ローゼンクロス辺境伯家へ
※主人公より大切なお知らせ※
セシナ「やっと主人公の視点が戻ったっ!!」(涙)
―――ガタンゴトンと揺れる馬車の中。
ルシウス兄さんは俺の正面、フィアナ嬢が俺の隣に座っている。この馬車は普通に道を行く馬車ではなく、空を飛ぶ馬車である。王都を出ると早速宙に浮きあがってウチのローゼンクロス辺境伯家まで通常の陸路よりも早く着くのである。
「・・・っ!」
浮き上がった馬車にフィアナ嬢が早速驚いていた。
「あぁ、飛ぶ馬車は初めて?」
「は、はい」
「不安なら、もう少しこちらに寄る?」
「い、いいのですか・・・?」
そう言うとフィアナ嬢がこちらに身を寄せてきたので腕で彼女の腰を引き寄せる。
「大丈夫か?」
「はい」
何だか嬉しそうに頷くフィアナ嬢・・・何だろう、かわいいな。
「それで・・・」
その時、ルシウス兄さんが不意に口を開いた。先ほどまで馬車の窓の外のハーパンショタっ子を必死に探していたのだが、さすがに空に浮いたら探せず諦めたらしい。
「フィアナちゃんだよね。これからよろしくね」
あぁ・・・馬車の窓の外のどこかにいるハーパンショタっ子に向けていたキラキラをあからさまにこちらに向けてくるんだが。
「は、はい」
「愛称とかはあるのかな?是非仲良くしたくてね」
キラッ。
だから、眩しいからキラキラやめろ!ここにハーパンショタっ子はいねぇから諦めろ!
「あの、“フィア”と呼ばれることが多いです」
「じゃぁ、俺もフィアと呼んでいい?」
「はい、セシナさま」
「因みにセシナの愛称は、セシナたん、セシにゃんなどだよ」
「はい!その、どの愛称でお呼びすればいいでしょうか!」
ルシウス兄さんめ、余計な知識を与えるなぁ~~~っ!
「“セシナ”って呼んでくれるのが一番嬉しいかな」
「・・・セシナさま・・・?」
「そう、それが一番いい」
「何で一蹴するの~、セシナた~んっ」
「たんつけるな。因みにこれはルシウス兄さん。変態でもショタコンでも呼べればなんでもいいから」
「えぇっ!?変態はダメだよ!」
何でだよ!じゃぁ、ショタコンはいいのか!
「だって変態だと・・・他の兄弟と被るじゃないか」
何つー残酷な現実だ。
「まぁ、冗談はこのくらいにして」
いや、冗談ではなく全て真実なんだけども。
「“ルシウスお兄さま”と呼んでね」
「はい、ルシウスお兄さま」
「因みにお兄さんのことどう思う?」
何初対面で突然聞かれて困る質問してんだ。目の前でハーパンを縫い付けて長ズボンにしてやろうか?
「あのっ」
フィアは躊躇いながらも口を開いた。
「ま、眩しいです」
うん。尤もな感想だ。あのキラキラに魅了されない人間にとってあれはさぞ眩しいだろう。俺も迷惑しているからキラキラやめろマジで。
そしてその感想を聞いたルシウス兄さんはようやっとキラキラをやめた。
「そうだ、苦手な食べ物などはあるか?」
「あ・・・いえ、特には。でも、血は、飲めません!」
はぇ・・・?
「あ・・・あ~・・・そう、血ね?ふっふふ・・・っ」
ルシウス兄さんが苦笑し始め、きょとんとしながらフィアが俺を不安げに見つめてくる。
「確かにルシウス兄さんは吸血鬼だし、俺は吸血鬼と人間の混血でどちらも吸血はするけどそれが食事ってわけじゃないな」
「そうなのですか?」
「血じゃぁ腹は膨れないからね」
と、ルシウス兄さん。
「趣味嗜好で啜る吸血鬼もいるけれど、大体は栄養や魔力、体力補給とかのためだから。毎日毎食飲むわけじゃないよ。飲んだ血で相手のスキルをコピーする吸血鬼なんかもいるけど」
「その、では、私の血も吸うのですか?」
「あ~・・・夫婦とかなら、愛情を確かめるために吸い合うことはある、けど。嫌ならやらない」
「いえ、そんなことは、ないです!」
え・・・ないの?人間のご令嬢だからてっきり恐がると思っていた。
「そうか・・・そう言う思想の子もいるってことか。お兄さんもハーパンショタっ子に申し入れてみようか・・・」
「やめろ、変態。一般的に子どもからは吸わないのがマナーだろ」
「うぐ・・・っ!そうだった!」
本気で悔しがってやがるこの変態兄め。
「まぁ、だから食事は3食普通にとる。好きなものとかはあるか?」
「えっと、きのこが、好きです」
何かかわいいっ!何故だっ!きのこが好きって!
何故かそこが俺の琴線に触れた。
「しいたけも・・・好きです」
「そうか。じゃぁ初日だし、きのこやしいたけ多めのメニューにしてもらおうか」
「そんなお気遣いをっ!」
「いや、慣れないところで暮らすんだし遠慮しないで」
そう言うと、フィアはゆっくりと頷いた。
そして・・・
ゆっくりと降下していく馬車。やがて陸路をガタンゴトンと進み停止すると屋敷に到着したことがわかった。フィアをエスコートしながら屋敷に招けば兄たちがしっかりと出迎えをしてくれたのだが。
「ようこそ、ローゼンクロス辺境伯家へ。フィアナ嬢。私が当主で長男のマティアスだ」
そう告げたのは、プラチナブロンドの髪に包帯柄の仮面を被ったマティアス兄さん。因みにこのひとは初対面の女性と会う時は必ずこう言った仮面をしているのだ。じゃないと蕁麻疹でるから。
「三男のジルだ」
続いて告げたのは、髪も含めて黒ずくめな上に黒い口蓋をして明らかに使用済みなよくわからない凶器を持ったジル兄さん。
「四男のゼンです~」
にこやかに告げるところは感心だが、ゼン兄さんは緑色の薄いハットで髪を多いマスクをして血まみれの緑の解剖衣を纏っていた。更に手には半透明ののびのび手袋。
仮面、黒ずくめ、血まみれ。
お前らはまともな出迎えができないのかっ!
フィアだってドン引き・・・
「よろしくお願いいたします、お兄さま方。どうぞ“フィア”とお呼びください」
さらりとカテーシーを決めるフィア。この子・・・デキるっ!!
「あぁ、エリン。世話を頼んでいいか。部屋に案内してあげてくれ。荷物はさっき運ばせたから」
と言っても、彼女の荷物はトランクひとつしかなかった。迷惑になるからと他のものは必要になったら実家から取り寄せると言っていた。特に遠慮することはないんだが。
まぁ、そう言うわけで荷物は部屋に運び済み。
俺の言葉で駆け寄ってきてくれたメイドのエリンに彼女を任せることにした。
フィアも兄3匹の衝撃的な姿をものともせずエリンに付いていく。
「あのさ、お兄ちゃん。やっぱり妹なら現実でもイケるかな!?」
何だかひとりテンションの上がっている2次元妹ヲタ・マティ兄さんだが。
「ねぇ、ルシウス兄さん」
俺はルシウス兄さんの耳元に顔を近づけた。
「あの妹のこと知ったらどうなると思う?」
「あぁ、多分致命傷になるから暫くナイショにしとこうね」
うん、それには俺も賛成した。
※続きは明日更新予定です<(_ _)>※