フィアナの涙
※今回もフィアナ(※ヒロイン)視点のお話です※
キャメル侯爵家レナードさまと婚約してからは全てが順調だった。あんなに大変だった王子妃教育に励む必要もない。怒鳴ったり叩いたりもされない。パーティーでもごく普通にダンスができる。
レナードさまがこれまで婚約されてこなかったのは、長らくご病気を患われていたからであった。現在は快癒しており、それから婚約者を探していたところで私の話が上がったそうだ。王子妃教育を断念し婚約破棄されたとはいえ、長男・次男が将来騎士を目指していることからも近衛騎士団長のお父さまとのつながりを作ることは重要だと判断されたらしい。
更に、現在の第2王子殿下の婚約者もお父さまの娘であり末の妹のソフィアンナだ。王族との伝手もできて大満足ということだ。
だが、幸せは長くは続かなかった。何故なら・・・
ソフィアンナが王子妃の婚約者として不適格として婚約者候補を外されたのだ。ソフィアンナは第2王子殿下とイチャイチャするだけで、王子妃教育を何かと理由を付けて避けたり、途中で投げ出したりしていたらしい。
極めつけとなったのが、王太子殿下と既に結婚している王太子妃殿下の窮状だ。王太子妃殿下も私のことは婚約解消されたあと、繰り返し謝ってくれた。私の妹と言うことで目もかけてくれたそうなのだが、王太子妃殿下の目の前で王太子殿下に言い寄ったり、ボディタッチを繰り返ししたりと言う行動が続き、遂には王太子妃殿下が体調を崩してしまったことだ。
これにより王太子妃殿下と共に第2王子殿下と共に王室を支えていくことは不可であり、優秀で国民にも人気の高い王太子妃殿下を優先しソフィアンナを切り捨てる結果となった。
その件については陛下も先日の第2王子殿下の婚約破棄のこともあるので、お父さまもソフィアンナの再教育をすると言うことで折り合いを付けたらしい。
しかしそんな再教育のさなか、事件は起こったのである。レナードさまと出席したお茶会に、共に参加したソフィアンナが私たちの前に現われたのだ。それ自体は姉の婚約者に挨拶するだけなのだからいい。しかしソフィアンナはまるで誘うような目線をレナードさまに向け、またレナードもソフィアンナとじっと見つめた。その瞬間・・・
「君は・・・君こそがぼくの運命の相手だ!」
「あぁ・・・あなたが・・・!」
そう言って、その場でふたりは抱きしめ合ってしまった。
当然お父さまは激怒した。しかし国王陛下の仲介でソフィアンナの婚約者が決まらねば困るだろうとレナードさまの婚約者がソフィアンナへ変更されることとなったのだ。そして今後いかなる理由があってもソフィアンナからの婚約解消、破棄、離縁などを認めないと誓約書を突き付けて。
そして私は、何故あの時国王陛下は公衆の面前で私が辱められ、その原因を作ったソフィアンナとレナードさまを叱らずそのまま婚約を認めさせたのかを後々知ることになる。
後日お父さまから告げられたのは、私がもう一度第2王子殿下の婚約者となることだ。つまり、国王陛下は私と第2王子殿下の婚約破棄を認め、ソフィアンナを婚約者候補として認めたがソフィアンナが将来の王子妃として不適格となったため、再び私を婚約者に据えたかったのだろう。
そしてそれを王命として告げられたとお父さまは言った。
それは国王陛下が第2王子殿下が二度と婚約破棄などせぬようにと言う心遣いだということだが、それでは私と第2王子殿下の一度目の婚約は一体何だったのか。
それはつまり二度と私を第2王子殿下の婚約者から逃がさないと言う無言の圧力ではないか。
信頼していた婚約者に裏切られ、再びあの第2王子殿下の婚約者にされてしまう。その恐怖で私は泣き崩れた。そしてはしたないと思いつつも“嫌だ”とお父さまに泣きついてしまった。その私の行動に何事かと驚いたお父さまは詳しく事情を話すように言ってくれた。
私はもはや第2王子殿下に脅えていた小さな女の子ではない。
何があっても守るからというお父さまの言葉に恐る恐る私は口を開き、お父さまに今まで第2王子殿下から受けてきたことを話した。
結果、お父さまはお母さまと一緒に何とかして私が第2王子殿下の婚約者から外れるように東奔西走してくれた。
そんな中、チャンスが訪れたのだ。
何と、種族間の友好関係強化のため、吸血鬼のギルバート第2王子殿下と婚約することになったジュリアンヌ王女殿下が吸血鬼と言うバケモノに嫁ぐなんて嫌だと泣いて訴えたそうだ。
彼らは吸血行為を行い、人間よりも優れている種族とはいえ見た目はそんなに変わらない。そんな彼らを“バケモノ”と称するジュリアンヌ王女殿下の心情はわからない。
元々ジュリアンヌ王女殿下に私は毛嫌いされていた。理由はわからなかったけれど、年齢が上がれば落ち着くだろうとは言われていたが未だに私は嫌われている。
まぁそこら辺の事情はおいておいて、王女殿下があまりにも嫁ぐことを嫌がるので、お父さまが私を代わりにと推したのだ。既に王子妃教育は終了している身、身分的にも申し分ない。だからこそ・・・と。私を第2王子殿下の妃にしたい国王陛下は渋ったそうだが、どうせ2度も婚約破棄された令嬢を受け入れるはずもないと、吸血鬼側に提案だけしたらそれが通ってしまった。
そして、私はお父さまから再度確認され、人間の第2王子殿下・カイムから逃げられるのならとそれを受け入れた。せめて、吸血鬼のギルバート殿下はまともであってほしい・・・そう願いながら。
しかし、再び悲劇は訪れたのだった・・・。