どうも、『悪役令嬢』です。今から逆ざまぁします。
逆ざまぁで合ってる?
ねぇ、貴女はどうしてそんなに賢いのに、馬鹿なの?
はじめまして、ご機嫌よう。私、公爵令嬢で、目の前の女の子に『悪役令嬢』呼ばわりされました、ギーラ・ハラムと申します。
さて、この学園の卒業パーティーの場で、目の前で私の専属護衛騎士に押さえつけられている女の子。悔しそうにぎりっと唇を噛むから、口が血で滲んでいます。さっきまで私の婚約者…元婚約者、ガビー様と仲睦まじく微笑みあっていた姿はどこにもありません。ああ、もちろんガビー様もその隣で専属護衛騎士に押さえつけられていますわ。
「…なんで、こうなるのよ」
「貴女が私の婚約者を籠絡した結果でしょう?」
男爵令嬢、マルヤム・アルアズラー様。柔らかいウェーブをかけた、ストロベリーブロンドの髪。まるでピジョンブラットルビーのような紅い瞳。小さくて華奢な、守ってあげたくなるような庇護欲をそそる身体つき。私にはないもの全てを持つ女の子。
だけれどそれでも、彼女の犯した罪はけっして許されるものではありません。私の婚約者、ガビー・イルドラード元王太子殿下を籠絡し、この国に混乱を招こうとしたのですから。
「だから!それがおかしいのよ!なんで逆ハーレムルートを選んだのに、貴女は私をいじめもせずに、しかも隠しキャラの第一王子と仲良くお手手繋いでビーを王太子の座から引きずり下ろしてるのよ!その上私を拘束してこんな…卒業パーティーの場でビー共々断罪するなんて…逆でしょ!?おかしいのよ!おかしいじゃない!」
「それはこちらのセリフだ」
「ラーマ様、落ち着いてください」
私の肩を抱くこの方はカラーマ・イルドラード様。私の現婚約者で、この国の正しき王太子。
「我が馬鹿弟を籠絡したことも度し難いが、私の可愛いララを学園の卒業パーティーの場でありもしない虐めの犯人に仕立て上げようなどと…よくも思いついたものだ」
「ふふ。仕方がありませんわ。だって、私『悪役令嬢』だそうですもの」
「最近流行っている劇の影響でも受けたか?悪役令嬢などと…そんな役割をララに押し付けるためにこんなことをしでかしたのか」
そう、マルヤム様は私をこの学園の卒業パーティーの場で、濡れ衣を着せて断罪しようとしていたのです。そして、私の元婚約者、ガビー様もそれに合わせて私との婚約を破棄されようとしていました。しかし、それに気付いたラーマ様がその証拠と浮気の証拠を元に、国王陛下と王妃陛下のお許しの元、お二人…と、愉快な仲間達を断罪されたのです。そして、ガビー様の王太子位を剥奪し、ラーマ様が王太子となられました。ラーマ様は、『面倒くさいから』という衝撃的な理由で王太子位を自ら退いていましたが、こうなるとそうもいきません。繰り上げ?で王太子になられたのです。ついでに、婚約者も『大切に出来ないから』いませんでした。
「…っ!わかった!あんた転生者でしょ!だからこんな風に私を嵌められたのね!?」
「てんせいしゃ…?」
再び暴れるマルヤム様を護衛騎士が更に押さえつけます。転生者ってなにかしら?
「かまととぶってんじゃないわよ!あんたも転生者なんでしょ!?じゃなきゃおかしいのよ!あんたは悪役令嬢の筈なのに!こうして断罪されるのはあんたの筈なのに!」
いやだこの子、怖いわ。
「私が主人公なのに…!ちゃんと逆ハーレムルートを辿っていたのに…!あんたが!あんたのせいよ!」
気でも触れたのかしら?いやね。やっぱり『逆ハーレム』なんて悍ましいものを考える人とは相容れないわ。
「私は…っ!私はただ、乙女ゲームの世界に転生したから!一番幸せになれる逆ハーレムルートを選んで、辿って、その通りに行動しただけよ!」
「…。その、おとめげーむっていうのはなに?」
「だから!アクションブックみたいなものよ!本当に知らないわけ!?」
アクションブックとは私達貴族向けの遊べる本で、この選択肢を選ぶならこのページ、といった感じで読み進める本。
なるほど、つまりマルヤム様はアクションブックのような世界に転生したと思い込んで、その本の通りに物語を進めてきたのね?ようやくわかってきました。
「私はこんなアクションブックは知らないわ」
「嘘!」
「ええ…嘘と言われても…証明できるものもないし…」
困る。
「なら悪役令嬢を回避した理由はなによ!」
ええ…そんなの…。
「貴女を嫉妬で虐めるほど、ガビー様や他の愉快な仲間たち…ううん、えっと、他の皆様が魅力的じゃないから…かしら?」
それ以外に理由がない。
「…は?」
「私にとってはラーマ様以上の方はいなかったから。初恋なのよ」
「ちょっ…それこそ浮気じゃない!」
「そうだ!ララ、貴様僕というものがありながら!」
ガビー様がなんか喚いてるけど気にしません。
「馬鹿弟。確かに俺たちは初恋同士で両思いだが、俺とララは間違ってもお前らのように爛れた体の関係は持ってない」
「そんなのどうやって証明するのです!兄上!」
「あら、私、医者に診てもらっても構いませんわよ?それか、初夜の後ベットシーツの血の付いた部分だけ切って持って行って差し上げましょうか?」
「!?」
まあ、その頃にはガビー様は市井に落とされていて居場所もわからないかと思いますけれどもね。
「それと、マルヤム様。私、マルヤム様のお話を聞いて思ったのですけれど、多分バッドエンドの原因はマルヤム様本人ではないかしら?」
「…は?」
呆気にとられたマルヤム様。そんな顔も可愛らしくて羨ましいわ。
「だってね。アクションブックってこういう選択肢を選ぶよって、大体のストーリーが決まってるじゃない。でも、現実世界ではそんなこと有り得ないでしょう?」
私がマルヤム様に嫉妬しなかったように。私がマルヤム様を虐めなかったように。私が…ガビー様ではなくラーマ様を愛したように。
「マルヤム様のバッドエンドの原因は、ただ選択肢を間違えなければハッピーエンドに行けると思っていたマルヤム様の考えそのものなのよ」
「そんな…」
「いや、きっとララの言う通りだな。敗因はお前自身にある。マルヤム・アルアズラー」
「嘘…そんなの、嘘…」
「いいえ。ここは現実。アクションブックではないわ。いい加減に現実を見なさいな」
「…いやぁああああああ!」
マルヤム様は絶叫し、その美貌さえ変えてしまうほどの絶望の中で、ただただ泣いた。
「…どうして…こんなことに…私、どうなっちゃうの…?」
縋るように私を見つめるマルヤム様。
「…。私が、身分剥奪の上市井に落とされるだけで済むように嘆願書を提出したわ。王妃陛下は最後まで首を振っていたけれど、国王陛下が良しとしてくださったわ」
「え?」
「だって、マルヤム様のおかげで私、本当に好きな人と幸せになれるのだもの。国王陛下も、大切な息子を奪われたことは許せないけれど、それもガビー様の、ひいてはガビー様を次期後継者として育てたご自分のせいでもあるとお考えなの」
「じゃ、じゃあ、私、死ななくて済むの?」
「ええ。その代わり、ガビー様とお仲間さん達をしっかりと支えて差し上げて」
「…っ!」
そう。今この場で断罪されている全員が、貴族と王族。市井に落とされて生きていけるほどタフじゃない。この場で一番身分が低い、男爵令嬢のマルヤム様が頼りなのです。
「…わ、わかった。けど、けど、…いつか再び戻ってきて、今度こそあんたを『ざまぁ』してやるんだから!」
「その元気があれば大丈夫ね」
まあ無理でしょうけれど。
「さあ、罪人達を連れて行きなさい!」
私の鶴の一声でみんなが連れて行かれる。そして、私とラーマ様は手を取り合って…。
「そういうことで、王太子になった。皆、これからは王太子としてよろしく頼む」
「引き続き王太子の婚約者を続けることになりました、これからもよろしくお願い申し上げます」
(実際どう思ってるかはわからないけれど)みんなに祝福されて、婚約者同士になりました。幸せです。
もしよかったら完結済みの連載の方もよろしくお願い申し上げます*・゜゜・*:.。..。.:*・'(*´ω`*)'・*:.。. .。.:*・゜゜・*
あと、短編をまとめた「色々な愛の形、色々な恋の形」もよろしくお願い申し上げます・:*+.\(( °ω° ))/.:+