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ユーメミ・ガーチは婚約破棄したい

最近『結婚(婚約)から始まる恋物語』をいくつも読んだお陰で、書きたい欲が湧いてきました!

そして書き上がったのが『婚約破棄から始まる恋物語』でした。


……どうして変化球にしないと気が済まないのか……。


二話完結の短いコメディーですので、お気楽に楽しんでいただけたらありがたいです。

 胸が不安で押しつぶされそう……。

 殿方と二人でお話をする事……。

 生まれて初めてお父様の決めた事に逆らう事……。

 ……でも私の愛を貫くには必要な事なのだから、怖気おじけ付いている場合ではありませんわ!


「失礼いたします。ゴウホ・ライラック様がお見えです」

「……お通しして」

「かしこまりました」


 あぁ、声が震える。

 私は必死に膝の上で拳を握りしめる。


「失礼!」


 大きな声と共に部屋にゴウホ様が入ってくる。


「突然のお招きにも関わらず足を運んでくださり、ありがとうございます」


 立ち上がってお辞儀をする。

 顔を上げると、ゴウホ様のたくましい胸の辺りに視線が当たる。

 年は私の四つ上の十六と聞いているけど、並んで立つと親子のようだ。

 お顔へと視線を上げると、白い歯をむき出しにして豪快に笑っていた。

 少し、あの方に似ているような……。

 ……な、何を考えているのかしら私は!

 どんな殿方を見ても、あの人と似ている所を探してしまう……。


「なぁに。女性の頼みを無碍むげにしないのは、男の甲斐性ですからな! はっはっは!」

「……ありがとうございます。どうぞおかけになって」

「では失礼して」


 二人がけの椅子の真ん中に腰掛けると、まるで少し大きめな一人用の椅子みたい。

 お優しい方とは聞いているけれど、自然と感じる威圧感が身体を強張らせる。


「家の者に内密に、との事でしたが、何かありましたかな? ユーメミ嬢と私は婚約者の関係。人目をはばかる理由もないと思いますが?」

「あ、あの、その婚約者の件なのですが……」


 言わなきゃ!

 言うのよユーメミ!

 あの方への愛を貫くために!


「……こ、婚約を破棄していただけないでしょうか……?」

「何ぃ!?」


 身を乗り出すゴウホ様! 恐い! 恐い恐い恐い!


「な、なぜですか!? り、理由をお聞かせ願いたい!」

「あ、あの、その……」

「……おっと、これは失礼。恐がらせてしまいましたな」


 表情を緩め、座り直すゴウホ様。


「……この婚約はガーチ家と我がライラック家にとってとても重要な事はおわかりですな?」

「……はい……」

「それでも婚約を破棄したい、と」

「……はい……」


 ふむ、と腕を組むゴウホ様。

 わかってる。これは私のわがまま。

 でも、どうしても……!


「……他に想い人がおられるのですかな?」

「えっはっはい!」


 ゴウホ様の的を射た言葉に、思わず大きな声で答えてしまう!

 大声を出してしまったはしたなさと、正直に答えてしまった事への恥ずかしさで、顔がどんどん熱くなる!


「……そうでしたか。いやあ残念! ですがこのゴウホ、女性の恋路を邪魔するつもりはありません。男らしく身を引くとしましょう」

「えっ……」

「ご安心を。両家の関係も悪くならないように取り計いますので」

「……あ、ありがとうございます……!」

「な、涙は勘弁していただきたい。私が見たいのは貴女の笑顔です」


 そう言ってハンカチを差し出してくださるゴウホ様。

 ……あぁ、何てお優しい。

 あの方より先に出会っていたなら、きっとゴウホ様に心を捧げられたでしょうに。


「……もしお許しいただけるなら、ユーメミ嬢を射止めた幸運な男の名を教えていただけますか?」

「……はい」


 婚約者に想い人の名を告げるなんて、と一瞬ためらったけれど、私も誠意を見せるべきだ。

 おそらくご存知ないと思うけど……。


「あの、ロア・ラフターという方で……」

「まさか! 『笑顔の英雄』の主人公、ロア・ラフター殿ですか!?」


 え!? どうしてご存知なのかしら!

 どちらかと言えば子ども向けの物語なのに!


「あ、あの、どうして……?」

「いやお恥ずかしい。私は昔病弱でしてな。本だけが寂しさをまぎらわす唯一の友といった存在でした」


 わ、私と、同じ……?


「そんな中『笑顔の英雄』を読み、強く明るく、笑顔で人を助けるロア殿の強い姿に憧れ、身体を鍛えるようになったのです!」


 それでこんなにたくましい身体に……!


「細身の美丈夫たるロア殿とはだいぶ遠くなってしまいましたが、心根だけは彼と同じでありたいと思っているのです! ですからユーメミ嬢!」


 にかっと笑うゴウホ様。


「婚約破棄いたしましょう!」

「喜んで!」


 つられて私も笑った。


「両家にはタイミングを見て話すとして……。それまではしばらく婚約者のフリをお願いいたします。下手に知られると妨害されると思いますので」

「もちろんですわ! ぶしつけなお願いにも関わらず、ありがとうございます!」

「なぁに、ロア殿の事を語り合える同志と巡り会えたのです! 感謝しかありませんな! はっはっは!」


 あぁ、正直に話して良かった。

 ゴウホ殿が優しい方で良かった。

 これで「こんな子どもっぽい本、結婚したら捨てなさい」と言われていた『笑顔の英雄』と別れなくて済むわ。

 婚約破棄もしてくれて、ロア様への想いも理解していただける、なんてありがたいのかしら!


「ではせっかくです! ロア殿の一番格好いいと思う場面について語らうといたしましょう!」

「それはもちろん、姫を狙う悪党の前に颯爽と降り立ち、『姫をおびやかす悪党ども! 貴様らの正義はどこにある?』」

「『私の正義はここにある!』ですな!」

「きゃー! そうですそうです!」

「あの場面は百度は読みましたぞ!」


 ゴウホ様との語らいは、これまでに過ごした時間の何よりも楽しかった。

 ただ、何だろう。

 この何かを間違えてるような違和感は……。

読了ありがとうございます。


同担拒否だったらえらい事になってました。


ちなみに『笑顔の英雄』は、地味に悪い事をする悪党の前に高笑いと共に颯爽と現れ、懲らしめていく勧善懲悪ものです。

主人公ロア・ラフターは細身・長身・美丈夫でチート級に強い完璧超人です。

タ◯シード仮面様で想像してはいけない(戒め)。


さて二人の破棄する必要のなさそうな婚約破棄はうまくいくのか?

後編もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] 豪放磊落な紳士と夢見がちなお嬢さま。 おさまるべきところにおさまる道筋がびんびんに想像できて、最初からほっこりしますね。 この「ナチュラルにいちゃらぶ」なふたり、周囲もまさか婚約破棄を画策…
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