11,千疋教頭の苦悩
率直に言うと千疋教頭は銃依存症患者になりつつある。
あれだけ射撃の練習を重ねる内にライフルを構えないと気が済まなくなって禁断症状が出てくるらしい。
世の中には三大依存症というものが存在している。
それは主に薬物、アルコール、ギャンブルの3つだ。
因みに千疋の場合はそれ以外の分類になる。
だが、教頭という立場だと模範的な態度を生徒たちに示さないといけないので、精神安定剤を常に持参している。
その安定剤を今日忘れてきた為、ソワソワしている。
「ああ、銃を撃ちたい、なにか獲物はないだろうか…」
千疋は心の中でつぶやいた。
本来、熊は出没しない方が良いに決まっているのだが、彼にとっては射撃のご馳走となる。
練習場の的はベテランにとっては簡単すぎてつまらないのである。
都合が良いことに今日は、イノシシが一匹、学園の外で徘徊している情報を聞いて千疋は急いで現場に駆け付けた。
「やっと銃が撃てるぞ! さあ、来い! イノシシめ…」
ドォーンと一発、撃ったが手が震えてため、命中しなかった。
「ちっ!クソ、もう一発!」
二発目で命中した。しかし、最初の一発目が外れたのが稀に石に跳弾した為、その弾が偶々近くにいた生徒に当たってしまった。
「し、しまった! 私はなんてことをー!」
直ぐに、救急車が駆けつけて怪我をした生徒は運ばれたが、足に当たり、軽傷で済んだのが幸いだった。
しかし、千疋は校長の許可なく発砲したという事で厳重注意された。
前回までは生徒たちが近くに居ても許可が有りたので問題は無かったし、撃ち損ねたり外したりしなかったが今回は違う。
「馬鹿者! 今回は偶々、足にかすり傷だけで済んだものを、もし、致命傷に当たったらどう責任を取るんじゃ! 千疋、貴様は当分、銃を禁止する。給料も減給じゃ!」
「…はい、かしかまりました、校長。ついでにお願いしたい事が…」
「何じゃ?言ってみい。」
「暫く、休職させたいのです。私は銃を持っていないと落ち着かないので…」
「そうか。銃依存症か、仕方ないのう。暫く休め。」
こうして千疋教頭は当分の間、休職する事になり、彼の代理は主幹教諭が代行で引き受けることになるのだが、千疋が不在だと銃を使える教員は他にいないので黒川校長は教員らにマタギの講習を受けさせることを検討する事となった。
しかも、校長は銃を使わずに刺股のみを使うのを要求してきたので教員の中には異議を申し立てる者が出て来て会議室は大混乱と化した。
流石に銃なしでの撃退は無理だろう。




