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第二話 Commandments to stupidity

 さっきまでベッドに寝転がり、考え事をしていたはずの俺は気が付くと、リビングのテーブルに座らされていた。桧並も同様に。


「……お母さん、また能力使ったでしょ。びっくりするからやめてほしいんだけど」


 これは桧並のお母さんの第六感(ウシオディス)だ。あるものと、もう一つのものの場所を入れ替える。名前は何だったか。聞いていないかもしれない。


「そうよ。これこそ私の能力、物体流転(コーパスワップ)よ」


 桧並のお母さん(お母さん)が、どや顔でそう言った。夕飯の準備を済ませて、呼ぶのが面倒くさくなり、入れ替えたといった感じだ。夕飯を食べながら、今日の学校の話や、明日あることの話をしていた。


「あなた達、明日で能力分かるんでしょ?楽しみね、どんな感じかしら。まぁ、二人共私の自慢の子供だもの、きっと良い能力が目覚めるわよ」


 そう励ましてくれた。かなり自信がついた。

 夕飯を食べ終え、部屋へと戻った。しかし、やることがない。俺の部屋には、暇をつぶすようなものはあまりなかった。思い出してみれば、暇な時間はほとんど桧並の部屋で話したり、ギターを弾いたりしていた覚えがある。隣の部屋のドアをノックする。


「桧並、入っても良い?ギターとか少し合わせてみたいんだけど」


 部屋からは、少し間をおいて返事が聞こえた。


「良いよ、一緒にギター弾こう」


 久しぶりに、桧並の部屋に入った。少しいい匂いがする。二人で座り、一緒にギターを弾く彼女がベース、俺はメロディライン。その時間が、すごく楽しい。一曲弾き終えたあたりで、桧並の電話が鳴った。


「もしもし……はい、古原桧並で間違いないですけれど……あ、はい、智君も居ます」


 俺の名前が聞こえて、何だろうと思った。すると桧並が、電話を差し出してきた。


「智君に代わって欲しいってさ。なんでも、第六感(ウシオディス)研究所の人かららしいんだけど」


 何だろうか。とりあえず電話を受け取った。


「もしもし、浅短智です。研究所の方が、何の用でしょうか」

『あぁ、もしもし。第六感(ウシオディス)研究所の八波です。申し訳ないですが、桧並さんに聞こえないよう、一人になってもらっても大丈夫ですか』


 本当に何なのだろう。桧並に説明し、自室へと一旦戻った。


「……今、一人です。なんの要件ですか」


 電話の向こうの声の雰囲気が、少し変わった。


『君は何をするつもりだい? 過去へとはるばる戻ってきて』


 背筋が凍てついた。なぜそれを知っているのだろうか。


『未来で、古原桧並を殺したのは私だ。君が死ぬように仕向けたのもね。だけれど……君はなぜか過去に来てしまった。実に面白い。君によって未来が変わるのではないかと思っているんだよ。だから私は、君たちをしばらく生かしておこうと思うのだよ。君たちが私の未来に邪魔だと思えば殺すけれどね。それじゃあ、学校生活楽しんで』


 聞き捨てならない、未来で桧並と俺を殺しただって? 聞きたいことが多すぎる。


「おい、待て、聞きたいことが……くそっ」


 電話は一方的に切れてしまった。どうやら俺は、やることがないなんか言ってられないみたいだ。桧並を狙う何かが居る。つまり俺は守らなければいけないってことだ。やるべきことができた。


「上等だ。絶対桧並は殺させない。絶対に」


 静かに、一人で自分に誓った。

 翌日。俺たちは学校ではなく、学校の近くの建物と向かった。今日は第六感(ウシオディス)覚醒のために、脳を活性化させる。ここはそのための建物だ。


「怖くない? 私、ちょっと怖いな」


 隣で桧並が少し怯えていた。確かに怖い。多分俺と桧並は怯えていることが違うだろうけれど。俺は能力が本当に覚醒するかが怖かった。建物の中に入ると、沢山のクラスメイト達が居た。長蛇の列を作り上げている。俺と桧並は分かれ、別の列にならんだ。


「次の方、どうぞ」


 けっこう長い時間待った結果、俺の順番が来た。頭部に謎の銀色の金属の輪を取り付ける。少しビリっとする。電気を流して、無理やり活性化させる。


「はい、終わりです。お疲れ様です。能力は……ランクC、身体能力強化ですね」


 ランクC。第六感には能力にランクがある。SSが一番上、Fが一番下。つまりCは……若干下だ。この能力で、桧並を守れるだろうか。とりあえず、この建物の少し端のベンチに座り、桧並を待った。能力が目覚めないよりもいいが、なんというか、ぱっとしない。


「智君、どうだった?私はAランクって言われたよ。なんか物を作れるみたい」


 隣に座った彼女の能力は変わらない。相変わらず優秀な能力だと思う。そして今日一番の問題はこの後だ。この後の出来事が、俺にとって忘れられないことの一つだった。

 建物内に爆音が響き、壁が砕けた。そこから入ってきたのは、俺たちの同級生。目つきの悪い目と、真っ青な髪が特徴的な奴。名前は、加苅 紅破(かがり くれは)。能力を覚醒させること無く、生まれ持った天才。性格は横暴で、俺はかなり苦手だった。そんな彼は、建物の中をぐるりと見渡すと、俺たちのほうへと歩み寄ってきた。そして。


「お前、古原桧並だったよな、可愛いから、お前俺の彼女になれ」


 そう言った。俺はこのことを忘れられなかった。結果も知っているのだが。


「ごめんなさい、私、あなたみたいな、周りのこと考えられない人、タイプじゃないの」


 そう言って、桧並はバッサリと切り捨てた。その回答を聞き、紅破は逆上した。右腕に蒼い炎を纏わせ、桧並を思い切り殴りつけた……というのを知っている俺は、紅破が炎を纏わせた瞬間に、彼の腹部に一発、蹴りを入れた。Cランクとはいえ、身体能力強化は馬鹿にできないかもしれない。不意打ちとはいえ、紅破は受け止めきれず、かなり後ろへ飛んだ。


「あ?誰だお前……思い出した。浅短智だな。女子みたいな顔してるからな、印象に残ってたぞ」


 上から目線。ムカつくが、これで彼の矛先は俺に向いた。


「振られたからって、そうやってキレんなよ。餓鬼かお前」


 少し挑発する。実際、俺からしたら10コ以上年下だが。でも挑発は効果あったみたいだ。明らかに怒っているのが目に見えて分かる。


「てめぇ、殺してやるよ。俺がこの学校で有名になる糧になれよ」


 問題は、今からこれをどう対処するかだ。少し考えたが、思いつかなかった。


「立場に縋り付いて、かっこ悪いぞ。だから振られるんだよ」


 そう言うと、彼との戦闘が始まった。


 一言で言うと、加苅紅破は天才だった。俺はただ、何もできずに、一方的に殴られ、蹴られていた。強化したはずの身体能力でも、全く追いつくことができない。


「おいおい、強そうなのは威勢だけか。お前、弱すぎるぞ」


 その通りだと思う。確かこの時期は、少しだけ体を鍛えようとして、筋トレを初めて一か月くらい経った頃だったはず。その程度で、紅破に勝てるなどとは思っていなかった。でも、引き下がりたく無かった。

何度蹴られようが、殴られようが。あばらが折れ、血を吐きだそうが、目を殴られ、物が二重に見えようが、絶対に。


「ゾンビだなお前、ひとおもいに殺してやる。ありがたく思えよ」


 紅破が、右腕に炎を纏わせた。さっきの蒼い炎とは違う、純白の炎。おそらく殺してやるという言葉は誇張でも脅しでもなさそうだ。逃げるべきだろう。でも、俺の足は動かない。限界だったのかと言われると、違う。まだ俺は動くことができた。でも逃げたくなかった。


「大事な人傷つけようとした奴に、一発もかまさず終われるかよ」


 ただの意地。はたから見れば、そんなことで命を懸けるなと言われそうな、ただの意地に過ぎない。でも俺は、紅破になにもできないのは嫌だった。

 紅破が床を踏み込む、雷が落ちたような轟音が響き、すぐそばに、紅破が迫る。そしてそのまま、彼の右腕が、俺の腹部を貫いた。


「あ……がぁっ……」


 声にならないうめき声が、漏れ出た。勝ち誇ったように、紅破が笑みを浮かべている、ここしかない。俺は全力を右腕に込め、彼の顎を殴った。たった一発。でもその一撃は、確かに紅破を吹き飛ばした。腕が腹部から抜け、生暖かい液体が、そこから溢れ出る。だんだんと、俺の意識は朦朧としてきた。


「智君、智君しっかりして! 智君!」


 薄れゆく意識の中、桧並の声が俺の耳に響いていた。


 目を覚ました時、俺はベッドの上に居た。生きているのか。上半身を起こすと、濡れた布巾が落ちてきた。腹部に手を当て、穴を確かめる。そこには穴は開いていなかった。あの後、どうなったんだ?それとも、あれはただの夢だったのか……?


「智君、目覚ましたんだ……良かった……」


 桧並が俺に飛びつき、抱きしめてきた。どうやらあれは本当にあったことで間違いないようだ。


「桧並、痛い、痛いよ。落ち着いて。あの後どうなったか教えてくれる?」


 そう言うと桧並はハッとしたような顔をして、俺から離れた。


「ごめん、あれから三日も寝込んじゃったから心配で……それじゃあ、説明するよ」


 それからしばらく、俺は桧並からあの後の状況を聞いた。


「智君はね、自分のお腹の傷とか、顔とかも全部、自分で治しちゃったんだよ。でもその時に、能力を使うための体力、超力(エナ)っていうんだけど、それを使いすぎちゃったらしいの。そして気を失っちゃって、今に至るって感じだよ」


 どういうことだろうか。俺の能力は回復なんかの有能なものではない。それなのに俺が自分で治しただって? 意味が分からない。


「自分で治したって、それ、本当? 俺の能力、そんなのじゃなかったはずなんだけど」


 俺は困惑を隠しきれなかった。


「間違いないよ。だってあの時、智君のそばには誰も居なかったもの。私ができるのは物を創ることだけだから、治すことはできないもの」


 その顔に、嘘はなさそうだった。ならばと思い、桧並に手を出してもらう。その指はふやけ、血が滲んでいた。ずっと看病してくれていたようだ。彼女の手を握る。するとそれは温かい光に包まれ、桧並の指は完璧に治ってしまった。


「俺、回復も使えるのか。結構有能な能力になってるな……」


 俺は嬉しかった。この能力ならば、桧並を守るために役に立ちそうだ。少なくとも、何もなかったあの頃よりは。しかし、それと同時に困惑もしていた。能力は変わらない。これが第六感(ウシオディス)のルールだったはずだからだ。しかし、もう考えないことにした。俺は俺のやることをやるべきだろう。そのためには好都合だ。


「桧並、心配かけてごめんな。もう大丈夫だから」


 俺は、笑って見せた。桧並はそれを見て、安心したように、笑い返してくれた。


「そうだ、遅れちゃったけれど、誕生日おめでとう、智君」


 そう言う桧並は、黒い伊達眼鏡を俺に渡してきた。


「ありがとう、なんだけど、なんで伊達眼鏡なの?」


 素朴な疑問だ。別に俺は一度も眼鏡が欲しいとは言った覚えは無かった。


「えっとね、今回智君が気を失ったのって、超力(エナ)の使い過ぎだったでしょ。智君の能力、無意識のうちに、ずっと発動してるらしいから、使いすぎないように、抑制する眼鏡。私が作ったんだよ。」


 なるほど、と思った。彼女の気遣いが、すごく嬉しかった。そしてそんな簡単に作れるものなのかとも思った。俺も何か返そうと思ったが、断られてしまった。


「それよりも、早く完璧に治して学校行こ。それからだよ」


 そう言うと、桧並は部屋を出ていった。


「私のために怒ってくれてありがとう」


 そう言い残して。





 どうも、最近偏頭痛に悩まされし男、和水ゆわらです。愚者名乗る勇者、二話目でした。どうだったでしょうか。この作品の主人公、浅短智君ですが、本人も自覚している通り、能力はあまり強いとは言えません。そんな彼が必死こいて戦っていく様子を書く、というのがこの作品となっています。今回智君が戦った紅破君ですが、これからも何度か出てきます。どのように出てくるかは、お楽しみに。それでは、和水ゆわらでした。

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