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第三話 Reconciliation and new encounters

「起きて、智君。そろそろいけるでしょう。学校行くよ」


 大好きな声に起こされ、俺は目を覚ました。あの騒動から一週間。俺の中の超力(エナ)の奔流もある程度治まってきたようだし、桧並の言うことは至極正しい。なので俺は、一週間ほぼベッドの上で過ごしたせいで少しなまった体を起こし、学校へ行くことにした。いつものように、顔を洗い、桧並の作ってくれる朝ご飯を食べる。


「今日味濃ゆくない?」


 少し、味噌汁の味が濃ゆい気がした。


「そんなこと無いと思うよ。私はいつも通り作ったもの」


 そう桧並は答えた。なんだか味噌を溶かずにそのまま舐めたような味がしたのだが。気のせい、ということにして、俺は朝ご飯を食べきった。ごちそうさま。あらかた茶碗を片付け、学校の制服に着替える。まだ十数回も来ていない、きれいな制服に。準備が終わった後、少し時間があったので、俺たちはギターを弾いて時間を潰していた。十五分ほど経ち、そろそろ頃合いの時間になったので、俺たちは家を出た。


「「行ってきます。」」


 二人でそう大きく言って、学校へ向かう。夢露さんの楽器店の前を通ったが、今日は準備が大変みたいだ。俺たちはせっせと準備する夢露さんにはあえて声をかけず、そのまま、家の最寄り駅へと向かった。学校へは、最寄り駅から少し電車に揺られる必要がある。今の時刻は七時ちょうど。学校に行くには些か早すぎる時間だが、こうしないと満員電車に飲み込まれることになる。だから不快な気分にならないよう、俺が少し早く家を出るように彼女に提案したのだが、今俺は、非常に不快な気分だった。


「おはよう、紅破君」


 なぜさも当然のように紅破がいて、話しているのか分からなかった。


 「だから紅破君もちゃんと反省してるんだってば、智君仲良くしなよ」


 電車に揺られながら、俺の隣で桧並がそう言った。少し間を空けて、紅破も座っていた。何も喋らないが。反省しているいない以前に、俺はあいつの上から目線が気に食わないのだ。だからあまり仲良くしたくない。したくなかったのだが。


「本当にごめんなさい。俺、マジで反省してるんす。あの時、俺、自分が強いって、強ければ、立場が高けりゃいいって思ってたんっす。でも智さんに負けて、かっこ悪いって言われて、分かったんっす。あんなことして、どの立場で言うんだって話ですけど、仲良くしてくれないですか」


 信じられないほど、彼はしおれていた。しおれすぎて話し方もまるで舎弟みたいだ。あの時の威勢が嘘みたい。なんだか嫌いに思ってたのが馬鹿みたいに思えてきた。


「別に良いよ。でもその半端な敬語使わないでくれる? なんかお前のキャラと合ってなくて違和感すごいからさ」


 彼の行動はまだ若いから、若いゆえの過ちだろうと思う。それを許せないほど、俺は幼くない。なにせ中身は26歳なわけだし。


「仲良くなってよかたよかった。私はみんなが仲良くしてるの大好きだよ」


 桧並がそう言って笑った。


「えっと……じゃあ、よろしく、で良いのか?」


 少し苦手そうに紅破が言った。年相応というかなんというか。彼は不器用だが、根は決して悪い子じゃなさそうだ。


「よろしくね、紅破」


 俺と紅破の間に、多分友情が芽生えた瞬間だ。


 俺はなぜか、朝から保健室に連れてこられていた。


「なんで俺はここにいるのか教えてくれない?」


 隣に座る紅破に俺は聞いた。


「お前、あの騒動があったからちゃんとした能力、まだ登録してないだろ。だからそれの登録。この結果でクラス分けとか影響するからな」


 なるほどな。まぁこいつのせいというわけだ。


「ごめんごめん、時間取らせたのに悪いねぇ」


 白髪に赤い目(アルビノ)、目の下に濃ゆい隈を蓄えた、銀縁メガネの女性。保健室の先生なのにめちゃくちゃ不健康そうだ。あの時俺の能力覚醒を手伝ってくれた人と同一人物とは思えない。


「保健室の先生、名前は相初一命(あいはつかずみ)先生」


 その紹介を遮るように、一命先生はしゃべりだした。


「それじゃ、なんか桧並ちゃんが言うには能力が変質したんでしょ? 詳しく教えて欲しいわ」


 目を輝かせ、先生がそう言った。


「あ、はい。えっとですね、最初は身体能力強化だけだったはずなんです。でも、あの日の傷は、すぐにきれいに塞がって、人の傷も治せるんですよ。でも、うまく制御できてなくて、能力が漏れ出してる感じです」


 端的に説明した。ふむふむと、何かメモを取っているようだった。


「えーっと……浅短智くんだったかな。君の能力はランクB+。多分身体能力強化と自己&周辺治癒能力ね。能力名は……君、好きな数字は?」


 好きな数字……? それがなにか関係あるのだろうか。とりあえず、0と答えた。


「0か、いいねぇ君。君の能力名は、愚者(アレフ)。クラス分けだと、一年七組。紅破くんや桧並ちゃんと一緒にしてあげるね」


 少しありがたい気遣いではある。それと同時にこんな適当で良いのかとも思ったが、一命先生の言葉は、不思議と信用できた。


「それじゃあ、なんか困ったことあったらいつでもここおいで。保健室は心の病気もあつかってるからね」


 一命先生に見送られ、俺たちは保健室を後にした。


 午前中の授業を終え、屋上で俺たち三人は昼食を食べていた。


「お前もランク戦解禁されてるんだよな。変な奴に気をつけろよ」


 紅破にそう言われ、俺はきょとんとしていた。ランク戦ってなんだっけ。


「智くんランク戦分かってないでしょ。教えてあげるね」


 スマホを出すように桧並に言われ、俺はポケットからスマホを取り出した。見慣れないアプリがいつの間にか入っている。


「これがこの学校の生徒の証。生徒手帳みたいなのと思えばいいよ。それでさ、そのアプリ開いてみて」


 アプリを開くと、そこには能力者ランクC 4000と数字が表示されていた。

 

「これが今の智くんのポイント。能力のランクで初期ポイントが分かれてて、Fが200、Eが400、Dが800、Cが1600、Bが3200、B+が4000、Aが6000、A+が7000、Sが8000、SSが10000だったかな。そのポイントをかけて戦うの。そして10000を越えるたびに、能力者ランクってのが上がるの」


 桧並が自信満々に説明する。高校生の時、一回聞いたことあるはずだが、なんにも覚えていなかった。


「補足な。ランク戦は授業の間の休み時間と放課後のみ。ただし授業中に食い込んだりしてもべつにペナルティとかは無いぞ。それと能力ランクに二つ以上差がある場合。例えばAとBなら、低いほうが高いほうの能力者ランクと同じじゃなきゃいけないってきまりがある。つっても能力ランクが勝敗を左右しないことも結構あるらしいけどな」


 なるほどな。つまり休み時間の今だとけっこうランク戦してたりするのかな。


 「おい、お前が浅短智だな?」


 屋上への入り口から声がした。誰かと思ったが、全く心当たりがない。少しガタイの良い、体育会系の雰囲気をまとう男子生徒。取り巻きのような生徒が二人ついてきていた。


「えーっと……誰です?」


 本当に分からない。


「俺は一年六組、九頭龍昇(くずりゅうのぼる)だ。能力覚醒して初日に、あの天才と相打ちになったやつがいるらしいじゃないか。そいつがどんな奴かと気になってな」


 なるほどな、結構あの騒動は話題になっているらしい。それは構わないのだが……


「しかしどんなバケモンみてえなやつかと思えばこんな女みてえな奴なんすねぇ」

「こんな奴、九頭龍さんの敵じゃないっすよ」


 取り巻きがうるさい。その二人を九頭龍君が一喝して治めた。


「うるせぇぞお前ら、気にしてたらどうすんだ……すまない、うちの奴らが」


 とりあえず、九頭龍君は良い人なんだろうな。兄貴肌って感じだ。


「それでだな、実はお前とランク戦をやってみたくてな。俺は能力ランクA、能力者ランクCなんだが、できるか?」


 条件的には問題ない。しかし俺はまともな動きはできるか分からない。ただランク戦をやってみたい気持ちもある。


「良いけど、俺は戦闘初心者だから、まともな動きはできるか分かんないよ。それでいいならやろう」


 それで構わない、と九頭龍君は快く承諾してくれた。1000ポイントを懸け、初のランク戦開始だ。


『九頭龍昇、浅短智のランク戦を開始します。仮想空間、展開』


 スマホからアナウンスが流れ、周囲が淡い青色の壁に囲まれた。これがランク戦か。


「よろしく頼むぞ、浅短智」


 大気が震えた。かなり怖い。少し足が震える。なんだか圧力が半端じゃない。


「よろしくお願いします」

 

 落ち着いて自分の能力を、休んでいる間に理解してみようと思った。その結果分かったことがあった。まず俺の身体強化は、無条件に強化ではないということ。具体的に言えば、全身の強化量の上限を100とすれば、腕に50、足に50強化、といったように、全身であわせて100になるように強化しなければならない。次に回復についてだが、原理はよく分からない。ただ無機物にも効果があることくらいしか分かっていない。

 ひとまず戦いにおいて、攻撃を受けてはいけないだろうと考えた俺は、動体視力に15、脚力に80、残りを全身の耐久強化に回した。九頭龍君の出方をうかがう。


「避けろよ、じゃないと一発で終わっちまう」


 九頭龍君の腕が、鱗に覆われていた。鉤爪と、手首に小さな翼。竜のようだ。一瞬で距離を詰められ、腕が眼前に迫る。腕が俺の頭部を穿つ直前に、俺は飛びのいた。速いうえに、多分当たれば痛いじゃすまないだろう。一発で終わる、は誇張ではないみたいだ。そこから間髪入れずに、怒涛の連撃が俺へ飛んでくる。俺は必死でよけながら、連撃の合間、体勢を崩した瞬間を狙い、強化した脚力で蹴りをしっかり命中させていた。しかし……


「あんまり効いてないっぽいかな……」


 蹴られる瞬間に、九頭龍君はそこに鱗を纏って、ダメージを減らしている。これ以上こちらからのダメージの強化は期待できない。持久戦といった感じだ。回復はできるが、どこまでなら治せるかが分からない。故に持久戦は避けたかった。しかしそれを避けたいのはむこうも同じようだ。


「俺には長い戦いはできないからな。すぐに終わらせるぞ」


 九頭龍君の全身が、真っ黒な鱗に覆われた。背中に大きな翼が生え、頭部には二本一対の角。ファンタジーでたまに見る、竜人に姿を変えた。


「加減はできないからな」


 先ほどよりもはるかにドスの効いた、低い声。能力者として、ではなく、種としての恐怖が俺を支配していた。さっきまでよりもはるかに速い速度で、九頭龍君の拳が、俺に迫ってくる。俺は躱すので精一杯だった。たった数十秒の攻防。その間に、俺には的確にダメージが溜まっていた。回復できるとはいえ、それを治すのにも超力(エナ)を使う。


「これは俺の負けかな……」


 そう口からこぼれた瞬間に、九頭龍君の攻撃が俺の頭を揺らした。体が派手に吹き飛ぶ。攻撃が命中した瞬間に、俺の眼鏡はどこかへ飛んで行ってしまった。地面に落ちた体を起こした時、俺の傷はすべて消えていた。それを見た九頭龍君は、一瞬驚いたようだったが、すぐにまた攻撃を再開した。

 明らかにさっきよりも強化できる量が増えているのを感じた。九頭龍君の連撃が、とても遅く見えるし、こちらからの攻撃も、さっきよりも断然通っているように思えた。


「浅短、お前強いな」


 九頭龍君が口元に笑みを浮かべた。そこからさらに加速し、連撃が加えられる。俺はその連撃を防ぐために、思わず腕で攻撃をはじいた。


「ぐぁっ……」


 九頭龍君が崩れ落ちた。さっき俺がはじいた右足が、膝の少し上のあたりから、劣化したロープのように千切れていた。


「俺の負け、だな」


 九頭龍君は戦意を無くしたみたいだ。竜人化を解いた。俺もこれ以上彼を傷つけるつもりはなかった。


『九頭龍昇、浅短智のランク戦を終了します。勝者、浅短智。ポイントが移動します』


 壁が消え、九頭龍君の足が元に戻った。俺のメガネも、いつの間にか顔に戻ってきた。


「ありがとう。浅短智。あんだけボコボコにしたのに立ち上がってくると思わなかったぞ……」


 授業の予鈴がなり、俺たちは解散、それぞれの教室に戻った。


 九頭龍君との戦闘、午後の授業を終え、俺たち三人は駅のホームで、電車を待っていた。


「智、お前すげえな。あの九頭龍に勝てるとかさ」


 紅破がそう言った。俺は一回目の高校生活の時の記憶には、九頭龍君は居ない。


「そんなにあの人強いの?」


 桧並が紅破に聞いた。


「強いよ。あいつは俺と同じで、生まれつき能力を持ってるタイプだ。それでな、中学校の頃は、『凶竜』っていう通り名があったくらいらしいぞ」


 そんなことを俺は聞き流しながら、悩んでいた。なぜあの時、俺がはじいただけで九頭龍君の足がはじけ飛んだのか。それが分からなかった。


「智君? どうかしたの?」


 桧並が心配そうに顔を覗き込んできた。


「ごめん、なんでもない。少し飲み物買ってくる」


 一人で、少し遠くの自販機のもとへ歩いた。お金を入れ、コーヒーのボタンを押す。どうしても、あの事が頭から離れない。考えられるのは、あのメガネが外れたことがトリガーだ。能力が変質しない。これを前提に考えると、身体強化がかかりすぎたか、と思ったが、あの時は特に最初から変えていない。腕にはほぼ攻撃強化はしていない。だからありえない。となると回復の暴走といった感じか。回復のし過ぎで足が耐えられなくなった……と考えることにした。


「あの……コーヒー、いらないんですか?」


 後ろから声をかけられた。透き通った、静かな声。振り返ると、少し背の高い、肌の白い、蒼髪の少女が立っていた。


「あ、ごめんなさい」


 俺は邪魔になっていただろうなと思い、一言謝罪した。彼女は俺の買ったコーヒーを取り出し、渡してきた。なんだろう。普通に、美少女という感じだ。


「同じ学校の生徒ですね。私は一年一組、八波瑞花(やつなみ ずいか)です。学校であったら、お話しましょう」


 八波、その名前を聞いて俺は返す言葉を見つけられなかった。


「智君、電車来ちゃうよ」


 そう桧並に呼ばれ、俺は二人のもとへ戻った。ただの同姓というだけ。そう思い、俺は電車に乗り込んだ。

 




はいこんばんわ和水ゆわらです!最近体調崩したりなんやかんや忙しくて投稿が遅れてしまいました。少しお久しぶりです。

愚者名乗る勇者、第三話どうでしたか。紅破君の仲間入り、九頭龍君との戦闘、八波と名乗る少女との出会い。いろいろ入れました。

第四話、お楽しみに~

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まず、第2話が長いように思います。 第1話の死に戻りしたオチと、お母さんの能力~覚醒施設のオチで1話と2話に分けた方がいいと思います。 また、基本的な文法事項に注意です。 。」は禁止、…
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