表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下天を征く〜陰陽師:蘆屋道仁と滝川一益の戦国一代記〜  作者: シャーロック
天文11〜12年(1542-43年) 伊勢・志摩漫遊編
23/34

閑話:木造家家老 柘植三郎左衛門保重

閑話についてはテイストを変えて主観的なものとしています。本編では描かれない登場人物の心情などを中心としてみます。

天文11年(1542年)冬頃  木造城

 木造具政傅役 木造家老 柘植三郎左衛門(保重)


 木戸の村にて陰陽師の蘆屋殿、甲賀土豪の滝川殿らと狒々退治を行ってから数日。


 その日は雪のちらつく中の退治であったが、あれから伊勢は本格的な冬となり、木造城内の(それがし)の家老部屋の庭も冬化粧となっている。


 『うぐっ……いまだに蹴られた場所が痛むわ』


 書物をする机に火鉢を寄せようと軽く動いただけでも、あの狒々に蹴られた胸の辺りが軋むような痛みがある。


 とんでもない怪力の狒々に某はなす術もなく蹴り飛ばされ、宙に浮いて建屋の外まで飛ばされたというのだから、人間と妖の差を思い知ったわ。


 蹴られた某はその瞬間から痛みで意識が朦朧としており、その後、主玄様に助け起こされるまでの記憶はないがな。


 常日頃から蘆屋殿はあのような妖と闘ってきたというのだから陰陽師とは如何に大変なものかようわかったわ。


 蘆屋殿以外にも数は少なくなったが陰陽師は今も近畿を中心に存在するらしい。賀茂一族や土御門家と言った大家から蘆屋殿のように律令外の陰陽家まで。蘆屋殿が居らなければ一体幾人の村人が犠牲になったことか……


 『失礼致しまする。御家老(柘植保重)様、こちらに須江木掃部助(かもんのすけ)様が参られております』


 家老付きの下男の呼びかけが障子の向こうから聞こえる。北畠家お目付け役の須江木殿が某になんの用だ? 


 須江木掃部助殿は北畠の威を借る狐と呼ばれ、木造家中にて一部の者らから猛烈に嫌われている御仁だ。侍従様が北畠から参られた時に一緒にやってきた者らの1人で、木造家中に置いては北畠家目付役は奉行衆と同じ立場だが、実質的には家老並の権力で木造家を我が物顔で差配している。


 某も家老職ではあるが、侍従様の傅役として政務からは遠ざけられてしまった。侍従様が力をつけるまで、今しばらくの辛抱か……

 

 『わかった。すぐに向かう故、控えの間にてお待ち頂け』


 『ははぁっ! 』


 わざわざ政務からは某を遠ざけておいて一体なにをしに参ったのか。気に食わぬ相手とはいえ、とにかく話は聞かねばなるまいな。


 家老部屋を出て、冷たい板間の廊下をしばし移動し、控えの間の襖を開けると頭を下げた須江木殿が目に入った。普段であれば、も少し尊大な態度を取る男なだけに一体何を話にやってきたのか、こちらも少し身構えて須江木殿の向かいに座る。


 『御家老様。お忙しいところお時間をいただき申し訳ございませぬ。侍従様の手習いなどは順調に進んでおりますでしょうか? 北畠家お目付役として某も定期的に報告しなければいけませぬのでな。はっはっは』


 侍従様の手習いについては別のお目付け役に定期的に報告はしている。此奴は政務お目付け役の為、わざわざそんな事を聞く必要はないはずだがどういう風の吹き回しだ?


 『侍従様については、武略、政務について滞りなく学んでおられる。北畠家の手習いもさぞや良い物では御座ろうが、木造も北畠家と遜色ない歴史と由緒ある御家であるからして、その点については全く心配は御座らんとご報告くだされ』


 『それはそれは。御家老様が侍従様の傅役をされておりますから、某はあまり心配はしておりませんよ。それに主玄殿がわざわざ手解きしているわけでございますから、木造家で1番のお師匠でしょうな』


 三郎兵衛様を気安く呼びおってからに。まったく、このニヤついた此奴の顔を張り倒してやりたいわ。


 『三郎兵衛様も侍従様の飲み込みの早さに「木造当主の器あり、早く政務を自ら執るようになる日が楽しみだ」と申しておりましたな』


 『はっはっは。それまでにしっかり我々目付け役が木造を整えておかねばなりませぬな』


 まったく、何から何まで鼻につく男だ。


 『ところで御家老様。なにやら下々(しもじも)の噂話で侍従様が陰陽師なるものと妖退治などに出かけたとの話があるようなのですが、まさかそのような事は御座いますまいな』


 なんだと? 此奴どこから話を聞きつけたのだ。今回の事は誰にも話していないはずだが……


 『なんでも那須与一の弓の如く、侍従様が矢で射殺ろしたとか、陰陽師の法術で退けたなど。民の中ではさすが木造御所様だと噂されておるようですが……』


 須江木殿のこのねっとりとした人を窺う目つき。侍従様の名声が高まれば傀儡とするのに支障が出るため、その真偽を確かめたいのか。はたまた陰陽師と聞いてなにか呪詛などの依頼などでツテを持ちたいのか。


 どちらにせよ此奴に教えても良い結果にはならぬだろう。須江木殿がわざわざ某に話を聞きにきた目的はこの噂話についてであったのか。


 『はて……某はなにも聞いておりませぬな。侍従様は弓の修練も欠かさず行っておりますから、狩りにでも出かけた際の弓上手の噂が尾鰭でもついたのではないのですかな。民は娯楽を求めてそう言った話が好きですからね』


 『そうですか……。ま、そういうことも御座いましょうか』


 須江木殿め、あまり納得のゆかぬような顔だな。この分では今後も自分でこの噂について調べまわるに違いない。


 源浄院から漏れる事はないであろうが、戸木の村々には狒々の墓や亡骸を見ている村人達もあるからな。行商人などから噂になることは避けられぬか……


 蘆屋殿や滝川殿もあまり周りを嗅ぎ回られても心地よくないであろう。念の為、家中にて噂が広まっておる事は伝えておくか……


 『畏まりました。では侍従様の最近のことについては北畠家へしっかり報告しておきまする。御家老は今後も傅役、よろしくお願い致します』


 『確と役目を果たす所存じゃ。この後、侍従様の迎えに源浄院にゆかねばならぬでな。某はこれにて失礼する』


 平伏して某を見送る須江木殿を部屋に残して、また冷たい板間の廊下に出て源浄院に向かう支度をするために家老部屋へ戻る。


 まったく厄介な者に勘付かれたな。蘆屋殿という実力確かな陰陽師との縁を侍従様が得たというのに、須江木などというよからぬ輩に邪魔されてはたまらぬ。


 しかし、もはや噂が広まるのは時間の問題だな。御家の恥を晒すのはどうかとは思うが、蘆屋殿、滝川殿には木造・北畠家臣の中でも信の置ける者からの依頼だけを受けていただけるようお願いしておくか。


 源浄院に向かうために火鉢の炭を火消し壺に移しながら、またしんしんと降り出した庭の雪を見つつそのようなことを考えるのだった。


勢州軍記によるとこの柘植さんは、信長の伊勢侵攻の際には、木造具政、滝川雄利と共に織田家に寝返って北畠家の大河内城への手引きをしたそうです。どうして織田方についたのか……北畠に思うところがあったのでしょうか。


面白かった、続きが読みたいと思われた方は、いいね、評価、ブックマークをお願いします。

いいね、評価ボタンは↓スクロールするとございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ