3_ブラックエルフ
ブラックエルフの集落にいる男女は、ため息が出る程美しい漆黒の髪をしていた。僕は、一番髪の長いエルフに声をかけた。
「お話してもよろしいでしょうか?」と言いつつ、そういえばこのエルフたちとは言葉が通じないかもと、魔法を唱えようとした矢先、彼は口を開いた。
「久しぶりに聞いたな、この言葉。まさか3人目が現れるとは…。」
彼は目を細めて一瞬笑い、何かの魔法を唱えた後、僕に話しかけた。
「ようこそお越しくださいました。私はコク。あなたの名と、我らの集落へ来た目的を、教えてください。」
周りに漂う青い光や他のエルフたちの視線を気にしつつ、僕は質問に答えた。
「僕の名はアズマ。魔法を教わりに来ました。人が住んでいる所へ向かうので、いざという時のために知っておいた方がいいと思ったんです。」
「なるほど…言葉に嘘はないようですね。」
エルフたちの視線が柔らかいものになった。コクは僕に笑いかけると、少し背を伸ばし、語った。
「魔法書さえあれば、誰でも魔法を使えます。そして、我らはこのセカイの魔法書全てを管理する存在です。ただ1つだけを除いて。」
それ以外の魔法なら…とコクが紡ごうとした矢先、一人の少女が割って入ってきた。
「――――!――――――!」
恐らくエルフの言語で話しているのだろう。話している意味は分からなかったが、僕を快く思ってなさそうであった。
「――――――――――…」
コクが少女になだめるように語り掛ける。コクは僕に気づくと、少女に気付かれないよう魔法を唱えた。
「魔法を奪うつもりなのだろう?同じ肌をしたライトエルフのように!」
「落ち着けウルシ!フフが我らに会わせた存在であるぞ。魔法を奪うものであれば、会わせぬはずだ。」
コクが僕に唱えた魔法は、恐らく『ペーラ』のような翻訳魔法なのだろう。少女とコクの話が理解できるようになった。
「申し訳ないです。彼女…ウルシは人とライトエルフに魔法書を奪われて以来、そのものたちを信じれなくなっているのです。」
は、はぁ…。と僕はあいまいな相槌を打った。
このセカイには彼らのようなブラックエルフと、僕らのような肌の色をしているライトエルフが存在する。ブラックエルフが魔法書を管理するように、ライトエルフは魔法の秩序を管理する。このセカイで魔法が使えるように、唱えた魔法が暴走しないように、お互い支えあっている…おじいちゃんの本にはこう書かれていた。エルフ同士の仲は良く、ライトエルフは人と共に魔法書を奪うような存在ではなかったはずだ。
おじいちゃんがいない間に、何か変わったのかも知れない。
人と魔物の関係以外にも、変えなければならないこと、直さなければならないことがあるのだ。このセカイに住んでいるものを救うのにも、自分の身を異変から守るためにも、魔法を覚えたい。
「僕は人と魔物の関係を良くしたり、セカイで起こった異変を戻すために、こことは別の世界からここへ来ました。何とか、防御魔法だけでもいいです。教えてくれませんか?」
コクがウルシと呼んでいた少女の方を見る。ウルシは、ふっと息をつきながら僕たちに言った。
「教える必要はない。私がコイツについていく。」
「!?」
コクと僕を含め、周りのエルフも驚いた表情をした。一人のエルフが…親なのかもしれない…ウルシに話しかけた。
「信用できない人についていくというのか?それにウルシ、お前はまだ全ての魔法を知らないだろう。」
「魔法が奪われることに比べれば造作ない。コイツを監視する必要もあるだろう。それに…私はアレが使える。」
それなら、まぁ…いいが…とウルシに話しかけたエルフが余り納得していない表情をしながら答えた。ウルシは僕に向かって言った。
「おいアズマと言ったな。お前が言ったことに嘘がないのなら、私を連れてけ。」
僕一人で行わなければならないことに巻き込んでしまった。ウルシを守りつつ、役目を果たさなければならない。しかし、やるしかない…。
僕はウルシという信用してくれないエルフを連れて行くことになった。