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下天を征く〜陰陽師:蘆屋道仁と滝川一益の戦国一代記〜  作者: シャーロック
天文11〜12年(1542-43年) 伊勢・志摩漫遊編
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10.長野家・雲林院家との邂逅


 明くる朝、野呂師忠、道仁、一益一行は、昨日斬られた下男・林助蔵の用意した野呂家の馬に跨り、野呂城西に四半刻もかからない離れた場所に位置する雲林院城へ向かった。


 この助蔵は雲林院家に仕える林家の縁戚で、野呂家厩番を務めている。昨日は利き腕を斬られたが、幸い刀傷は浅く、今朝も怪我腕を布で吊って一行の馬の手入れをしていたようだ。


 一行は安濃川沿いを遡り、川の南側にある雲林院城近くにやってきた。


 平城で館のある野呂城と異なり、雲林院城は小高い丘の尾根伝いにある山城であった。丘の麓にはいわゆる城下町、寺町というものがあり、そばを流れる安濃川を利用した商いで栄える町を中心とした雲林院の拠点となる場所である。


 雲林院家は館をこの城下町に構え、後方の丘陵を利用した城は詰城としていた。


 此度は城下の館にて、雲林院家家老である野呂師忠と当主名代として同行した嫡男・祐基が雲林院植清と同席する長野家重臣らへの和睦の報告を行う。その後、当主・植清が祐基と同席する形で道仁と一益に会うという流れであった。


 館に到着した一行は、下女に案内され6畳ほどの一室に案内され、ここで暫し待つようにとのことだった。


 『和睦の報告とあったが、関家とは南北朝の頃より両家は争ってきた。長野家中でも皆が賛成しているかはわかりませんな』


 一益は下女が持ってきた茶と餅を食べながら呟く。


 2人が半刻ほど話しながら待っていると天井の一角が少しズレ、隙間から黒い塊が板間に落ちてきた。


 『こ、これは一体。黒翁殿が天井から降ってきましたぞ』


 どうしたものかと道仁を見る一益とそれを面白そうに笑いながら見返す道仁。


 『なにやら儂がいない間に彦九郎殿は旨そうなものを食っておりますなぁ。道仁殿、儂もその焼いた餅を所望致しますぞ』


 そんな2人を他所(よそ)に黒翁は皿に残っている餅にトテトテと歩んでいった。


 『黒翁殿には少し館を見聞きしてもらいました。私の懐紙の式神では見られた時に困りますからね。黒翁殿は私の目や耳の代わりとなって動いていただくのにちょうど良いのです』


 『それは然り。さすがですな! 道仁殿、黒翁殿。して、なにを見聞きしてきたのですかな』


 一益は満面の笑みで、両手で器用に餅を持って食べる黒翁を見やった。


 『まず、大広間にて行われている和睦報告の参加者だが、雲林院家からは当主・中務少輔(雲林院植清)、嫡男・慶四郎(雲林院祐基)、家老・長門守(野呂師忠)。長野家から先代当主・長野宮内大輔(植藤)、親族衆筆頭・細野隠岐守(藤光)、重臣・分部四郎次郎(光定)与三左衛門(光恒)兄弟、細野家与力の川北内匠助(頼元)が来ているようですな』


 黒翁の話を聞いた一益はやや驚いた顔をした。


 『長野家から多くきているようですな。先代当主がやってくるとは……』


 『話を聞いていると、長野家としては、関家と隣接する雲林院、細野、川北に今回の和睦でかなり譲歩して貰ったようですからな。細野は先代・宮内大輔(長野植藤)の弟・隠岐守(細野藤光)が当主ですからさほど揉めなかったようですが、川北は嫡男と次男を戦で亡くしておるようで』


 『雲林院家は和睦に前向きと長門守(野呂師忠)には伺っていましたが? 』


 道仁は昨夜の師忠との酒の席での会話を思い出していた。師忠は南北で挟撃されれば長野・雲林院は耐えられないとの認識だったはずだ。


 『雲林院家は長野家と共闘しなければならぬとわかっておるようですな。しっかりと長野からの金銭の保証も引き出しつつ、和睦に賛同したようです。川北家は最後まで主戦派でしたが、隠岐守(細野藤光)に子ができればそこから養子を取ることで和睦に賛成。これで長野家と北畠家の争いは確実となりましたな』


 『いずれこの伊勢は近江・六角と南伊勢・北畠どちらに着くか、大小土豪は決めねばならぬ時が来るかもしれませんなぁ。北畠家臣にも滝川の流れを汲む縁戚がおりますれば、一度顔つなぎはしておきましょうかねぇ』


 自分も一土豪の出身である一益は、そう染み染みと呟くのだった。


 『ほう。北畠家にも縁戚があるのですか。彦九郎殿はそちらに仕官されるつもりはないのですか? 』


 『縁戚とはいえ家督は北畠からの養子に挿げ替えられて、いまは寺の和尚をしているようでして。ま、その養子殿はなかなか見どころがあるらしく、後見として助言してあるようですがね』


 北畠晴具の三男・具政は、長野方の細野家が治める安濃津に近く、街道沿いで栄える所領を持つ木造家の養子となった。木造家はもともと北畠家の親族ではあったが、主家と対立したり従ったり、付かず離れずの関係だった。そして当主が木造具政となったことで北畠家親族衆筆頭として北畠を支えていくこととなる。


 また、この木造家は元は滝川家と同じ流れを汲む御家で、一益の縁戚・雄利は出家して源浄院という寺の僧をしていた。養子としてやってきた具政に見どころを見出した雄利は、叔父として出家した身ながら、今だ14歳と若い当主(木造具政)を補佐しているとのことだった。


 そんな一益の話をしていると、当主謁見の迎えの下男がやってきた。


 『失礼致しまする。雲林院中務少輔(植清)様、慶四郎(祐基)様の準備が整いました。御二方は私の後について来てくださいませ。』


 『では彦九郎殿。雲林院家当主様にご挨拶と征きましょうか。黒翁殿は裏手の蔵の方へ行ってもらえますか。先ほど案内される道中、なにか妖気のような気配を感じましたので……』


 『任せよ道仁殿。』


 そう言うと黒翁はスルスルと柱を登り天井の隙間に消えていった。


 『ご準備いかがでしょうか! 』


 『はいよ! 待たせたね。この餅がなかなか美味しくてねぇ』


 黒翁を見送った一益が餅を食べながら、廊下に控える若い下男に答えた。


 『今はよろしいですが、御当主様の前では粗相のないようにお願い致しまする』


 小姓として雲林院家に仕えているのか、まだ幼さの残る声色で高々とそう述べた若い下男の後を、粛々と道仁と一益は大広間へ向かった。


 大広間へ入ると一段高くなった上座に座る壮年の男、雲林院中務少輔(植清)とその左に控える雲林院慶四郎(祐基)、祐基の向かい、植清の右手には白髪の混じる男が控えていた。そして、段の下がった位置、祐基の側に野呂長門守(師忠)が控える。


 2人が大広間に入ると祐基が笑みを浮かべ、軽く会釈をしたのが道仁には見えた。一益も少し笑みを浮かべ祐基を見やり会釈を返す。


 若い下男に促され、上座に控える3人と畳三枚ほど離れた大広間の中央へ座ることとなった道仁、一益。


 2人はその場で頭を下げると、当主・植清の声かけを待った。


 

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