箱の中
三題噺もどき―にひゃくにじゅう。
目の前に。
一つの箱があった。
「……」
よく見るサイズ感。
綺麗に可愛らしい包装紙で包んで、リボンでも結べばいいクリスマスプレゼントになりそうなサイズだ。
長方形の、横が長くて縦が少し短くて、高さが縦と同じくらいの。
「……」
それ以外は何もない。
そこに居るのは、僕だけで。
他の人の気配もしない。
―鈍感な僕の勘なんてあてにしようも、ないんだろうが。
「……」
さて、この箱は何だろうと。
さらりと、撫ぜてみる。
見た目のサイズ感は伝えた通りなのだが。
質感は、段ボールに近い。
茶色というか、肌色というか色も段ボールに近いもののように思える。
「……」
蓋…のようなものは、あるが開けていいものだろうか。
特に、封もされていないようだから、開けろと言う事なんだろうが…。
はてさて。
「……」
とりあえず、開けてみるしかないのか。
他にすることもないようだし。ないモノを求めても意味はなさそうだし。
やることはこれしかないのだと勘がそういっている。
―だから、僕の鈍い勘はあてにならないっての。
「……」
両の掌でその蓋をゆっくりと持ち上げる。
さて、その中身は何だろうと、内心ドキドキしてみたりして。
たいして期待はしていないと言いながら、頭の中ではいらない妄想がはかどる。
欲しいモノとか、いらないものとか、動物とか、人の頭とか、食べ物とか、本とか。ゴミとか、無機物とか。
「……」
なんて、いらない妄想のせいで、期待が外れたときの喪失感とは、慣れるものでもない癖に。なぜ、こうも期待してしまうのだろう。
喪失感なんて、そうそう何回も感じたいものでもないし。
「……」
その箱の中には。
箱。
「……」
一回り小さな箱だ。
「……」
なんだか、これは見たことがある。
こういうおもちゃがどこかにあるはずだ。
それと同じなら、この箱の中にも。
「……」
箱。
「……」
箱。
「……」
箱。
「……」
は――
「……?」
箱の中の箱。
箱入りの箱。
大きな箱の中の小さな箱。
「……」
その中に小さな町が広がっていた。
いくつもの家が立ち並び、等間隔に電柱が並んでいる。
犬を連れて歩く人も居れば、自転車を走らせている人もいる。
買い物袋を提げた主婦と主夫。子連れの帰り道とは…大変そうだ。
「……」
そこに広がっていた。その町は。
―僕の見慣れた町だった。
「……」
町そのもののレプリカのようだった。
とても精巧で緻密で、まるで町そのものを閉じ込めたような。
「……」
美しく作り上げられた星空を眺めるプラネタリウムのように。
美しく作り上げられたこの町を上から見下ろしている。
「……」
これはさて、何だろう。
なぜ、こんな視点で。町を見ているのだろう。
「……」
あぁ、そうだと。
僕の住んでいる家は、この辺だっただろうかと。
つい―と、視線を走らせる。
「……」
あぁ、なるほど。
なるほどね。
お題:箱入り・自転車・プラネタリウム