8.~手記全文~
葬式には多くの友人や学校関係者も参列していた。
式場のあちらこちらから啜り泣く声やその場に座り込む生徒の姿だけでも生前の彼女がどれだけ慕われていたのか想像がつく。
焼香台の前で本間リサが泣き崩れ動けなくなるのを飯田柚絵と村山悠士に支えられながら連れ出されるのを和也の横からぼんやり眺めていた。東磨の両親とも意気消沈していて心ここに在らず、南未に至っては涙も枯れて腫れた目を前髪で隠すように俯き全く動かない。握りしめていた桜のネックレスだけが小刻みに震えていた。
焼香を済ませた東磨は彼女の遺影を真面に見れず、祭壇の横に居た朔来の両親にも言葉をかけられず頭だけを深く下げ逃げ出すようにその場を後にした。
事故が起こったあと直ぐに消防と警察が到着した。
関係者や目撃者の証言で東磨が最初に後ろから受けた衝撃は母親から離れ余所見をしながら走ってきた男の子だった。その後、一瞬の出来事だったが彼が前に倒れそうになるのを防ぐように左に立っていた瀬名朔来が飛び込み彼を突き飛ばし線路へ落ちた。そこへ入線中の貨物列車が徐行速度ではあったもののブレーキが間に合わず電車の下敷きになってしまった、というのが事故の大まかな概要だった。
東磨がそれを見つけたのは事故から三日後だった。この三日間、誰にも接さず言葉も発せず固形物が喉を通らずベッドから起き上がれなかった。スマートフォンもとっくに充電はなくなっていた。
無気力のまま体を起こしてふと目をやるとテーブルの上にはいつ置いたのか見覚えのない鍵があった。キーホルダーの部分には番号が刻んであり、微かに覚えているのは左のポケットに入っていたこと。
見覚えはないが何となく検討はつきそうだ。ずっと思考を止めていた脳を少し動かす。見たところそれはコインロッカーの鍵のようで、ポケットに入れてきたのは間違いなく彼女だ。そしてロッカーの場所は…あの時か。
駅に到着してから少しの間、彼女が離れたことを思い出した。
未使用のロッカーに同じタイプのキーホルダーが付いていることを確認してから自分が持っている鍵の番号のロッカーを探した。
ほんの三日前、彼はこの場所で大切な人を失った。
翌日にはニュースや新聞でも取り上げられていたが、三日も経てば少なくともこの駅周辺は何事も無かったように人々の日常は流れていた。
目の端に捉え近づいて使用中となっているロッカーの鍵穴に持っていた鍵を差し込み反時計回りに回してみるとカシャンと解錠された感覚が手に伝わった。
一瞬躊躇ったが呼吸を整えて扉を開けてみると、仄かに甘い匂いが立ち込めた。
中には紙袋と日記帳が収められていて取り出そうとする彼の両手が勝手に震える。
何とか取り出し袋の中身を確認すると、それぞれラッピングの違う二つの小さな箱が入っている。
心拍数が、体温が、急激に上昇しているような感覚に陥っていり呼吸が乱れた。
寒さの峠は越えたが次の季節はまだまだ遠いことを予感する冷たい北風が吹きすさぶ皆生の海岸線を歩いていた。
三日も寝たきりで足腰が痛んだがこの日記と紙袋の中身を見るのはこの場所が相応しいように思えた。空は黒い雲に覆われ今にも雨粒が溢れてきそうだった。
暫く歩くと綺麗に整備された公園にベンチを見つけたのでそこへ腰を下ろした。
震えが止まらないのは寒さからではない。無駄だとわかってはいるが何とか抑えようと深呼吸をして紙袋の中から箱を取り出した。よく見ると一つは見覚えのある箱で中身を察し、開けてみるとやはりそうでそれは誕生日プレゼントに贈ったネックレスだ。箱もラッピングもあの時のまま大切に保管してくれていたのだろう。
もう一つの箱も開けてみるとロッカーを開けた時に漂った甘い香りの正体で、こちらは明らかに手作りだとわかる若干歪な丸いチョコレートが詰まっていた。
"Dear Toma Happy Valentine"と書かれたメッセージカードが添えられている。
(…遅いよ…二日も過ぎてるじゃん)
毒づいてから、何度か彼女が持ち歩いているのも見かけた日記帳を開いた。一度パラパラと捲ってみると文字がびっしり書かれていることは確認出来た。
再び深呼吸をして最初の項を開いてみる。
冒頭の文章から彼の心が一瞬で沸点に達するように激しく動揺させた。
わたしは日高東磨を好きになる
そして、わたしは日高東磨を殺してしまう
4月3日 入学式の帰りにリサに誘われ立ち寄ったファストフード店で初めて彼を見つけた。入口から一番近い席に居る二人組の男子高生、背を向けているのが日高東磨。向こうもこちらを伺っているようで彼の顔が少しだけ見れた。
4月13日 二限の移動教室の時に体育館脇のゴミ置き場で彼はしゃがみ込んでいた。よく見ると猫と遊んでいるようで、その表情は校内で見かける時よりずっと優しそうにみえる。
4月26日 昼休みに中庭のベンチで談笑する彼を三階から眺めた。隣に居るのは同じクラスの安田和也と村山悠士、わたし自身も彼らと親しくなるのはもう少し先の話し。
4月27日 体育祭実行委員となりー年四組の委員が決まってない事を四組担任の西村先生に問う。彼に落ち度があり早急に決めるとのことだったのでわたしは日高東磨を強く推薦した。
5月7日 連休明け、西村先生に取引持ちかけ実行委員に日高東磨を選出してくれるのなら、こちらも空白だった学年委員長を務めてもいいと提案した。先生もその提案を飲み校内放送で彼を呼び出し内定した。西村先生には呉々もわたしが彼を推したことを伏せてもらうことも確約した。
5月12日 委員会のグループLINEの派生で日高東磨と個人的にもLINEしたいと誘ってみる。彼は快諾してくれた。
5月17日 前日、日高東磨のLINEに返事が出来ないまま眠ってしまった。不覚だった。なので今日から朝一番にLINEをしようと思う、毎日必ずしようと思う。
5月24日 放課後、体育祭の準備をしていると校庭で騎馬戦の練習をしている男子の中に日高東磨を見つける。無意識に見入ってしまいリサに手を動かせと注意された。
5月27日 体育祭後夜祭の催しにダンスがあると知りわたしは日高東磨を誘う。大丈夫だから勇気を出して行動しよう。
5月29日 体育祭本番、優勝は青組。後夜祭のダンスは流石に恥ずかしかったしお互い手汗も凄かったけど良い雰囲気になったと思う。リサや柚絵が冷やかしてくるので注意。
5月31日 学校で日高東磨と会った時にLINEで朝の挨拶を済ませているのだから、再びおはようを言うことに違和感を持ちやっほーに変えてみた。悪くない反応を見せてくれた。
6月4日 リサ、柚絵と昼食後に渡り廊下を歩いていると日高東磨とすれ違った。二人に気づかれないように彼に手を振ってみた。二人に気づかれないよう彼も返してくれた。
6月9日 職員室から出てくる日高東磨を発見、向こうは気づいていないようだ。誰も見ていないところでドアに指を挟んだようで悶絶しているのを目撃してしまう。夜にその件をLINEして二人で笑った。
6月16日 日高東磨と二人で遊ぶ約束をする。彼にはデートをしようと伝える。返事に三十分ほどかかり少し不安だったが彼はちゃんと返事をくれるので大丈夫。
6月19日 明日はいよいよ日高東磨と初デートだ。服装が決まらず睡眠時間がどんどん削れていく。ただ決まったところで眠れるのかはまた別の話だ。
6月20日 日高東磨と初めて二人だけで遊びに出かけた。素直に楽しかった。彼と居るとドキドキもするし安心もする。なんか不思議な変な人。砂浜から水平線を眺めていると、どうしてもこの日記の事を考えてしまい表情が固くなるのを自分でも感じる。駄目だ、彼の前では絶対に明るく居よう。
6月21日 昨日取ってくれた(半分は店員が)クマのマスコットは学校用の鞄に取り付けてみた。少しあざといかとも思ったが日高東磨は恥ずかしそうに喜んでくれた。
6月28日 予報が外れて下校時間に雨が降ってきた。折りたたみ傘は持っていたがリサと柚絵に渡した。少しすると日高東磨が現れ傘に入れてくれた。彼がいつも折りたたみ傘を携帯しているのは知ってる。別れ際、自分は大丈夫だからと傘を預け駅へ向かって小さくなっていく背中に、本当はもう少し一緒に居たいのにと呟いた。
7月4日 倉吉へ遊びに行き梨ミュージアムでたくさん梨を食べお揃いのキーホルダーを買った。写真もたくさん撮れた。日高東磨が生まれた街の海を見たくて初めて来たけどここも綺麗な水平線だった。大丈夫、楽しい、今日はちゃんと笑えている。
7月11日 日高東磨と初めてボーリングに訪れた。両親はよくやっているようだがわたしには殆ど経験がないし、知っていると思うがドが付くほどの運動音痴だ。案の定惨敗した、悔しい。
7月12日 昨日の雪辱と放課後再びボーリングに誘った。昨夜、家で動画などを参考にしたが直ぐに上達するわけでもなく惨敗。かなり悔しい。
7月14日 昨晩、パパに頼みボーリング練習に付き合ってもらった。今日はその成果だろうかーゲームだけだが初めて勝てた。しかし四日連続で腕はパンパンだ。
7月16日 柚絵から誘いを受け夏休みにキャンプへ行くことになった。当然日高東磨も誘った。全然気にしていなかったが彼はいつも誘われてばかりだと申し訳なさそうで、意を決したように次は海水浴に行こうと誘ってくれた。少し恥ずかしいが水着を買わなくてわ。
7月21日 キャンプ当日。考えてみれば異性と泊まりで遊ぶなど生まれて初めてのことだ。もちろん家族には女子会だと伏せているが。夜、日高東磨と二人になるタイミングがありそこで彼から告白される。嬉しかった。本間リサ、飯田柚絵、安田和也、村山悠士、大切な友人からの手荒い祝福も本当に嬉しかった。
7月28日 付き合い始めてからの初デートは皆生ビーチで海水浴だ。更衣室から出ると日高東磨は明らかに健全でいやらしい男子高生の反応を見せたので少し懲らしめてから初めて手を繋いだ。それにしても水着には自信がない。この胸もリサや柚絵のようにもう少しどうにかならないだろうか。
8月8日 夜に電話をかけ日高東磨と話をした。とくに用があったわけではなが、話の流れで彼の課題が遅れていることを知り翌日図書館で勉強を見ることにした。
熱帯夜の影響か今夜は少し身体がダルい。
8月9日 それにしても日高東磨は何故こんなに待ち合わせ時間を無視するのだろう?約束より三十分前は当たり前のようだ。そこが彼の良いとことなのかもしれないのだが。それからもう一つ気づいたが彼は集中すればきっと勉学に向いた才能を持っている、私が言うのだから間違いない。がんばれ!
8月12日 島根に在る父の生家でお盆を過ごしている。夜、祖父母たちと送り火をした後、日高東磨から電話がかかってきて来週の花火大会へ誘われた。彼に課題もちゃんとやると約束させ見に行くことになった。
8月14日 体調が優れず一週間ほど検査入院することになった。夏休み中でよかった、彼や友人らには知られたくない。
8月22日 花火大会。日高東磨から来年も来ようと約束をされた。何とか取り繕おうとしたが無理だった。涙が、感情が抑えられなかった。初めてのキスは苦しくて切なくて涙味だった。
8月30日 始業式。花火大会から日高東磨に距離を置かれている。彼の友人たちもそれを察してか冷やかしたりはしていないようだ。
9月6日 朝のLINEは続けている。放課後待ち合わせて一緒に下校した。話したいことは沢山あるはずなのに会話がない。申し訳ない気持ちでいっぱいいっぱいだった。
9月10日 今日も一緒に下校したが殆ど会話がない。挫けそうになるけどしっかりしろ、わたし!
9月14日 この日も会話のない放課後だった。こうなる前は日高東磨はどんな顔してどんな口調で話しかけてくれていたか思い出せなくなる。
9月24日 日付が飛んだのはそれくらい記すことがないから。放課後、下駄箱で日高東磨が現れるのを待ち伏せた。校門を出たところでテストに向けまた勉強を手伝えないか話しかけてみたがやんわり断られた。
10月4日 テストの結果が出た。日高東磨は駄目だったようだ。用があるから暫く一緒に帰れない、と嘘が下手くそ過ぎるLINEを寄越してくる。今は何も気づかない彼女を演じようと思う。
10月12日 放課後、渡り廊下でこちらへ向かって来る日高東磨と鉢合わせしそうになり慌てて隠れた。彼が何も言ってこないのだから補習室へ向かうところも見られたくないだろう。久しぶりに見たような気がする彼の横顔は、何処か入学して間もない頃の表情が少ない彼を思い出させる。
10月22日 彼の補習は終わっているはずなのに放課後一緒に帰ることもなくなった。めげずに朝のLINEだけは続けているがこれも途切れたら繋がりが全くなくなってしまう。辛いだろうがどうかLINEだけは必ず続けてほしい。
10月25日 同じクラスの高山という男子と職員室前で会い彼も南棟へ用があるらしく一緒に渡り廊下へ向かった。何か話したが内容はよく覚えていない。渡り廊下を進むと前方からノートを抱えた日高東磨が現れたからだ。何か話そうと近ずいたが高山が待っていると拒まれた。流石に凹んだ。
11月8日 放課後、リサに呼ばれいつものファストフード店に着くと柚絵、安田和也、村山悠士の姿もあった。迫るわたしの誕生日に向け作戦会議をすると言う。もちろん狙いは日高東磨を動かすことのようで、わたしは泣きそうになった。本当に友人に恵まれた。
11月11日 放課後、リサと柚絵、村山悠士に連れ出され湊山公園へやって来た。あの日以来で公園の雰囲気もまるで違うように感じだ。暫く話をしていると村山悠士の電話が鳴り話終えるともう直ぐ日高東磨が来ると伝えてくれ三人は去っていった。日高東磨は沢山謝ってくれた、本当に謝らければならないのはわたしの方なのに。誕生日プレゼントに優しいキスをくれた。
11月12日 前日、日高東磨と別れてからリサ、柚絵、安田和也、村山悠士に上手くいったことを報告し感謝を伝えた。そのせいか登校するなりリサと柚絵から何があったのか、何処までしたのか、など卑猥も含んだような質問責めにあった。まぁ仕方がない、自分で撒いた種だし彼女たちには暫く頭が上がりそうもない。
11月14日 久しぶりにデートを楽しんだ。ボーリングへ行きーゲーム勝てた時にご褒美だと言いながら綺麗にラッピングされた小さな箱を渡された。開けてみると桜の花を型どったチャームのネックレスだった。実はご褒美ではないと直ぐに撤回して本当は誕生日プレゼントだと照れながら言い直してきた。嬉し過ぎて涙が出たのを隠すように彼に飛びついた。
11月15日 生徒手帳に書かれた学校規則を調べてみたが原則アクセサリー類の着用は校内では禁止されている。裏を返せば持ち込みは禁止されていないし敷地の外に出れば自由だと彼に説明すると首元は見えないでしょ?と気楽なものだったが、わたし的にはそれでも駄目なのだ。
11月16日 放課後、日高東磨はヘトヘトに疲れていた。何やら日中、校内は自分たちの事で小さな騒ぎになっているようだ。後で聞いたが彼の教室の前には彼見たさの人集りが出来る程のようだ。
11月23日 今日は午後から日高東磨の地元で遊んだ。初めて来るボーリング場だ。最近では三ゲーム中ーゲームは勝てるようになった。が、彼は負けてもあまり悔しがらない。全く…無欲な男だ。
11月30日 下駄箱で待ち合わせ校門へ出ると驚いた。坂道の桜並木に電飾が施されていた。暫くはただの帰り道も特別なものに感じれるかもしれない。イルミネーションのせいなのだと自分に言い訳して彼の手を取り歩いた。
12月1日 放課後、歩きながら旧暦の呼称の話をした。わたしは昔から特に12月の別称"春待月"が好きだと伝えると格好良いと褒めてくれた。自分でも悪い癖だとわかりながら得意げに雑学を話してしまっても彼は真剣に最後まで聞いてくれる。
12月8日 放課後、ボーイング場へ寄った。調子が良く三ゲーム中二ゲームを取れた、初めての勝ち越しだ。校則違反ではあるが制服のスカートを気持ち短くして臨んでみたのは絶対に内緒だ。
12月16日 クリスマスをどうするか聞いて予定は空けていることだけ伝えた。わたしは家族としか過ごしたことがないから正直わからないので日高東磨に丸投げしてみようと思う。これは女の子の特権だ。
12月20日 放課後、24日の進捗はどんな感じか探りを入れる為にもクリスマス雑学を披露した。流石に話の内容が退屈だったかと思ったらまさかの想定外で24日の昼に彼の家での食事に招待されてしまった。彼は軽いノリだからと言っていたが何か隠していそうだ。全く…どうするんだよおぉぉ!!
12月23日 明日から冬休み、そして彼のご実家訪問前日、緊張している。終業式後に明日持参する手土産を彼と選びに行った。そんなの必要ないよと言ってくる彼に"そんなわけあるかっ!!"と突っ込んだ。全く…人の気も知らないで。でも嬉しいこともあった。彼の提案でお互いのマフラーを選び交換した。結局、色違いのお揃いになってしまったが。
12月24日 緊張した。結局彼の父親には会えなかったけど、お母さんも南未ちゃんもとても良い人だった。南未ちゃんとはLINEも交換出来たし次は二人で遊ぶ約束もした。勇気を出して会いに行って本当によかった。それにしても何あの御屋敷!彼の実家があんなに立派だなんて聞いてなかったよー!
12月28日 南未ちゃんから大晦日の夜に日高家で初日の出を見に行くのに誘われた。日高東磨には内緒で当日驚かす計画らしい、そういうのは大好き。彼の驚く顔を見るのが楽しみ。
12月31日 何とかこの日まで来られた。車のドアを開けた時の彼の表情は一生忘れないだろう。最後の最後まで本当に笑わせてくれる、本当にありがとう。来年も最後まで宜しくお願いします。車中で仮眠をした時、二人きりではなかったけどあなたを意識してしまい全く眠れませんでした。
1月7日 始業式。たった一週間ぶりなのに体育館で少し見かけてとても嬉しかったしドキドキした。これは完全に恋する乙女症候群のようだ。今の自分は結構好きだ。
1月11日 授業初めでいきなり小テストがあったと帰り道に日高東磨が嘆いてくる。口ではそう言いながらも私のことを理解してくれる、それが何より嬉しい言葉だ。
1月12日 放課後、中間テストに向けJBで勉強会を始めることにした。彼にはまだ内緒だが目標は普通科の上位30人に彼の名前を列ねること。
1月13日 今日は古文と英語の課題を手伝った。が、殆ど教えることはなった。これまた新発見だが文系科目だけなら特進クラスに混ざっても遜色はなさそうだ。
1月14日 三日連続でJB。しかも毎回同じ席だったので勝手にこの席を自分たちの指定席とした。今日は物理と数学。明らかに昨日と比べ出来が悪い。特に数学は相当の努力が要りそう。がんばれ!
1月16日 久々のデートだ、二人きりなのはクリスマス以来だった。デートイコールボーイングみたいになってきたが楽しいから良い。今日も三ゲーム中二ゲーム連取、三連勝も遠くないかも?
1月17日 昨夜から発熱してしまい入院することになった。この日から三日間殆ど意識がなかったらしい。
1月21日 久しぶりにスマホを触れるくらい体が動いてくれる。確認すると沢山のメッセージが入っていた。日高東磨に一番に返すと直ぐに返信があり驚いた。きっとスマホから片時も離れず待っていてくれたんだと思う。メッセージの内容も如何にも心配してない風で、それが少し痛くて少し嬉しかった。リサや柚絵にも心配をかけた、もう少しだけわたしの我がままに付き合ってほしい。
1月26日 退院した。学校へは来週復帰予定でもう少し療養に努めようと思う。入院してからは日高東磨の方からおはようLINEが届くようになった。
2月1日 先週行われた中間テストの結果が発表され日高東磨が普通科で12位だった。自分のこと以上に嬉しくて校内で抱きついてしまった。その勢いのまま次の休みに彼を両親に紹介する約束もした。
2月6日 今日はとても素敵な日だった。登場からガチガチに緊張し滅茶苦茶だけど必死に敬語を使おうとする日高東磨はとても愛らしかった。パパもママも彼を気に入ってくれたようだ。ボーイングもこれが最後になるだろう、最高の笑顔で楽しんだ。 最終成績九勝十六敗、勝率三十六パーセント
2月12日 ママに頼んでチョコレートの材料を揃えてもらった。去年まではパパの分だけだったのに今年はもう一人分あるのねと作りながらママが泣きだした。もしチョコレートがしょっぱかったらママのせいだからね。
2月13日 昼過ぎに日高東磨と米子駅から彼の地元へ向かう。電車待ちをしていると何かがぶつかってきて線路へ落ちそうになる。咄嗟に彼が飛び込みわたしを突き飛ばして線路へ落ちた。通過する貨物列車のブレーキ音と人々の悲鳴が脳裏から離れない。
2月17日 日高東磨の葬儀にわたしは参列出来なかった。もう人と関われなかった。どうかあなたはわたしのような後悔をしないでほしい。
端的に起こった事実と、それに対する所感や対応策といった形でここに記す。
一度読んだだけでは理解が全く追いつかなかった。
これは彼女が書いたものなのか?言葉選びや文法、表現にも違和感しか感じられない。
ページを更に捲るとまだ続きがあることに気がついた。
日高東磨くんへ