て来いって」
「えっ! あのスーツを着て来いって事は決闘を申し込まれたと同じだよ。それはまずいな…」
「おい、白金。この件は広見の先公に言うべきじゃないだろうか? 女同士の決闘なんて男よりもタチ悪いぜ」
「駄目!、広見先生には絶対に言わないで。あの人なら絶対に私が悪いって咎めるもん!」
「わかった。でも僕たち二人も付いていくよ。流石に銀竜さん一人では心配だから」
「有難う。でも傍に白金っちや迫間氏がいると擁護していると誤解されるから二人は物陰に隠れて見守っていてね」
「そうだな、決闘は一対一が基本だからな」
迫間は何度も喧嘩の経験が有るので一人で立ち向かおうとする銀竜に対して少しは見直した。
そして放課後になり、いよいよ銀竜は体育館裏に足を運んだ。