1_別世界
おじいちゃんが死んだ。
死ぬ前に、僕にいつも持っていたペンダントを渡して……僕たち家族に見守ってもらいながら……おじいちゃんは死んだ。
ペンダントを渡してからおじいちゃんがどういう風に死んでしまったのか、家族がどんな行動をしたか、お葬式やお通屋はどうだったか、覚えていない。多分、それくらい、僕にとって、大好きなおじいちゃんの死、というのは重くて辛かったのかもしれない。
僕は、最期にもらったペンダントを見ながら、おじいちゃんが話してくれた「セカイ」のことを考えていた。
ペンダントは、透明だが暗い紫色をしていて、おじいちゃんが言っていたセカイがマモノのセカイであることを示しているようだった。
どれくらい経ったんだろうか。
いつものように、ペンダントを見ながらぼんやりしていると、ペンダントが黒く光った。思わず目をつむると、いつもの場所とは全然違う……まるでおじいちゃんが教えてくれた「セカイ」のような……場所にいた。
ふと、小さい頃の記憶がよぎった。
おじいちゃんを起こそうとしても全く目覚めず、もしかしてこのまま起きないのではないかと、この時の僕は大泣きしていた。
おかあさんが僕の頭をなでながら、優しく教えてくれた。
「おじいちゃんはね、とおくへりょこうにいってるの。たくさんおでかけして、つかれたらかえってくるわ。いまはかなしいかもしれないけど、おじいちゃんがおきたら、たのしいおはなしがきけるわよ。」
改めて辺りを見回す。目の前にいるのは……クロいのに、キヨらかさをカンじるソンザイ……あぁ、これは、このお方は、マモノのオウサマだ。
「私の力に応えてくれて、ありがとう。小さき者よ。」
オウサマの存在と声は、僕を落ち着かせてくれた。予想以上にかすれた声で「とんでもないです…」と返すと、オウサマは僕を呼んだ理由を教えてくれた。
「我らマモノを、人から守って欲しい。そして、このようなことを、人である、小さき貴方に頼む無礼を、どうか許してほしい。」
オウサマの言葉で、このセカイにも人がいること、そしてマモノと人との仲が良くないことを知った。
しかし、それならおじいちゃんはどうしてマモノの話をあんな楽しそうに話していた?
「人は、ある時を堺に我らマモノを殺し始めた。」
オウサマは僕の心を読んでいたかの如く、話を続けた。
「貴方と同じようにこの石から表れた者は、我らマモノに敵対することなく、我らマモノに知恵を授け、我らマモノは恵みを与えた。しかし、他の世界からやってきたであろう人は、我らマモノを敵とみなし、見つけたら話をするまでもなく襲いかかった。最後にあの者がこの石から表れた時、我らマモノの住処を守る『バリア』を創造してくれた。しかし、その『バリア』が破られそうなのだ。」
オウサマは、深くひざまずくと、僕に嘆願した。
「どうか、小さき者よ。お願いだ。我らマモノは争いを好まない。人とマモノを、これ以上傷つけることなく救ってほしい。お互いが争わなくてもいいセカイを造るため、人とマモノを和解させてほしいのだ。」
あぁ、オウサマは、本当に争いたくないのだろう。マモノというだけで、ずっと前から住んでいたにもかかわらず、敵対され、仲間のマモノも、仲間であってほしい人も傷ついていったのだろう。
敵を倒すとか、世界を統一するとか、そういうことより遥かに難しいだろうけど、やってみせよう。
「やってみせます、必ずや。」
オウサマのオーラが……緊張感が……ほぐれた。何度もありがとうと言い、僕のために、やれる限りの事をすべてやってみせると誓ってくれた。
オウサマは、ひと呼吸置くと、1冊の本のようなものを僕にくれた。
「その石から表れた者が、もし他の者が石から表れた時に渡してほしいと、遺していった物だ。我らマモノはそれが読めない。だから、貴方に託す。」
表紙が逆向きであったため、向きを直して開く。本の内容にも驚いたが、何より……
おじいちゃんが…書いた…本…。
僕は、ここでおじいちゃんが生きていた証があることを知った。それを手元におけるのがとてもうれしく、ありがたかった。
思わず溢れそうになった涙をこらえ、読み進め、改めて表紙を見る。表紙には「不殺を誓って」と記されていた。
僕は……僕も……不殺を誓った。