日記
日記
彼の死から二日後、私は妻と、彼の家族と、二人の元妻と共に彼の家を片付けた。
家具や私物は一部を除いて寄付した。納や収納の中も確認し、寄付できるものは全て寄付した。
一日仕事で片付けを終えてそろそろ帰ろうかという時に私は布団に挟まる一冊のノートを見つけた。
私はノートを開いた。
「私は短い生涯で三人も素晴らしい女性に出会うことができた。
幸せになる資格のない人間がよく、人の目に幸せそうだと映るような人生を送ってきたと思う。
それはひとえに妻のお陰であると言える。
本当に感謝している。
私の孤独でとっかえようのある人生を華やかなものに変えてくれた。
今でも祥子を愛している。
あんな別れ方をしてしまったことをとても後悔している。できれば死ぬまで一緒にいたかったがそんなことは叶わなかった。勿論全て私のせいだ。
今思い返してみると私の周りには、本音を打ち明けるべき人が何人もいた。親友に三人の妻。だが私はそうしなかった。
なぜかは分からない。
私には分からないことばかり残っている。絶対にわかりようのないことさえもだ。
私の人生はつまらないものだ。この後に及んで死んで罪を償おうと考えている。
死ぬことで報われると思うなと言ってくれる人がいるだろう。聞いてくれ。死ぬことが私への刑罰だ。その刑罰は自分自身で下さなければ意味がないと思うのだ。
だから私は死ぬことにする。勇気のいることなどではない。今までありがとう。良い人生だった。」
私は少し涙を浮かべた。初めて彼の本音に触れることができたような気がしたからだ。
続いているようだったから一枚ページをめくってみた。
「死んでも到底償えないような罪を犯したこともある。唯一の親友を傷つけたことさえある。このノートが彼に見つかることを一番恐れている。
なぜならここでは親友に関する罪の告白を綴ってあるからだ。
まず一つ、私は彼の家に夜な夜な忍びこんでは金を盗んでいた。その金は勿論、酒などにあてていた。
それともう一つ、私は彼の妻と寝た。彼の子供は私の子供というわけだ。正直、彼が妻が妊娠したと嬉しそうに言っていた時は笑いを堪えるのが必死だった。
彼も馬鹿な男だ。こんな私を本気で心配して。本当に面白かった。愚かだと思った。やはり人のことなど信用してはならないな。まあ、私が生きているうちにバレなかったことが幸いだ。
私はこれから死ぬとする。家の近くの川に入って死ぬとする。さらばだ、汚れた人の世よ。」
妻がこう言った。「どうかした。」
私は「なんでもない。」と言って近くにあった牛刀でノートを切り裂いた。