辺境伯一家の5人兄弟
―――それは突然訪れたと言う。
「あの・・・!わたくし、ひとめぼれいたしましたの!あぁ・・・吸血鬼の王子さま!わたくしはあなたと結ばれるために産まれてきたのだと、今わかりましたわ!だからわたくしと婚約してくださいませ!」
それはお互いの種族で友好関係を結ぼうとしていた人間側と吸血鬼側双方にとって寝耳に水のことだった。
先ほどのセリフの主は、人間の王国の王女である。元々彼女はこの友好条約のために吸血鬼の王子の嫁として差し出される予定だったのだが、本人が恐ろしいバケモノの嫁になんて行きたくないとごねたため急遽、人間の王国の公爵家から姫を選出したのだ。幸い、とある公爵家から吸血鬼の嫁に出しても問題ないと言う令嬢を確保できた王国側は、早速式典にてその令嬢を引き渡そうとしていたのだが・・・。
その時、王女が叫んだのだ。やはり、吸血鬼の王子の嫁になると。その理由は誰が考えても明白であった。吸血鬼は誰もが見目麗しく、王子もまたこの世の者とは思えぬほどの美貌を持っていたから。故にひとめぼれして直前になってしゃしゃり出てきたのであった。
通常ならば考えられないことだが、しかし人間の王国の王女が直々に吸血鬼の王子に嫁いだ方が両国の関係強化により貢献できるのも事実。そして王子もまた人間の王女の美しさに惚れ、そして用意された公爵家の冴えない令嬢よりもいいと申し出たのである。
これによって婚約する両者の意見は完全に一致。吸血鬼の王子は人間の王国の王女を婚約者に迎えることになったのである。
―――そしてここは、そんな吸血鬼たちが暮らすとある自治区。人間の王国の領土内にありながら吸血鬼の自治が認められている区画である。
そんな区画の一郭に吸血鬼の辺境伯一家があった。辺境伯と名のつく通り、彼らは吸血鬼が暮らす自治区の境界を守る一家である。
そんな一家を取り纏めるのは若き辺境伯。ひとよんで、“辺境伯一家5人兄弟”の長男・マティアス。プラチナブロンドの髪に赤い瞳を持つ絶世の美貌を持つ青年であった。マティアスは開口一番に自らの4人の弟たちに告げた。
「・・・と、言うことで長老たちがあまりにもかわいそうだと、吸血鬼の王子に見捨てられた人間の公爵令嬢をもらってほしいと言っているんだ」
その長男・マティアスの言葉に弟一同絶句した。
「でも、マティ兄さんって女性アレルギーだよね。何考えてるの?」
そういち早くツッコんだのは次男・ルシウス。ルシウスはスイートブラウンの髪に青い瞳を持つ爽やか系美青年である。
「いや・・・確かに俺は女性が苦手だ。大体蕁麻疹が出る」
「じゃぁ何でOKしたの」
「まだOKしたとは言ってない」
「でも、マティ兄さんって情に流されやすいから即OKしたんでしょ?ほら。怒らないから言いなさい」
「・・・うぐ、そうです」
長男、完全に次男に屈服する。
そして・・・
「でも、俺には秘策があるんだ」
「まぁ、一応聞こうか?」
「俺は・・・二次元の妹なら・・・大好きだ!!」
「それは知ってるけど」
「だから・・・妹ならいけるんじゃないかと思って!」
「何つー、短絡的な考え。まぁ、辺境伯としては優秀だからいいけども、実際の妹と二次元は違うでしょ」
「可能性としてはありじゃん!?」
「つまりこういうこと?俺たちの誰かの嫁にしろと」
「そうです、すみません、ごめんなさい、でもこんなお兄ちゃんを許してお願いだから弟たちよ」
「・・・と、長男は言っているけどどうする?因みに俺はパス。だって俺はショタコンだから」
「なら俺もパス。俺は弟萌えを極めるために産まれてきたんだから」
と、三男・ジル。ジルはさらさらの漆黒の髪に切れ長で鋭い赤い瞳。更には雪のように白い肌を持つクールビューティーな青年である。
「え・・・じゃあぁ、俺とセシナくんのどちらかですか?う~ん、俺は別に構わないけど女性には結構避けられるんだよね。どうしてかな?」
と、述べたのは四男・ゼン。ゼンは金茶の髪にオレンジ色の瞳を持つ細身のイケメン好青年であった。
「え?それ、あれでしょ?解剖した後の血まみれで普通に女性の前に現われるからみんな恐がって逃げちゃうんでしょ?」
と、次男。
「吸血鬼が血を恐がってどうするの?」
「いや、吸血と血まみれは別だから!別次元!」
と、次男が引き続き諭す。
「むぅ・・・」
「しかしながら弟たちよ。兄には秘策がある」
と、次男の言葉に撃沈していた長男が不意に声をあげる。
「一応、聞こうか?」
「今回は・・・我らが末っ子のセシナの嫁に迎えるのはどうだろうか!」
「えっ!?俺!?」
“俺、どうせ純血の吸血鬼“純血鬼”じゃないし別に関係ないじゃん”と言う感じでさらりと兄たちの話を聞いていた末っ子・セシナは驚いて顔をあげる。
人間の母親から受け継いだダークブラウンの髪、赤い瞳は一部の兄たちと同じ色で吸血鬼由来。本人曰く、美貌の兄たちに比べれば俺はモブ。こんな美麗な兄たちの陰に埋もれつつあるごくごく平凡な少年であった。
彼は人間と吸血鬼の混血であり、兄たちとは異母兄弟であった。しかしながらテンプレてきな純血鬼の兄たちとのわだかまりなど特になく、末っ子と言うことでめちゃくちゃ甘やかされてかわいがられて育ってきた。
だが、甘やかされて育ったと言ってもテンプレ的なお花畑ではなかった。何故なら彼の兄たちはめちゃくちゃ個性的であったから。彼の心の奥底に眠るツッコミ魂がお花畑に浸ることをを許さず、ツッコミをひたすら追い求めようとして来たからである。
※本作品はあくまでもラブコメ。“ラブ”コメです。
「何で俺なの?」
普通ならば純血鬼と言う血統を持った兄たちの方が人間たちとのつながりを深めるに当たって重要なのではないかと末っ子は考えたのだが。そう言えばそれは吸血鬼の王子がやるんだっけとも思った。
「セシにゃんは10歳まで人間のお母さんと暮らしていたでしょ?」
長男の言う通りセシナは10歳まで人間である母と暮らしており、母が冒険者として活動を再開するとともにこの個性的な兄たちの元へ預けられたのである。
「てかセシにゃんやめろ」
そんな末っ子のツッコミもものともせず兄は続ける。
「つまり、俺たちよりもより人間を理解している!」
「え、そうかな?と言うか兄さんたちは吸血鬼とか人間とかいう括りのそもそも外にいるから。特殊性癖だから」
「そんなに褒めなくっても~。えへへっ☆彡」
「褒めてるように聞こえるの?マティ兄さん」
「マティ兄さんだけずるいぞ!お兄ちゃんも褒めてほしい!」
と、三男・ジル。
「いや、褒めてない褒めてない」
「まぁ、マティ兄さんの言う子ともたまには的を射ているよね。だから末っ子よ。頼んだぞ」
と、次男・ルシウス。
「いや、急に剣豪キャラやめてよ。今更それやったところでただのショタコンには変わりないんだから」
「でもセシナくん。このお兄ちゃんたちの中で一番まともなのはセシナくんだと思うなっ♪」
『え‶』
四男・ゼンの言葉に絶句したマティアス、ルシウス、ジルであったが、確かに解剖さえしていなければ割とまともな医者であるゼンの言葉も尤もだと思い・・・
「わ、わかったから」
こうして末っ子は人間の妻を迎えることを了承したのであった。
※次回更新日時は未定ですが、本日UP間に合えば更新します。間に合わなければ明日更新します<(_ _)>※
※そのうちいつもの定時更新にする予定です(`・ω・´)ゞ※
※誤記修正済みです(そう言えば、ジュリアンヌまだ連れ帰ってなかったですな)<(_ _)>