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最終話です。

 昔昔の話。その村には幼いながらも器量の大変良い娘が居た。

 娘には姉もいたが、その姉とは比べ物にならない位の器量持ち。

  

 ある日、隣村の豪商の子息の嫁にどうかという話が来た。祝言はまだもう少し先になるだろうが、是非ともという話だった。

 娘の家族は大喜びだった。


 しかし、その後悲しい事故が起こる。

 

 薪割りの手伝い中に誤って娘の左手が切り落とされてしまったのだ。奇跡的に一命は取り留めたものの嫁入りの話は流れた。

 それだけではなく、器量良しの娘が一転、塞ぎ込んだ娘は家から出てくる事がなくなり、穀潰しと言われるお荷物扱いになってしまった。


 それから2年の月日が流れた頃、娘の姉は件の豪商の子息に嫁いだ。


 その時娘は随分と恨み言を言ったという。


 更にその夏。

 その村は極端な冷夏を迎えた。当然農作物は育たず、このままでは酷い飢饉となることは目に見えてわかった。

 

 『蝉引き=線引き』


 それはこの村の悪習の一つだ。蝉が鳴かなくなるほどの冷夏に行われるもので、村の食い扶持を減らすために人を間引くというもの。

 蝉引きの行われる日は各家の前に線を引き、間引かれる者は家の外の線の向こうに出される。


 少女はその日、騙されて外に出された。もちろん間引かれる為だった。


 外に出ると優しい村の人々にこう言われた。


『かくれんぼをするんだよ』


 隠れるとは村から隠す……つまり命を奪うという意味だったが、そんな事は娘が知る由もない。


 そうして連れ出された娘は……あの八重咲地蔵の場所で命を奪われたのである。


 娘が蝉引きの犠牲になった次の年から毎年のように、村の子供が行方不明になるようになった。しかも決まって夏の日に。

 ある年の夏、娘の姉の子供が行方不明になった。たまたま村に遊びに来ていたときに消えたという。


 姉は妹の最期の場所に行き泣いて侘びたという。


 その夜、娘の姉とその子供が無事に帰ってきたが、姉の左手の手首から先は無くなっていた。


 姉はその時に自白したそうだ。


 娘の手を切り落としたのは自分の仕業だと。友人に頼んで、事故に見せかけてやったのだと。


 そのことを知った村人は娘を不憫がり、姉の嫁いだ豪商の家と協力して供養のために地蔵を建てた。

 その地蔵を供えた次の年の冬、地蔵の周りに真っ赤な八重椿が咲き乱れた。それを見た村人達は、その地蔵を『八重咲地蔵』と呼ぶようになったそうだ。ただ裏では悪習を例えて、八重咲=八つ裂き地蔵とも呼ぶ者もいたという。


 しかし、悲劇はそれで終わらなかった。その次の年もそのまた次の年もまた子供が消えた。

 どんなに親が子供から目を離さずにいたとしても、畑仕事の合間等に消えてしまう。

 

 そんな時、ある行方不明になった子供の母が娘の姉の話を思い出し、地蔵に自身の左手を差し出した。すると、その子供は無事に帰ってきた。

 その母親は家族に『八重咲地蔵に花を供えてくる』と言って家を出たそうだ。


 帰ってきた子供は、誰かと『かくれんぼ』をして遊んでいたら蝉の声が聞こえなくなったと、そして森へ迷い込んでしまったと言う。

 それにより村人達は、死んだ娘が蝉引きをしているのだと気づき、伝承を伝えるようになった。

 蝉の声が聞こえない場所は危ない、もし子供が消えたときは『八重咲地蔵に花を供える』ようにと。花を供えるとはつまり誰かの手を供えるという事だ。


 それから何度も供養を行ったが子供が消える事が完全に無くなることは無かった。村が町になってもそれは続き、今現在も進行中だ。


「……じゃあ……もしかしておじいちゃんが死んだのって……」


 青い顔をした由芽実が少し震えながら呟いた。


 ここは堀ヶ丘家のリビング。今は由芽実とその両親、彩月の4人でテーブルに座って話をしている最中だった。


「じいさんは蝉引きにいち早く気づいて自ら手を斧で切り落として、八重咲地蔵へと供えに行ったんだ……俺たちが気づきそこへ向かったときは出血多量で、もう……」

「私のせいで……おじいちゃんが……」

「由芽実がそう思うと思って……中々、蝉引きの話ができなかったのよ……ごめんね。でも、おじいちゃんはあなたを守りたかったの……だから、自分のせいだと言って自分を責めないで」

「……でも……」

「今回はばあさんも命を落とすことは無かった……もう10年も前の話だ……由芽実が助かったことの方が家にとっては重要だ」


 彩月が由芽実の話を聞いた後、昼休みの時に実家に連絡していたそうだ。もしかしたら、由芽実が蝉引きに合うかもしれないと。だから今回は事前に覚悟と準備ができていたという。

 祖母は老い先短い自分がと言い、由芽実が突然姿を消したと聞いた途端に躊躇なく左手を切り落としたらしい。その後すぐに病院に行き処置を受けた。

 左手は父が運んだとのことだ。


「……彩月は良く知ってたね」

「まぁね。中学に入って少ししてから話を聞いたんよ。……町の人は何人か義手だってことも聞いたから、そんなん友達と軽々しく話せるもんじゃないやん。この話を聞いた子は自分から話すって無いんじゃない?」

「そっか……え?義手の人いるん?!」

「いるよ。ただ気づかないだけ。で、事前に夢を見る子もいるって聞いてたから……慌てたよ本当に。もし自分が見たら絶対に言うように親から言われてたし」

  

 彩月は由芽実の見た夢でピンときたようだ。


「正直、お母さん達は由芽実が一度蝉引きにあって助かったから安心してたのよ……2度目なんてないって」

「そりゃそうだよね」

「それに、今は昔ほど蝉引きが起こってないからな……」

「少しずつ忘れられてきていたのよね」


 昔から、毎年の供養と八重咲地蔵の周りに注連縄しめなわで結界を張り仏と神を合わせてどうにかやり過ごしていたらしい。


「お地蔵様に注連縄?変なの」

「俺も良く知らん。江戸くらいまでは仏教も神道も今ほど別れてなかったらしいから、その習慣なんだろ」

「子供が消えるときは必ず災害や野生動物によって注連縄が切れたりしていたんだけど、最近は注連縄が切れることも殆ど無くなってたのよ。切れたとしても子供自体が少ないし、蝉引きが起こらないこともあったようだし」

「今回は切れてたの?」

「近くにイノシシの足跡があったんだ……多分そのせいだな」


 それで、10年ぶりに蝉引きが起こったというわけか。


「左手を供えた年はもう蝉引きはないらしいから、とりあえず安心やね」


 彩月が優しい表情で由芽実を見つめた。


「そうなんだ……でもどうして私が……」

「んー……もうこの町にいる子供って本当に少ないし……あとは……日菜ちゃんが呼んだんじゃないかな?」

「え?」

「良くあったんだって、消えた子供の仲良かった子が次の年に消えるって……さみしいからかな〜。わからんけどね」


 日菜と由芽実はとても仲が良かった。一人で連れて行かれた日菜が寂しがって由芽実を呼んでもおかしくないかもしれない。


「また……来年連れて行かれそうになったらどうしよう……」

「それは無いんじゃかな」

「そうなの?」

「大人は連れていけないみたいだからね……私たちもうすぐ17歳だよ?当時で言うともう完全に大人でしょ?」

「うん……」

「実は10代後半の子が連れて行かれた事例ってあんまり無いらしいんだよね……今回が初めてくらいかも。連れて行かれる心配の少なくなった頃にこの話をするみたいだし」

「そうなんだ……もっと早く教えればいいのに」

「昔、幼い子供に教えて面白半分で肝試しに行った数人が一気に消えたことがあったんだって……それからある程度理解と理性の働く年齢になってから教えることになったんだって」


 確かにやんちゃ盛りの小学生に教えれば危険かもしれない。


「彩月ちゃん本当にありがとう……さっ、今日の話はとりあえずここまでにして、あんたはゆっくり休んできなさい」


 そう言って母は由芽実の頭をポンポンと優しく撫でた。


「疲れたでしょ?」

「うん……そうする。ありがとう彩月」

「はいよ。じゃあまた明日ね!お邪魔しました!」


 彩月が家に帰り、由芽実は自室に向かった。

 ベットで横になるといつもの蝉の声が聞こえた。だが煩わしかったそれが今では聞こえることによって安心できる。

 気が抜けた由芽実は、昨日の疲れから気が付かぬうちに深い眠りに入っていたのだった。 




 あれから八重咲地蔵は再び供養され注連縄が張られた。

 もしかしたら日菜や他の連れて行かれた子どもたちは八重咲地蔵の下にいるのかも知れないが、祟りを恐れる町の人々はそこに手を加えることはできないだろう。


 そして、あの不思議な空間で、今もなおあの子達は存在し続けているのかもしれない。


「……日菜ちゃん……一人にさせてごめんね」


 蝉引きの後から、由芽実は時々八重咲地蔵に花を供えに来ている。もちろん左手ではなく、名称通りの生花だ。


「由芽実〜。もう行くよ〜」

「あ、うん!またね日菜ちゃん」


 付き添いは心配性な友達。


 ツクツクボゥーシ……ツクツクボゥーシ。


 蝉の声は熊蝉や油蝉とバトンタッチしたツクツクボウシがメインとなっている。

 もう夏も終わりだ。この夏が終わると共に、二度と蝉引きがおこならければ良いと思いつつ、由芽実は八重咲地蔵をあとにした。


 ジー……ジー。 


 八重咲地蔵の周りでは沢山の子どもたちがそれを見ていた。姿は誰にも見えないが、彼らはそこに居る。   


 あの女の人はもう大人側に入るのだろう。もう仲間には出来ない。大人は嘘つきだからだ。


 日菜は過ぎ去る由芽実を仄暗い目で見つめていた。もう、あれは友達でもなんでもない。ここに来られてもなんの感情もわかない。


 また来年夏が来る。この忌々しい注連縄は、来年解かれるだろうか……。


 子どもたちの中心にいる少女は花束のように両腕一杯に左手を抱え嗤う。


 次の標的は…………。


「キヒヒッ」

拙い文章を読んでいただきまして、ありがとうございました。

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