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下天を征く〜陰陽師:蘆屋道仁と滝川一益の戦国一代記〜  作者: シャーロック
天文11〜12年(1542-43年) 伊勢・志摩漫遊編
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12.長野家・雲林院家との邂逅

本作をブックマーク、いいね、評価していただいて大変うれしいです。目に見えて読んでいただけていると実感してやる気になります。引き続き宜しくお願いします。

 

 謁見が終わった道仁、一益一行だったが、雲林院祐基の願いを叶えるべく、館を出て町の東側にある道場へと場所を移していた。


 野呂長門守(師忠)の案内で道場に入ると、中は活気で溢れていた。端では木刀で素振りをするもの、中央付近では打ち合いの稽古をするもの達で溢れている。


 『お二方、慶四郎様が着く前にまずは土佐守様にご挨拶を。弟子をお連れになり、京よりここ雲林院家へやって来て、4ヶ月ほどは雲林院家にて剣術師範として滞在しております』


 『ほぉ。土佐守様は諸国をこのように弟子を取って廻っておられるのですか? 』


 一益は同じように旅をする土佐守に興味を持ったようだ。


 『土佐守様は以前、武者修行で諸国を廻った際、京での御前試合にて勝ちました。その功績を持って、将軍家剣術指南を何度か務め、一度鹿島へ帰りましたが、今回が2度目の廻国修行の途上なのです。あちらで型の稽古を見ていらっしゃるのが土佐守様で御座います』


 師忠の示す先には、(よわい)50を過ぎた老年の武士が雲林院の若い武士らの稽古を見ていた。


 先ほど謁見していた長野植藤も塚原高幹(卜伝)と同じ歳頃ながら、壮年の息子・雲林院植清より屈強な体躯をしていたのが印象的であったが、この塚原高幹(卜伝)は標準的な体躯で、足腰の筋肉がその歳頃の武士と比べると力強く見える。細く、能面のような切れ長の目で優しく稽古を見守る、そんな人物であった。


 見た目は穏やかそうな老人だが、平均寿命が長くないこの時代、この歳で諸国を巡り歩く体力と剣術を扱う塚原高幹(卜伝)は特異と言えよう。


 『土佐守様っ! 慶四郎様の御客人を連れて参りました』


 師忠が稽古を見る塚原高幹(卜伝)を道場に響く声で呼ぶ。


 『ほっほっほ。昨日、我が弟子を助けた御仁ですかな? 某は塚原土佐守(高幹)で御座います。今朝方、慶四郎様の朝稽古を務めたところ、お二方の立ち回りを大層褒めておりましてな。今日は謁見とのことでしたが、大方(おおかた)、慶四郎様に稽古か立ち会いでも求められましたかな? 』


 切れ長の目から(わず)かに覗く(ひとみ)で一益と道仁を見つめ、挨拶をする塚原高幹は、泰然自若と言った雰囲気で、妖しく妖艶で静かな雰囲気の道仁とどこか通ずるような風姿であった。


 『某は甲賀住人、滝川彦九郎(一益)で御座います。こちらは鞍馬の陰陽師、蘆屋道仁殿で御座います。土佐守様のご指摘通り、某が慶四郎様と立ち会いを求められまして……ですが、こうして鹿島新當流の開祖・土佐守様にお会いできたのも何かの縁。よろしくお願い致しまする』


 丁寧に頭を下げる一益と道仁。


 『ほっほっほ。2人共、よい顔つきですな。立ち会うのは彦九郎殿だけですかな、道仁殿もなかなかよい剣をお使いになりそうじゃが。よければ慶四郎様が来る前に儂と一手やりますかな』


 塚原高幹(卜伝)は2人の顔と剣を握る手を見てそう言った。剣ダコが出来た2人の手から、どれほどの使い手なのかを見切っている高幹(卜伝)であった。


 『此度は彦九郎殿のみで私は見物しようと思っていたのですが、せっかくのお誘いですからよろしくお願い致します』


 『おぉ! これは良いものが見られそうだ』


 鬼との立ち回り、忍びに放った居合から、道仁の力量をなんとなくわかっている一益であったが、実戦以外では珍しい他流試合という面白そうなものを見られると大喜びで、満面の笑みで道仁と高幹を見るのだった。


 周りで練習していた門下生、雲林院家武士達も一度稽古を止め、道場の中心を空けて準備をする。するとちょうど後からついた雲林院祐基(慶四郎)が現れた。


 『これは一体……土佐守殿が試合をされるのですか? 』


 道場全体がばたばたと準備をしている中、着いたばかりで訳のわからない祐基は、一益を見つけて走り寄ると尋ねる。


 『おぉ、慶四郎様。実は慶四郎様が来る前に、土佐守様が道仁殿を1試合誘いまして。これからそれが行われるところで御座います。』


 『長門守から道仁殿も京八流の使い手と聞きしました。しかし、土佐守殿から立ち会いを誘うのは珍しいことですぞ。これは良い試合が見れそうだ』


 そんな周りの会話など他所に、準備を終え道場中心で木刀を持ち対峙する塚原高幹と蘆屋道仁。それを囲って見物する弟子や雲林院家武士達。


 互いに礼をしたのち、どちらも正眼で木刀を構えた。


 その間合いを取ったまま、互いに少しずつすり足で左周りに動き、動向を伺っていく。


 道仁は高幹の動きを見切ろうと相手の目を伺うが、その切れ長で瞳の見えない目からは何を考えているのかは窺い知れなかった。


 先に動いたのは道仁であった。待ちの高幹に対して、素早く踏み込むと小手に打ち込む。それを木刀でヒラリと合わせ逸らし、半身(ひるがえ)す高幹は、道仁の打ち込んできた木刀を上から抑えた。


 すかさず後方へ引いて離れる道仁は、間を置かず上段から飛びながら面に打ち込むが、綺麗に合わせた高幹の木刀に流され、体勢が崩れたところを、逆に小手打ちを寸止めされ、道仁の負けとなった。


 普段から妖も相手に、自らも躍動して蝶のように戦う動の剣術である道仁に対して、相手を見極めて後の先を制する静の剣術の高幹という対照的な打ち合い、読み合いの試合であった。


 『ありがとうございました。貴重な経験となりました』


 『いやいや。道仁殿は儂のようにあまり動かぬ相手と試合るのは少ないのかね? どこか戸惑いのある剣筋に思うたが』


 道仁の相手する妖は先日の鬼のように動きが大きかったり、機敏なことが多く、師の鞍馬天狗・天魔もその素早さを強みとしていた。また、武士ではないので、戦に出ることもなく、このような一対一の道場剣術も試合った経験はなかった。


 『私は陰陽道を生業(なりわい)としておりますので、あくまで剣は妖に対して使うのみ。野盗との戦いで使うことはありますが、土佐守ほどの使い手は居りませんので』


 道仁は土佐守ほどの使い手が野に居たら堪らないと、苦笑いで答えるのだった。


 祐基が来たことで、次は祐基と一益の試合となった。高幹(卜伝)と道仁は道場の端でその試合を眺めながら話をする。


 『ほぅ。彦九郎殿もなかなかの使い手ですな。隙が少ない』


 道仁は、自分が試合相手であれば、一益に隙が”無く”、攻めあぐねるだろうと思うところを、ただ隙が”少ない”と感じるだけの差が高幹(卜伝)の凄みであった。


 『お二方は旅の途中とのことでしたが、どちらに向かうのですかな? 』


 『まずは安濃津方面に進んで南の木造にある、源浄院にいる彦九郎殿と同じ滝川の流れを汲む者に会おうかと。ただ、まだ知らせを出しておりませんので、知らせが届くまではここ雲林院に滞在しようかと思っております』


 『ほっほっほ。それはちょうど良い。知らせが戻るまで、ぜひこの道場で指南役をやりませぬか。給金は(しか)と出す故。儂と門弟だけではちと人が足りなくてのぉ。他流試合もできて良い修練にもなる』


 塚原高幹(卜伝)に誘われた道仁は、指南役をすることに異存はなかったが、旅の主である一益の動向に合わせるため、一益と話してから後日改めて道場を尋ねると答えるのだった。


 一方で試合は、一益と祐基が道場の真ん中に向かい合い、正眼の構えをとっていた。


 祐基はまだ若いものの、雲林院家の嫡男として幼少から剣術を習っており、さらには、塚原高幹(卜伝)に師事してからは実践経験こそないものの、道場では家中の武士に負けることの方が少なかった。


 試合が始まると、祐基は慎重な攻めを繰り出し続ける。しかし、一益は余裕をもってその攻撃を逸らし、反撃に移る。


 何度目かの打ち込みを左手一本で持った木刀で逸らした一益は、そのまま祐基の方へ素早く踏み込むと空いた右手で祐基の手元をつかみ、そのまま捻って木刀を取り上げてしまった。


 祐基は驚きの表情を浮かべ一益から距離を取るべく離れたが、一益は奪った木刀を右手に構えて二刀流の構えを取り、残心の構え。祐基は木刀を失い、負けを認めることとなった。


 『いま少し、修練が必要ですな。慶四郎様』


 基本に忠実な祐基の剣技は一益にとっては癖がなく戦いやすい相手であった。


 実戦や、猛者との試合を経て得られる賢さを知ればまだまだ高みを目指せる才があると感じた一益は、一言そう言うと爽やかに祐基へ微笑むのだった。


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