5_元の世界
僕は目が覚めた。鋭い朝日が窓から差し込む…こちらの世界だ。
突如、強烈な喉の渇きと空腹感に襲われた。セカイで食べ物も水も口にしていなかった反動が、世界に戻った時に来たのだろうか。頬に手を当ててみると、肉よりも骨を感じた。やつれていた。もしセカイでの眠気に逆らっていたら、こちらの世界の体はどうなっていたのだろうか…あまり想像しない方がいいだろう。
辺りを見渡すと、すぐそばにあるテーブルの上にライ麦パンと水が置かれていた。
コップを取ると、下に敷いてあった紙が落ちた。置き手紙だ。
―起きたらお食べ
かすれた声で、ありがとう、と感謝を呟く。
水を飲みきり、パンをくわえ、僕は起き上がった。眠気はない。部屋の扉を開けると、リビングの掃除をしていたおかあさんと目があった。おかあさんは柔らかく笑った。
「おかえり。何か食べる?」
「ただいま。スープがあったら欲しいな。」
おかあさんに笑みを返し、僕は椅子に腰掛ける。首にペンダントがぶら下がっていることに気づいた。
にんじんのいい香りがする。スープを温めてくれたようだ。
スープを口に運びながらも、セカイのことを考えてしまう。今どれくらい時間が過ぎているのだろう。ウルシとフフが最後になんて言ったんだろう。今の僕は、あのセカイでどうなっているんだろう。あのセカイの人間に会えるだろうか。
僕のことを見守っていたおかあさんが僕の隣に来た。少しだけ寂しそうな表情を浮かべて。
「まだ向こうでやり残していることがあるんでしょう。」
思わぬ言葉に戸惑った顔をしていたのかもしれない。おかあさんは僕の肩に手を置きながら続けた。
「向こうで何かあったんでしょう。あなたは優しい子、そして約束を守ろうとする子。それはおかあさんが一番分かっているわ。いってらっしゃい、おかあさんはここで待っているわ。」
おかあさんの言葉と手のあたたかさが伝わる。少しだけずっとこうしていたい気持ちを抑え、うなずく。
「ありがとうおかあさん。いってきます。」
ペンダントを握り締め、目を閉じ、念じる。セカイへ―
目を開けたとき、セカイへ戻ってきた。