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第五話 What I can do when I am weak. What you can do for you

「どんどんかかっておいで!」


 私たちは今、四人がかりで一命先生と組み手を行っていた。とは言っても、互いの能力を理解して合わせるのが目的ではあるが。それにしても一命先生は強かった。基本的に私はサポート。能力を応用して、飛ばされた三人を受け止めるクッションを作り出したり、地形を新しく作ったりして、攻撃が当たるように手助けしている。三人はそれぞれで連携を取ってうまく攻めているはずなのだが、その攻撃は一度も先生のもとには届かなかった。さすがはSSランクといった感じだ。


「桧並、壁!」


 その声とともに、手で覆うようなジェスチャー。私は智君の意思を理解した。集中し、先生を中心に、巨大な石の球を作り出す。予想外だったみたいで、先生も反応できていなかった。うまく閉じ込めることに成功した。


「本気で行くぞ」


 三人で、その球体にそれぞれの最大火力をぶつける。智君は限界まで強化した蹴り、紅破君は純白の炎、九頭龍君は竜人化での一撃。それに合わせて、私も地形を作り替え、先生に打撃を加える。が、その全力の攻撃も、先生には届かなかった。効かなかったとか、弾かれたとかではなく、届かなかった。攻撃がすべて、先生の直前で止まっていた。正確には進んでいたが、永遠の距離があるように、届かなかった。


「はい、そこまで。どうだい。私は強かっただろう」


 私たち四人は疲れ切っていたが、一命先生はピンピンしていた。九頭龍君に休憩用のお茶を持ってくるように言った後、私たちに質問してきた。


「この中で、私の第六感(ウシオディス)が分かった観察能力高い子いるかしら」

「多分、空間操作能力だと思います。戦っている途中に、何度か智君たちの場所が入れ替わっていたように感じました。それに、私たちの攻撃と先生の間に、果てしない距離があるように感じたので。」


 そんな私の答えを聞いて、満足そうに先生は頷いた。


「大体正解。良く戦況が見えてるね、桧並ちゃん。正しく説明すると、空間を捻じ曲げ、作り出し、繋ぎ合わせる力だよ。位置が入れ替わっていたのは空間を捻じ曲げたから。攻撃が届かなかったのは私と攻撃の間に無限に近い距離の空間を作っていたから。これこそがわたしの第六感、神域(ガスポート)なのさ。応用で、怪我した時は『怪我をしていない体』という空間を作って繋ぐことで治せるよ」


 どや顔で一命先生はそう語った。話を聞いていると弱点が無いように感じる。それはみんなも同じみたいだ。


「そんなのこっちから攻撃当たらないじゃないですか。強すぎません?」


 紅破君が口を尖らせてそう言った。それに対し智君は考えているみたい。


「無い。と言いたいけれど弱点も無いわけではないよ。まぁ考えてみなさいな」


 まぁそれはそうだ、自分の弱点をわざわざ教える意味がない。


「話聞いてる感じだと無限ではないみたいだから、そのうち届くんじゃないかな」

「いや脳筋すぎるでしょ」


 ぽつりと智君がこぼした一言に、私は思わずツッコミを入れた。確かに言う通りではあるが、無限に近い距離を届かせるなんて無理だろう。智君はまた考え込んでしまった。一瞬、道場を静寂の帳が包んだ。静寂を破ったのは、壁を突き破る音と一緒に吹き飛んできた九頭龍君だった。


「邪魔するぜ」


 そう言って道場に入ってきたのは、サングラスにスーツを着た男が四人。見るからにヤクザと言った風貌だ。でも私はその四人の後ろに立つ、小柄な人が気になって仕方が無かった。真っ黒なローブのようなものを身に纏い、フードを深くかぶっていて顔は見えない。でもその小さな体からあふれる超力の大きさは、信じられないほど大きかった。下手すれば一命先生と同等なのではないか、そう思わせるほど。


「なんの用かな。うちの道場、また潰そうとしてるのかな」


 九頭龍君を治療しながら、先生が先頭の男に聞いた。


「そうだな。未だにこの町で道場を開く条件を満たしていないくせに開き続けているのはここだけだ」


 にやりと先生が笑った。


「条件ってなんだっけ? どうでも良すぎて忘れちゃったなぁ」


 明らかに挑発している。そんな分かりやすい挑発に、その男は乗った。


「何度も言ってるだろうが、門下生と師範合わせて五人以上、なおかつ俺たちと戦って勝つ、それが条件だ」


 イライラが伝わってくる。


「勝てば、ここに手出しはしないね。今ちょうど五人いる。やろうじゃないか」


 条件を私たちにわかるように自然に聞き出してくれたのだろうか。とりあえず、戦うしかないみたいだ。


「そういう条件だからな。ルールは簡単。今から仮想空間を展開する。全員は完全にランダムで作られた一つの迷宮に送られる。その迷宮には二つの旗がある。黒と白。俺たちは黒、お前たちは白。その旗をそれぞれ守る、というものだ。先に相手の旗を奪ったほうの勝ちだ」


 なんだろう、ヤクザの持ってきたルールにしては……


「意外と楽しそうなルールでやるんだね」


 そう言ったのは智君。全面的に賛同できた。九頭龍君も復活したみたいだ。


「始めようか、みんな、修行だと思ってぶっ飛ばしちゃいな」


 一命先生がそう言った直後、私たちはバラバラに、どこかへ飛ばされた。

 今私はとってもどうしようか迷っていた。私が飛ばされた先は、巨大な、真っ白な旗の前。つまり相手の目標の目の前である。


「ここから離れないほうが良いのかな……」


 どうすれば良いだろうか。考えた。智君ならどうするか。それも考えた。考えたうえでの結論は、とりあえず周辺の探索をすることだった。あたりを散策して、相手の勝ちにつながるものを取り除く。智君ならそうするだろうと思った。実際ボードゲームだとそういう戦い方をされたことがある。私は旗のある部屋から出た。部屋の外には少し長い一本道があり、その先には少し広い部屋があった。そこからいくつかの道が分かれている。


「もしも戦うとしたらここで戦うべきだろうね……とりあえず罠でも作ってみようか」


 私に今できることはそれくらいだ。分かれ道が大部屋と合流するところにまず大岩を作る。それから大部屋に、自分の思いつく限りの罠を作って、設置した。踏んだら矢が飛び出る仕掛けとか、落とし穴といったものだ。仕上げに、さっき通ってきた道をすべて塞ぐ。これで完成。後は誰も来ないことを祈るだけだった。だがその祈りは通用しなかったみたいだ。

 大岩が一つ、どろりと溶けた。そこから現れたのは、あのローブを着た人だった。なんでよりによってこいつなのだろうか。


「あれ……あの白髪眼鏡の先生じゃないじゃん……つまんな」


 私もあなたと出会うのはつまらないですよ、と言葉にせず、心の中で吐き捨てた。できればこの人は嫌だった。超力の量からして、明らかに強い。それが分かっていたから。でも、下がるわけにはいかない。


「あのさぁ、力量の差っていうのが君と僕の間にはあるんだよ。そのくらい分かるよね。ごめんね、君と僕じゃ君に勝ち目がないのよ。だから戦うの諦めてほしいんだけど」


 否定できない。私じゃ太刀打ちできないのも分かっている。多分この人は戦闘を生業としているんじゃないだろうか。じゃないとヤクザについてきたりしないだろう。私とは戦闘経験も、超力も違う。


「……断ります。私が諦めると、負けちゃうので」


 怖い、怖いよ。でも智君ならこう言っただろう。もしかしたら自分は負けないから、なんて言ったかもだが。それを聞いた相手は、深くため息をついた。


「あーあ、残念。ここで戦っても殺せないのにな」


 その言葉で、部屋の空気が変わった。殺せない……つまり彼か彼女か分からないが、僕と言っていたから彼としよう。彼は私のことを殺したいということだ。正確には殺せればだれでもよさそうな感じだが。彼の体がぐらりと揺らいだ。私の後ろに立っている。冷や汗と震えが止まらない。彼が振り下ろそうとした右腕を、間一髪で躱す。彼の右腕はそのまま、罠の仕掛けに引っかかった。細いワイヤーに引っかかり、彼のもとに無数の矢が降った。しかしその無数の矢は、彼に届く前にバラバラになってしまった。


「君の能力こんなの? 罠を張る的な感じ? あんまりおもしろくないね」


 どうやら勘違いしてくれているみたいだ。そのまま勘違いしてくれればチャンスが生まれそうなのだが……


「逃げてばっかじゃつまんないよ。もっと攻めておいでよ」


 何を馬鹿なことを。私は今、強化した体でも、彼の攻撃を避けるので精一杯だ。彼の能力が分からない以上、うかつに攻められない。もっとも攻められるかと言われればNOと答えたいが。何度も彼の攻撃を躱すたびに罠にかけているのだが、投擲系の罠はすべて投擲物が分解されていた。例えば矢なら木の棒と黒曜石、石なら砂にといった感じだ。落とし穴などは踏んだ瞬間に飛ばれて落ちてくれない。


「生憎、こちらから攻める理由ないんですよ」


 攻める必要はない。ここで彼を足止めして、その間にみんなが旗を取ってくれればいいのだ。そんなことを考えている間にも彼は攻撃してくる。それを集中して躱す。


「また罠だろ?」


 彼はそう言った、でも彼の攻撃の先には何も仕掛けがない。罠を予測していた彼は、私の行動に少し判断が遅れた。私はガスマスクを作り、装着した。そして右手に作った球を地面に叩きつけた。催涙ガスを詰めた爆弾のようなものだ。足止めには十分だと判断した。同時に煙幕の効果もある。そのうちに、またできるだけ罠を新しく置きなおした。彼の動きをうかがっていた時、私の体が鈍い衝撃とともに浮かんだ。


「この程度で足止めになると思ったの?」


 私は追撃を避けられなかった。六発ほど、彼の拳が私を襲った。


「な……んで……」


 全く効果が無い。なぜか分からなかった。地に伏した私の体は起き上がらない。痛い。ただただ痛い。


「僕の第六感の前では無力ってことだよ。僕の力はね、ありとあらゆるものを分解するんだ。たとえそれがガスだったとしてもね。いやぁ驚いた。まさかこんな危ない物も作れるなんてね。」


 彼が不用心に、私に近づいてくる。反撃はないと思っているみたいだ。彼がめいいっぱい近づいて来た頃合いを見計らって、私は自分の体を、作り替えた地形で無理やり持ち上げた。それに気を取られた彼を、地形を作り拘束した。分解してくるが、負けじとこちらも作り続けた。視界がチカチカする。限界が近いだろうか。そんな考えは頭の片隅に投げ捨てた。何とか動く腕に、銃を作り出した。拘束されたままの彼の額に、銃口を突き付ける。撃てば勝ちだ。でも、でも……


「撃てないっ……」


 引き金を引くだけ。それなのに、私の指は震えて動かなかった。


「面白いと思ったのに。残念、やっぱり面白くない」


 彼の分解に、創造が追い付かない。彼の拘束が解け、私は吹き飛ばされた。彼は私にもう何もしないみたいだ。ゆっくりと、あの一本道へ足を向ける。這いつくばって、彼の足首を掴む。


「見逃してあげるから離しなよ」

「離さない……絶対離さない!」


 ここで離したら、私の役目を放棄することになる。それだけは、絶対にあってはならなかった。彼は何度も、私の足を踏みつける。皮膚も分解されていたりするのだろうか。腕がふやけ、水が滴ってくる。力もだんだんと抜けてきた。もはやここまでか……


「ごめん、みんな。私負けちゃった……」


 そう弱音を吐いた時、彼の体は大きく吹き飛んだ。何かに殴られたように。

 

「ここまでボロボロになっても諦めなかったんだ、ちゃんとここを死守してくれた。お前の勝ちだよ」


 優しい声。声の主は私の腕に触れた。暖かいぬくもりに私は包まれた。


「智君、お願い、私が弱いせいで、足止めしかできなかったよ……」


 無意識に、智君を頼ってしまった。私は弱い。


「そう悲観するなよ。桧並は最後までよく戦った。強いよ。後は任せろ」


 智君はそう言ってくれた。気休めかも、嘘かもしれない、でも強いって言ってくれた。それだけで、私は嬉しかった。限界が近いみたいだ。瞼が自然と下がってくる。


「私、役に立てたよね……」


 智君を信じ、私の意識は暗い中に沈んでいった。


「当たり前だ」


 最後に聞こえたのはその言葉だった。



どうも、モチベ上がり気味、和水ゆわらです。

二日連続の更新ですね。予定では小さな君と大きな僕。を進めるはずだったんですがね。どうしてこうなったんでしょうね。分からないです。

第五話 今回は全部通して桧並ちゃん視点でした。主人公っぽさ、出てましたかね。

次は第六話か、もう一つのほうでお会いしましょう、和水ゆわらでした。

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