閑話:川面十兵衛政隆
1543年(年初ころ) 伊勢国 度会郡 大湊
川面政隆
『ほぉ~。大湊とは斯様に栄える湊であったのか!! そして船の数も多い!! 安濃津もなかなか大きな町であったがこちらはそれをしのぐかもしれんな』
某は源浄院から滝川彦九郎殿、蘆屋道仁殿を九鬼家田城城へ案内すべく、伊勢北畠領を南下、大湊へとやってきた。大湊の街を案内しつつ、船が見たいという滝川殿を連れて港にやってきたところだ。九鬼の田城からやってくるのに使った川面家の保有する船も、今はこの港にて停泊中だ。
『お二方とも大湊は初めてでございますか。ここは会合衆と呼ばれる商人が治める町でございますれば、町全体が商いのためにあるような場所なのです。近くに神宮があるので参拝客が船で参りますし、塩田もあり木材も豊富なこの土地は人も物も集まっております。この港も底が深い良港で毎日20は超える商船、小早のような小さいものであればその倍以上の船がやって参ります』
まだ滝川殿と蘆屋殿と旅を始めて少ししか経たぬが、二人の特徴が分かってきた。明るく豪儀な滝川殿は何事にも興味を持つ御仁で、これまで通ってきた松ヶ島城下町や松坂でも様々な物を扱う伊勢の商家に興味津々のようだ。そしてなにより情報収集に余念がない。商家に寄っても商いの話に始まってその地の領主や地形のことなど色々と情報を仕入れている。
『街中では畿内でよく聞く西の訛りから、聞いたことのない訛り口調の方々も多かったですからね。堺の大店の支店だったり、駿河商人の買い付け人なども居るようでした』
常に冷静で穏やかな御仁であり、滝川殿が信頼して一目置いているのがこの蘆屋殿だ。そして某の気のせいかもしれないが、ときどき懐に忍ばせている鼠と会話しているような気もする。陰陽師という神職、修験者に似たような、我ら武士とは違う故に某には理解できない何かを知る不思議なお人だ。
『これだけ大きな港に大きな商家でも、堺なんかの大店と比べるとよくて中くらいの店だってんだから驚きだなぁ。安濃津の紅葉屋が堺商人から鉄砲を手に入れるのが大変だって言ってた意味がよくわかったぜ』
『そして、もし手に入ってもそれなりに値が張りましょうな』
『目下、それが問題だな……』
お二方はなにやら値の張る珍しい物を買おうとしているようだ。堺商人から買い付けなければならないような代物で、鉄砲というものなど聞いたことがないな……。
『その鉄砲とやらは一体どのような物なのですか? 』
『おぉ、志摩海賊衆の川面様も聞いたことはございませんか。まぁ、某も実物は見たことはないのですが……。なんでも最近明船と共に流れ着いてやってきたという南蛮の飛び道具らしいですな。雷様の音がして鎧も貫通するというものだそうです』
『ほう。それは良いことを教えてもらいました。我ら海賊衆では弓を多用しますからな。新たな飛び道具となれば九鬼海賊衆の役に立つかもしれません』
船を乗り付けてしまえばあとは槍刀で戦うが、海の上ではまず矢を射かけることが定石だ。そんな海賊衆の戦いに弓より貫通するような飛び道具があるとすれば、使わないわけがない。
『あちゃぁ……。九鬼様でも鉄砲を求められてしまうとは、これまた某自身の分を手に入りにくくしてしまいましたかな?はははっ』
この滝川殿は何とも言えぬ愛嬌のある顔でそんなことを某におっしゃる。出会ってまだ短いがこの方は人たらしの才能もあるやもしれぬな。そして案外、冷静な蘆屋殿もそんな滝川殿だから共に旅をしておるのやもしれぬ。
『はははっ、もし先に手に入りましたら滝川殿にお知らせしましょう。その時は安くお譲りいたしますぞ』
『どちらが先に手に入れるか、勝負ですな。はっはっは』
もし此度の九鬼家嫡男・弥五郎様と二男・孫次郎様の呪詛を解決できたならば、きっと我が殿・宮内大輔様からの褒賞はなかなかな金子になるだろう。その鉄砲とやらがどれほどの値打ちのものなのかは知らぬが、その金子があれば多少の足しにはなるだろうな。
某の懐には滝川殿と蘆屋殿の身分を保証する木造御所様からの添え状もある。そしてなにより御所様の狒々退治の噂が本当であったことで、この方々なら九鬼家を救えるのではないかという希望もある。
今日はもう日暮れであるから我が船には乗れぬが、早くこのお二人を連れて田城城に戻りたい。そしてまた、気力の溢れる殿と若様とこの大海へ乗り出したいのだ。
この川面十兵衛は本当にいた武将ではありません。そもそも九鬼家の出自がよくわかっていないので難しいですが、波切の土豪?川面家に九鬼家が婿入りしたという説から、この川面十兵衛を登場させました。海の男はやはり日焼けで浅黒くなっているのかなぁと思いつつ……
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