つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
イルミネーションが絡まって動けなくなったので幼馴染に助けを求めたら、クリスマスイブなのに爆速で来てくれた件
クリスマスイブの夜。
僕は当然のごとく、特に予定はなかった。
しかし、やりたいことはあった。
写真がすきな僕は、イルミネーションの写真を撮りたいと思うのである。
というわけでクリぼっちの僕は一人で、イルミネーションがきれいで有名な、とある駅前へと電車で向かっていた。
ちょうど日も沈んできて、そろそろイルミネーションが点灯しそうだ。
駅に着いて、ホームに降り立つと、すでにイルミネーションが光っているのが目に入った。
おおお。
これは綺麗な写真が撮れそうだ。
写真を撮るためだったら、カップルしかいない場でも、意外とどんどん行けるもんである。
だけどそれでも、やはりいざカップル専用の、ハートだらけのところについたら、少し腰が引けてしまった。
だけどここら辺は本当に写真のとりがいしかないぞ。
僕は大変気合いを入れてカメラを構えた。
世界にいるのは僕だけのつもりになってシャッターを押せば、きっとカップルも映り込まない。
いや違ったわ。突然陰キャが乱入してきて、ウキウキでカメラを構え始めたからみんな離れていっただけだったわ。
さっさと撮って退散しないとな……。
僕は心なしか慌ててしまっていた。
いや、どんどん行けるもんである、とか言ったの大嘘だったな。
僕は存在感を次第に減らしていきながら、写真を撮っていった……が、なぜか途中から動けなくなった。
なんか、ちょっと引っ張られている。
いや可愛い彼女に引っ張られてるならいいけどね、僕一人で来てるのでね、おかしいんだよなあ。
と思って後ろを見たら、イルミネーションの余った部分と、僕のズボンの金具、そしてポーチがめっちゃ綺麗に絡み合っていた。
はあ? そんなことある?
いやあるんだろうね。
結構写真撮影に夢中で、茂みに身体が当たりまくってたんだろう。
しかし身体を相当ひねらないと取れない位置に絡んだな。
こんなところでズボンを脱いで取るわけにもいかないし、かなり困ってしまった。
しかもさらに困ることに、ここはイルミネーションの写真スポット。その中でもめっちゃいい角度で、イルミネーションを撮れる場所。
うん、だからね、カップルが、めっちゃ写真を撮りたがってるんだよね。
なのに僕が動けないでいるから、とにかく邪魔なわけ。
仕方ない。誰かにとってもらうか……。
いやしかし頼みにくい。
クリスマスイブのすごいイルミネーションの下で、とてもいい雰囲気のカップルに、よくわかんない男のズボンに絡んだものを取らせるなんてできないよ。
困ったけど……僕だって、僕だって一応、こういう時に助けてと言える人はいるんだ……!
というわけで僕は幼馴染を呼んだ。
呼んでからなぜか爆速で来た幼馴染の麻由里は、僕を見てため息をついた。
「ごめん。この場所で一人でずっと動けなかったと思うと、空気読めなさすぎてやばいんだけど」
「だろうね。まじで助かる」
麻由里は、少し笑いながらスマホの懐中電灯で僕のズボンを照らし、そして絡んだのを解いていった。
「それにしても、めっちゃ早く来てくれて、本当にありがとう」
「は? なんかそれだと私がクリスマスイブなのにめっちゃ暇だったみたいじゃん!」
「あれ、彼氏いるんだっけ」
「いないよ! いないけどね、家族とチキン食べるのにいそがしかったのねわかる? 今頃私のチキンないよ?」
「それはまじですまん」
「ほんとほんと」
「じゃあ今からなんか買って食べようよ。僕の家とかで」
「え、いいの?」
「いいよもちろん。助けてもらったんだからね」
「そうなのね。……ありがと。じゃあ」
麻由里はそう言って僕と歩き始めた。
そして……手をつなぐ。
いやなんで?
「たまにはいいでしょ、幼馴染なんだから。別に付き合ってなくてもそういうことはあるでしょ」
「そうかもしれない……ね」
僕は納得してないけど、なんか手が納得していた。
だってカメラのシャッター押すよりも、心地がいいんだもん。
お読みいただきありがとうございます。
クリスマスイブに暇な作者が投稿してしまいました。